Act.9-353 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜オッサタルスァ王国革命・動〜 scene.2

<三人称全知視点>


「――ッ! 敵襲! 弓隊構えッ!!」


「空からの攻撃への迎撃準備を整えている……流石でございます。でも、全然足りないでございます!! 兎式トシキ雷鎚覇勁ライツイ・ハッケイ猛打衝メガバッシュでございます!!」


 一足先に砦に迫ったメアレイズは得物に聖属性の魔力と稲妻のように迸る膨大な覇王の霸気を纏わせた状態で勢いよく『神雷の崩砕戦鎚ヴィレ・トール・ドリュッケン・ミョルニル』を振り下ろした。

 ザーグ砦は確かに堅牢な要塞だった……が、流石に聖属性と覇王の霸気を纏ったメアレイズの一撃を耐えるほどの防御力は無かったようで、一撃で要塞の一部が粉砕され、その衝撃で無数の亀裂が要塞に走る。


 その亀裂を起点にザーグ砦は崩壊を開始し、無数の巨大な瓦礫となったザーグ砦は地上に向けて落下し始めた。

 当然、ザーグ砦の上層で弓矢を構えていた騎士達も足場の崩壊と同時に瓦礫と共に地上へと落下していく。


 狙いの定まらない空中では誰一人メアレイズに反撃を行うことはできず、そのまま地面に打ち付けられ、大半の者が命を落とした。中には瓦礫に体を刺し貫かれる、瓦礫に押し潰されるといった凄惨な死を経験した者もいる。

 運良く生き残った騎士達も落下の衝撃でかなりのダメージを負っていた。


「――ぐっ、なんとかカーネル様に襲撃のことを伝えなければ……」


「……敵陣に猛者の気配は皆無でしたが、やはり殲滅騎士団騎士団長カーネル=ミトフォルトは不在だったのですね。生き埋めになって命を落としていたら厄介な敵が減ったのに……サーレは残念でなりません」


「まあ、でも歯応えがないのもつまらないっス。生き埋めになっていなくて良かったってウチは思うっスよ。それじゃあ、騎士の皆様にはご退場頂くっス! まわれ、めぐり、めぐれや、水車みずぐるま! 劫火よ我が手で渦巻きて、円環を成して焼き尽くせ! 恒星と見紛う超爆発より生まれし礫よ! 灼熱の炎で焼き尽くせ! 超新星の裁きの炎礫スーパーノヴァ・ジャッジメントっス!」


 アルティナが上空に掌を向けると巨大な灼熱の業火球が生じた。

 アルティナが生み出した青く揺らめく火の玉を上空の業火球に投入すると、巨大な灼熱の業火球は青色に変化する。


 轟音とともに灼熱の業火球は爆発を引き起こし、無数の青い炎の礫が流星の如く瓦礫となったザーグ砦へと降り注ぐ。

 灼熱の業火球のいくつかはダメージを受けながらも何とか立ち上がり、地上に降り立ったメアレイズ達を突破してカーネルに状況を報告しに向かおうとしていた生き残りの騎士達に命中――その身体を一瞬にして焼き尽くした。


「ああっ……やっぱりこの魔法だと緻密に狙いを定めて敵だけに攻撃を当てるというのは無理だったみたいっスね」


 アルティナの放った無数の炎の礫は確かにザーグ砦の残る騎士達を全滅に追い込んだ。ここまでは良かったのだが、無差別攻撃と化した炎の礫は上空に居たトーマス、美姫、火憐、地上に居たメアレイズとサーレ、更にはアルティナ自身にも牙を剥いてしまった。


「制御できない魔法をぶっつけ本番で投入するなんて、理解不能でございます!! アルティナがまさかここまで阿呆だったなんて私も知らなかったでございます!!!」


「サーレは断固抗議します! 味方を巻き込む魔法はもう二度と使わないと約束するのです!」


「……アルティナ殿、流石に事前の断り無しに無差別攻撃を放つのは常識に欠けると思う」


「……危なかった……私、死ぬかと思ったわ」


「もし当たっていたら私もあの騎士達みたいに……恐ろしいわ」


 トーマス、美姫、火憐、アルティナは見気の未来視と紙躱で降り注ぐ炎の礫を回避、メアレイズとサーレは『神雷の崩砕戦鎚ヴィレ・トール・ドリュッケン・ミョルニル』と『暴風の撃鎚』で礫を粉砕し、全員無傷で炎の礫の雨から生還を果たしたが、事前に無差別攻撃を行う宣言をせずに無茶な攻撃を行ったアルティナには当然ながら批難が殺到し、流石のアルティナも涙目になった。……まあ、身から出た錆なのだが。


「先程の大魔法は味方への被害以外にも弊害を生じさせるものでしたね。先程の火球の出現で王宮の警備はかなり強固になったと諜報員から報告を受けました」


 瓦礫の山にトーマス達が降り立ったタイミングで音もなく姿を見せたシャルティアがアルティナにジト目を向けながら王宮の警備が強化されたことを報告する。


「……あっ、もしかしてウチ何かとんでもないことをやってしまったっスか?」


「『またオレ何かやっちゃいました?』ってテンプレ通りだと良い意味で周囲を驚愕させた時に使うものだけど、今回は完全に悪い方の意味よね。……これから王城に忍び込むのに警備強化って本当に大丈夫なのかしら?」


「どうせ王城は全て敵に回すんだ。遅かれ早かれ騒ぎは起きていた。……アルティナ殿、今回は殲滅騎士団が全員討伐の対象だった。さっきのはそれを理解した上での確信犯的な実験だったと私は考えている」


「いや、使えそうなタイミングだし折角だから新たな魔法を使ってみよう的な軽いノリだったっスけどね。まさか、自分や味方にまで被害があるとは想像もできなかったッス」


「……相当想像力が欠如しているとサーレは思うのです。あんな魔法使えば周りにも被害が出ることくらい子供にも想像が付くのです。……これだから能天気な快楽主義者は……」


「……まあいい、話を戻そう。王城の騎士の中にはまだやり直せる者も多い……と推定できる。討伐対象のみを的確に討ち、騎士達は基本的に気絶させる方針でここから先は向かいたい。まあ、当初の予定通りだな」


 「飛翔の天恵(モデル:鳳凰フェニックス)」の力を使って鳳凰フェニックスとなった火憐が一足先に王城に向けて飛び立ち、その後を追うようにメアレイズ、アルティナ、サーレ、美姫、シャルティアが空歩を駆使して上空へと舞い上がった。


青焔鳳凰撃ブルーブレイブバード!!」


 武装闘気を全身に纏った火憐は城の壁に直撃する直前に青と橙が混ざったような特殊な焔でできた翼を壁にぶつけて城内へと通路を作り上げた。


雷光走撃らいこうそうげき!!」


 その後を追うように「雷迅の天恵」の力を解放して全身を電気に変化させたシャルティアが雷の速度と俊身、神速闘気を組み合わせた高速移動で城内に突入する。


「火憐殿はキウェント王子の奪還に、シャルティア殿はフラーニャ王妃の元に向かった。さて、残るはオッサタルスァ王の解毒とグラシュダ、カーネルの兄弟の討伐か」


「薬は持っていますので、私がオッサタルスァ王の元に向かいます」


「では、残る我々は二手に分かれるべきだな……ということでアルティナ殿」


「う、ウチもメアレイズとサーレと一緒に行きたいっス!」


「アルティナ、さっきみたいな暴走をしてトーマス様に迷惑を掛けたら駄目でございますよ!!」


「久しぶりのメアレイズと合同任務、サーレは楽しみなのです」


 メアレイズとサーレはグラシュダのいると思われる摂政の執務室に向かい、空気を読んだトーマスにひょいっとお姫様抱っこをされてしまったアルティナは嫌がりながらもトーマスと共に城内を巡りつつカーネルを探すことになった。



氷結冷気アイシクル・コールド-ホワイトウィンド-!! はぁはぁ……殺さないように気をつけて冷気で動きを封じるのもなかなか大変ね」


 カーシャルの解毒を請け負った美姫は侵入者を排除すべく剣を構えた騎士達の足を「極寒の天恵」に氷魔法を融合した技で凍らせて動きを封じつつカーシャルの寝室を目指していた。


「さて……国王陛下の寝室はここかしら?」


「くっ、面妖な力を使う女! 国王陛下の命を奪う気か!!」


「私はオッサタルスァ王の命を奪いに来た暗殺者じゃないわ。解毒をしに来たのよ」


 カーシャルの寝室を守るように美姫の前に立ちはだかった騎士の足を氷漬けにして身動きを封じた美姫は騎士に睨まれながら寝室の鍵を氷で複製して開け、中に侵入する。


「解毒……だと!? 出鱈目なことを言うな!!」


「あら? 私の言葉が嘘だっていう証拠はあるの?」


「国王陛下を診察なされた侍医は陛下が毒に侵されている訳ではないと仰った」


「……金を積まれて偽の診察をするってこともあるんじゃないかしら? 私も聞いた話だけど、どうやら毒を盛ったのは……あっ、これ、言っちゃダメだったわね。とにかく、内部の犯行――それもオッサタルスァ王に近い者の犯行だもの。……貴方も少し考えれば思い当たるんじゃないかしら? オッサタルスァ王が倒れたことで最も得をしているのは誰なのか?」


「……まさか、グラシュダ摂政閣下が毒を……しかし。だが、近年のミトフォルト公爵家やミトフォルト公爵家に近い貴族へのあからさまな優遇、逆にミトフォルト公爵家以外への重税、このようなミトフォルト公爵家一強の時代はオッサタルスァ王が倒れてからのもの。……革命党の台頭も陛下がお倒れになる以前には見られなかったものだ。しかし、王妃殿下は国王陛下は愛しておられる。例え、摂政閣下が計画しても王妃殿下が身を挺して止めるのではないか?」


「……うーん、やっぱり専門家じゃないし、何の毒かはさっぱり分からないわ。とりあえず、『万能状態異常回復薬』と体力回復のために『神水』を飲ませて経過観察……だったわね」


 圓から手渡されていたストックから『万能状態異常回復薬』と『神水』を取り出し、順番にカーシャルの口に流し込む。

 最初は「陛下に毒を!?」などと美姫が毒を盛ったと勘違いして叫んでいた騎士だったが、カーシャルが「ゲホゴホ」とむせ返りながら目を覚ますとそれが誤った認識だったことに気づいたらしい。


「我は……」


「陛下!? お目覚めになられたのですね!?」


「ゼギン近衛騎士団長か。……我は一体……というより、何故足が凍っておるのだ?」


「この侵入者の女に凍らせられたのです!!」


「仕方ないじゃない。説得したって部屋に入れてもらえなかったもの。……というか、貴方が近衛騎士団長のゼギン=カシオペアだったのね。お初にお目にかかります、国王陛下。私は碓氷美姫と申します。海を越えた先にあるベーシックヘイム大陸より大陸にある国際互助組織、多種族同盟の臨時班の一員として『這い寄る混沌の蛇』という邪教徒の討伐及び、『這い寄る混沌の蛇』の毒牙に掛かった陛下の解毒のために参りました」


「どうやら我の知らぬ間に何か大きな騒動が起こっているようだな。……美姫殿だったな、申し訳ないがゼギンと共に状況を説明してもらいたい。それと、ゼギンの足の凍結を解除してもらえないかな?」


「勿論でございます、陛下」


 美姫はゼギンを凍結から解放した後、フラーニャが『這い寄る混沌の蛇』の信徒であることを隠しつつ王国内で起きている騒動についてカーシャルとゼギンに語り始めた。

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