Act.8-129 夕餉後、ローザの自室にて〜装備強化と〝実験〟〜 scene.2

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


 『太陽の湾曲刃サンストーン・ククリ』を統合アイテムストレージから取り出す。

 適合者はボクに置き換わっている。つまり、今回の件で神話級ゴッズは他者から奪えることが分かったということになるねぇ。

 まあ、ただ戦いに勝利することで武器が使用者を認めるのか、使用者の存在が消えたことで使用権が別の人に移ったのかは謎だけど。

 ただ、付喪神というものが関係するとなると、やっぱり武器自体に魂があって、その魂が所有者を選んでいるということがあるかもしれないねぇ。


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・落暉驟雨

▶︎短刀・秋霖と短刀・春霖が太陽の湾曲刃サンストーン・ククリや幻想級のミセリコルデ、ユニークシリーズのダガーの力を得て生まれ変わった夕暮れと俄雨の名前を冠する双短刀。


スキル:【刀身透明化】、【ー】、【ー】、【破壊成長】


【管理者鑑定】

分類:『異世界ユーニファイド』アイテム

レアリティ:神話級

付喪神度:99,999,999,999/99,999,999,999【該当者:ローザ】

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 素材には『太陽の湾曲刃サンストーン・ククリ』の他にボクが前世から愛用している「短刀・秋霖」、「短刀・春霖」という二つの短剣、そして幻想級のミセリコルデとユニークシリーズのダガーを使った。

 ……もしかしたら、使い込んだボクの武器を加えることで創世級ジェネシスになるのかもしれないと期待したけど、まあ、世の中そんなに甘くはないよねぇ。


 ……とりあえず、しばらく使って様子を見てみますか。もしかしたら、創世級ジェネシスの謎を解明できるかもしれないし。



 翌日、アルマに有給の報告をしてからいつものように王女宮筆頭侍女の執務室に向かったボクだったけど、執務を始めて一分もしないうちにオルゲルトに声を掛けられてすぐに離宮に向かうことになった。

 ……どうやら、統括侍女のノクトに託した手紙が効果を発揮したみたいだねぇ。

 しかし、こんなにも早くお声が掛かるとは思わなかったけど。


 一流の庭師の手入れが行き届いた、気品ある庭のテラスには王太后のビアンカと共にミランダの姿もあった。側には離宮の筆頭侍女を務めるニーフェの姿もある。


「久しぶりね、ローザさん。いつもプリムラの近況報告のお手紙を送ってくれてありがとう。なかなか面白いことになっているようね?」


 微笑むビアンカとミランダにカーテシーをしてから、ビアンカに促されて席に座る。

 ただの筆頭侍女が侍女姿で王太后様とお茶会で席を共にするって場違い感甚だしいけど大丈夫なのかな?


「ローザさん、いつもソフィスの近況を手紙で送ってくれてありがとう。あの子が王女宮の侍女とも打ち解けられているようで本当に良かったわ。これもローザさんのおかげね」


「私は何もしておりませんわ。ソフィス様が自ら一歩を踏み出す決意をなされた結果です」


「……本当にローザさんには感謝しているの。ソフィスの初めての友達になってくれて、ニルヴァス以外の心の支えになってくれたおかげでその一歩を踏み出せるようになったのよ? ところで、ソフィスっていい子だと思わないかしら?」


「ミランダ様、それはどういった意味での『いい子』なのでしょうか?」


 ……もしや、ミランダもフォルトナの正妃と側妃のようなこと考えていない? まあ、フォルトナの三王子に比べればまだ可能性はあるけどさ! ボクの一番は月紫さんだから!!


「……今回の件、私とミランダも是非協力させて頂きたいと思っているわ。でも、その前に確認しておきたいことがあるの。今回の件、ローザさんは誰のことを一番に考えているのかしら?」


「……レイン先輩の可愛がっているファンデッド子爵令嬢のためではないという訳では勿論ありませんが、彼女が主目的ではございません。陰ながらバルトロメオ王弟殿下とファンデッド子爵令嬢の仲を取り持とうと多少は手を打っていますが、やはりメインはレイン先輩です。彼女は幸せになる権利があると思いますが、このままでは互いにとって良くないでしょう。今回の件で、ヴェモンハルト殿下にはしっかりと決着をつけてもらいたいと思いますわ。束縛するなら束縛するで、きっちりと責任を取って頂きたいと思っております」


「ヴェモンハルトの態度はあまり宜しいものでは無いわね。良縁を結びたいと思って侍女になったレインも既に結婚適齢期を過ぎてしまっているし。彼女と結婚したい人は今も大勢いるけど、このままヴェモンハルトが変な形で独占していたらヴェモンハルトにとって便利な侍女のまま人生が終わってしまうわ。……今回は彼にとってもいい薬になるでしょう。あの子にガツンと言ってあげてね」


 これで王太后のお墨付きも得られたということか。……えっ、スサンナの件はいいのかって? ……あの人も同罪だけど、婚約者として直接の決定権はないし、罪には問えないんだよねぇ。優秀な彼女を手放したくないという気持ちは分からないでもないし。

 もっと上手く助言してくれればいいんだけど、あの人も興味があること以外はどうでもいいってタイプだからねぇ。天才って厄介だよねぇ。


「それで? 私とミランダはファンデッド子爵令嬢の社交会デビューのバックアップをすればいいということね?」


「ファンデッド子爵の汚名を注ぐためには何らかの後ろ盾が必要ですわ。王太后様の後ろ盾、そして貴族社会で高い影響力を持つミランダ様のお力があればファンデッド子爵の速やかな継承と汚名の払拭は可能だと考えております。……不自然なところもございますが、ファンデッド子爵は真面目に侍女として頑張ってきたお方でございますから、その頑張りをご存知だった王太后様がお力をお貸ししたという流れであれば問題はないかと思いますわ。勿論、それ相応のお礼はさせて頂くつもりでございます。……私にできることであれば、ですが」


「お礼なんて別にいいわよ? 私も何らかの形で貴女にお礼はしたいと思っていたし、本当は貴女にお礼をしたかったのだけど、今回の件のお手伝いでお力になれるのなら是非協力させて頂くわ。それに、貴女がそこまで興味を持つファンデッド子爵令嬢にも是非一度会ってみたいわ。貴女が協力したいと思ったってことは見所があるということなのでしょう?」


「そうですわね。……もし、私やシェルロッタがいない場合、王女宮筆頭侍女に適任なのは彼女だと思いますわ。残念ながら、レイン先輩は彼女のことを大切にしているので、王女宮の方に連れてくることはできませんでしたが」


 二人とも驚いているねぇ。……ボクって結構人を評価している方だと思っていたんだけど。

 とりあえず、これで王太后とミランダの協力は取り付けた。社交界の方は問題なさそうだねぇ。


「時期的にはプリムラの誕生パーティがいいかしら? ところで、当日ローザさんはどうするつもりなの? まだ社交界デビューまでは時間があるわよね?」


「当日はアネモネとして参加させて頂きたいと思っております。……アクアとディランが参加する以上、こちらも手を打っておかないと暴走してパーティを破壊しかねませんから」


「まあ、確かにあの二人は変なところで暴走してしまうわよね。でも、王女宮筆頭侍女が侍女として参加しなくてもいいのかしら?」


「そちらはシェルロッタに代理を任せようと思っておりますわ。姫さまへの誕生祝いはその日のパーティ終了後にさせて頂こうと思っております」


「……ところでいつまでその口調なのかしら? いつもの口調に戻してもいいのよ?」


「……この口調、似合ってないんですかねぇ?」


「何となく、貴女の性格を知っているから似合わないように感じてしまうのよね? それで、パーティの方はいいとして他の件はどうなっているの? 貴女のことだから問題ないとは思うのだけど。……流石に今日の今日に起こった情報は私の耳にも入らないわ」


「借金問題に関してはガネットに一芝居打ってもらうことになったので、ジリル商会経由で黒字になって返還される手筈になっているよ? 身の潔白の証明については天上の薔薇聖女神教団の教皇に話を通しておいたので問題なし。後はエスコート役ですが……バルトロメオ殿下がいいんじゃないかと個人的には思っています」


「……それは興味深いわね? どういうことかしら?」


「バルトロメオ殿下はファンデッド子爵と随分仲が良いですからねぇ。結構前から交流がある上に、本人も惹かれている様子だからねぇ……まさか、ボクがそのことに気づいているとは思っていないだろうけど」


「うふふ、流石はローザさんね。……遂にあの子にも春が来たということかしら? 分かったわ、バルトロメオにエスコートをさせる方向で話を進めておくわ」


「ありがとうございます」


 ……きっと驚くだろうなぁ、バルトロメオ。


「そうそう、話の順序が逆だったけど、貴女は一国の君主になったわ。私に敬語を使う必要はないから、今みたいな口調で気軽に話してくれれば良いから。……勿論、対外的な対応が求められる場面では今まで通り侍女と王太后という関係で話をしなければならないけど」


「……それでは、今後はボクの話し方でお話しさせて頂きましょう」


 その後、プリムラやソフィスの近況を二人を話したり、情報交換をしてから、ボクは王女宮筆頭侍女の執務室に戻った。

 さて、侍女としての仕事を始めますか……と思った時、メールが一通来ていることに気づいた。


 スティーリアの報告……案外早かったねぇ。それじゃあ、仕事終わりに確認して、今後どう動くか検討してみますか。

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