Act.8-118 フォルトナ=フィートランド連合王国建国前夜 scene.1 下

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ>


 約三十分後、オルパタータダとユリジェスが謁見の間に戻ってきた。


「オルパタータダ陛下から条件を聞いた。私個人としては今回の話はとてもいい条件だと感じているが、私の一存で決めることはできない。後日、貴族達を集めて意見を聞いた上で返答をさせて頂きたいと思っている。それで構わないな?」


「ああ、別に急ぐことじゃねぇよ。ゆっくり話し合って決めるといいさ」


 オルパタータダが提示したフォルトナ=フィートランド連合王国樹立による変化は以下の通り。


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一、以後フィートランド王国はフォルトナ王国の従属国となり、フィートランド王国の国王位は大公爵となる。フィートランド王国の統治は委任統治となり、各貴族の爵位は据え置きとなる。


二、オルレアン神教会を中心とする既存の枠組みから脱する。宗教の自由化を行い、個人のオルレアン神教会の信仰については認めることとする。これに伴い、オルレアン神教会を中心とする既存の枠組みとの国交は抹消するものの、鎖国は行わず、通商・国交の申し出のあった国についてはフォルトナ国王、フィートランド大公による話し合いで国交を結ぶかどうかを決める。


三、旧フォルトナ王国・旧フィートランド王国間の移動は自由とし、身分の確認等は行わない。また、両国間の転移に関してはその代金を無料とする。


四、旧フォルトナ王国、旧フィートランド王国の軍組織は両国への侵攻が行われた際に互いに互いの軍を派遣し、それぞれの国を守護する義務を持つ。また、国を破壊し得流災害級の敵との対峙を想定し、一月に一度は両軍の合同演習を行うことを義務とする。


五、両国の税は全て旧フォルトナ王国が徴収する。旧フォルトナ王国は旧フィートランド王国にフィートランド領を運営するための領運営費を支給し、その領運営費でフィートランド領の統治を行う。この領運営費は公平を期するためにフィートランド王国の年間予算のうち、最も多い金額を領運営費の最低額とする。また、足りない場合は追加の申請する必要があるが、この追加申請の際は旧フォルトナ王国での議会での審議の上、必要であると判断された場合は支払いを行う。


六、フォルトナ=フィートランド連合王国の樹立後、フォルトナ=フィートランド連合王国は多種族同盟に所属する。多種族同盟は種族、人種、性別等の理由による差別の撤廃を目指す組織であり、人間、亜人種族、魔族に対する差別や奴隷売買等は、これを認めないものとする。

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 つまり、フィートランド王国の形式を委任統治を変更、宗教の自由化、オルレアン神教会秩序からの脱退、両国軍協力関係の設定、税金徴収組織の変更、多種族同盟加盟などの内容が盛り込まれているということになるねぇ。

 ちなみに、フィートランド王国についてはあまりデメリットのある話ではないと思う。オルレアン神教会秩序からの脱退がネックかもしれないけど、一国同士の取引については認めているし、色々とフォルトナ王国側が主導権を握っているように見えて、ある程度これまでのフィートランド王国自治を認める形になっている。


 フィートランド王国側にとってのメリットは、非常時にフォルトナ王国の軍をアテにできること、海を超えた先にある多種族同盟諸国との通商や文化の摂取が可能になること、まあ、この辺りかな?


「んじゃ、そろそろ帰ろうぜ。あんまり長居していたら明日の仕事に差し障りがある」


「……ラインヴェルド陛下、なんか変なものでも食べた?」


「おい、ローザ。そりゃ流石に酷くねぇか? もうクソ面白いこともねぇだろうし、明日に備えて寝た方がいいだろ? フィートランド王国の加盟が済まないことにはオルレアン神教会の本丸に殴り込みにも行けないし。あっ、オルパタータダ! オルレアン教国に行く時は俺も絶対誘えよ! 絶対クソ面白いことになるから!」


「おう、任せとけ! ってことで、ローザ! 俺、ティアミリス、ジョナサン、ラインヴェルド、お前で時期になったらオルレアン教国に乗り込むから、その時はよろしくな!」


「……ラングドン先生もついていくんだけどねぇ。……ミレニアムさん、君はどうする?」


「つ……つ、ついて行くに決まっているでしょ!」


「よく言った! そう来なくっちゃな! 大丈夫だ! オルレアン教国と全面戦争になってもローザなら余裕で勝利できるから!」


 ガシガシと肩を叩くラインヴェルドに、ミレニアムさん涙目……ボクはオルレアン教国とは戦わないよ? 戦う必要があったら…….まあ、その時は割り切って戦うけど。

 その後、ボク達はブライトネス王国に戻った。ベルデクトとミッチェルはフィートランド王国に残り、『瑠璃色の影ラピスラズリ・シェイド』の面々と合流した時点で手渡したスマホでボクに連絡を入れてもらえる手筈になっている。連絡が来たら回収することになるけど、こっちも暫く掛かるだろうし、ペドレリーア大陸での用事はしばらく無さそうだねぇ。



 ラインヴェルド達を送り届けたボクはトーマスとミレニアムと共に三千世界の烏を殺して過去へと飛んでいた。

 発端となったのはトーマスから「ラングドン探偵事務所とこちら側の大陸のどこかの拠点を行き来できるようにしたい」と提案を受けたこと。確かに、ダイアモンド帝国に探偵事務所を構えておくとしても、こっちにも拠点は欲しいよねぇ。


 トーマスがゲームの中で担当するイェンドル王国のクーデター、グルーウォンス王国の革命などはトーマスがミレニアムと二人で解決するつもりらしい。

 どうせなら、誰も死なないように解決したいと聞いているから、トーマスには事件の真相や黒幕について全て説明してある。ただ、シナリオだと切っ掛けは依頼人で大体騒動が大きくなってから携わることになるから、当然、シナリオとは別の形で騒動に携わる必要がある。


 ……ちょっとした工夫が必要になりそうだねぇ。


 いずれにしてもこちら側の大陸での拠点は必要になる。

 そこでボクが提案したのはライヘンバッハ辺境伯領に別荘を持つことだった。


「ボクが個人で所有している屋敷もいくつかあるし、その中から好きなものを選んで見たらどうかな? 何か拘りがあるなら新しく建ててもいいけど」


「でも、屋敷をもらっても相応のお金が掛かるのですよね?」


「家具込みでタダで構わないよ? 勿論、内部に転移門を置くし、向こうで生活するならいらないかもしれないけど」


 広大なライヘンバッハ辺境伯領には大きく分けて牧場等の自然区、オフィス街兼商業区、比較的安価な一軒家が集まる居住区、多目的な用途で使える空白地帯の四つの区画がある。

 まだ居住者はいないけど、すぐに生活できるように家具等も全て設置されている状態で販売を始めている。


 ドゥンケルヴァルト公爵領はビオラ商会の支店を中心に貴族向けの邸宅やマンション、社宅用の建物が立ち並ぶ都市区画と昔ながらの村々が同居する都会と田舎が一体になったところだったけど、基本的には高級路線だった。

 マンションは比較的安価に住むことができるけど、一方で一軒家を持ちたいけど貴族の邸宅並みのものを買えないという人も多い。……マンションには防犯面やゴミ回収などのメリットがあるからどちらがいいかは一概に言えないけど、やっぱり一軒家は夢があるからねぇ。


 ライヘンバッハ辺境伯領をドゥンケルヴァルト公爵領とどう差別化を図るかと考えた時、こうした家具込みで比較的安価に一軒家を購入できて、誰でもすぐに新生活を始められるというのを売りにしてはどうかと考えたんだよねぇ。

 ビオラ商会で正式に売り出したら、結構問い合わせが来ているとのこと。マンションも少しずつ借りてや買い手が出ているみたいだし、他の事業に比べて好調とは言い難いけど、そろそろ軌道に乗ってくるんじゃないかな?


 まあ、利益云々もボクが能力で作り出しているから上物については実質無料だし、一軒でも購入してくれたら「ありがとうございます」なんだけどねぇ。


 ボクもいくつか必要になるかと思って建てた住居のいくつかをキープしておいたんだけど、今回トーマス達にプレゼントしようとしていたのはその中の一つ。


「どうかな?」


「本当に今からでも住めそうな家だな」


「これだけ揃っていてお安いって凄いですね」


「まあ、一人暮らしを始めたい初心者向けのセットというところもあるからねぇ。その代わり、家具のレベルは数段落ちるけど。でも、魔法発電機完備でオール電化、上下水道完備でお風呂も完備……まあ、十分暮らせるレベルではあると思うよ?」


「お風呂……って、共同浴場のようなものですよね? それって、個人で所有できるものなのですか?」


 ダイアモンド帝国には共同浴場があって庶民の憩いの場となっている。ただ、貴族はあまり入浴する習慣がないから、風呂に入るのはミレーユ姫くらいだと思う。

 ミレーユは共同浴場並みの風呂を王宮に持っているけどねぇ。あの子の風呂に対する執着は凄まじいから。


 ブライトネス王国やフォルトナ王国も似たようなもの。ただし、貴族は割と風呂を好んでいるところがあるから、個人で風呂を所有している貴族も多い。ただし、庶民は共同浴場を使うのが専らで、個人で風呂を持っている人は、まあ、一部の富豪に限られている。


 小さいとはいえ(普通のバスタブだけど)個人で風呂を持てるというのは、よくよく考えれば凄いことだよねぇ。

 ドゥンケルヴァルト公爵領の邸宅やマンションも風呂付きであることを押し出したらもう少し売れるかな?


「ミレニアム、こちらで生活した方が良さそうだな?」


「そうですね、こっちの方が色々と揃っていますし。見たことのない調理道具もありますが」


「あっ、電子レンジとか冷蔵庫とかの使い方なら購入と同時に手渡すことになっている冊子に書いてあるから大丈夫だと思うよ?」


 実際にそういった調理器具もラピスラズリ公爵家で提案してみたのだけど、温かいものは温かいうちに食べるべき、しっかりと貴族の調理器具で作った方が美味しい、と考えているジェイコブに電子レンジは悉く却下されたのはいい思い出……冷蔵庫は長期保存に便利だから採用されたけど。


「これを本当に無料でもらってもいいのか?」


「二人が気に入ったらねぇ」


「気に入りました! 今日から早速、ラングドン先生に手料理を振る舞いたいと思います!」


 二人も満足してくれたので、ラングドン探偵事務所と一軒家を結ぶ転移門を設置して、その後ラピスラズリ公爵家に戻った。

 さて、明日も仕事だし、ゆっくりと休まないとねぇ。

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