Act.8-93 王女宮での新生活と行儀見習いの貴族令嬢達 scene.4

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ>


 『飛空艇ラグナロク・ファルコン号』でラインヴェルド、オルパタータダ、アクア、ディラン、バルトロメオの五人と合流した後、ボク達はブライトネス王国に全移動してから解散し、ペドレリーア大陸探索の一日目は終了した。


 そして、二日目……あっ、王女宮筆頭侍女の二日目の方ねぇ。

 仕事は朝二時から――アーネスト経由で手渡した手紙の返事としてペドレリーア大陸探索を始める前にラインヴェルドから受け取っていた王城の全改装の要望書を元にリニューアルを開始。

 時間を止めて地下通路の拡張を行ったり、【万物創造】で作った調度品や家具を既存のものと入れ替えたり、老朽化しているところを修繕したり、新たに増築したり(内宮や外宮を中心にほぼ全ての宮に大なり小なり建物を増築した。新築だと第二王子殿下の研究棟と王宮大図書館棟、中央訓練場の三つかな? 王宮大図書館棟は元々あった王宮内部の図書館から本を運び出して移築して空いている本棚に本を補填し、代わりにその部屋は大小合わせて九つの多目的部屋に改装した)、とにかく様々な改良を行った。

 ……ってか、なんだよ国王陛下の新しい肖像画とか、王族全員が集合した新しい肖像画とか、王子殿下達と王女殿下の集合した新しい肖像画とか。それ、つまりボクに描けってことかな? 勿論描いたよ!? 描いてユグドラシルの額に入れて今の肖像画と差し替えたり、ラインヴェルドとヴェモンハルトの部屋にお送りしたり、古い肖像画を別のところに移転させたりで余計に仕事が増えたよ! ってか、第一王子殿下の部屋がストーカーの部屋みたいで怖かった……冗談、大して怖くはなかったけど、これちゃんと弟離れと妹離れができるのか心配になった。


 今回着工できなかった老朽化が相当進んでいる使用人寮は後日、荷物を運び出してもらった上で一から作り直すことになりそうだねぇ。

 ……まあ、一応依頼されていたから仮設使用人寮は建てておいたけど。


 内宮筆頭侍女のエーデリア=ドルガンハウル、外宮筆頭侍女のファレル=メディッシス、王子宮筆頭侍女のレイン=ローゼルハウト、後宮筆頭侍女のシエル=ホワイトリェル、離宮筆頭侍女のニーフェ=ホーリンクには各宮の新しい家具や調度品の一覧と図面を載せた青冊子を、統括侍女のノクト=エスハイムには王城全体の新しい家具や調度品の一覧と図面を載せた青冊子をそれぞれ枕元に置いておいたから混乱が起きることはないと思うけど……まあ、確実に別の意味で混乱するよねぇ。女性の部屋に侵入されている訳だし。


 この青冊子――表紙に青い薔薇が描かれているから『青薔薇本』なんて勝手に呼んでいるけど、この本はラインヴェルドの枕元と宰相の執務室の机の上にもそれぞれ置いてある。この二冊には金額欄も一緒に記されていて、その総額は勿論【万物創造】を使わなかった場合に掛かる費用で計算している。

 で、その総額は円換算で約百億円(絵画等の芸術品は除く)……うん、これ人件費含まれていないんだよ? まあ、地下とかも改造を加えたから相当な金額になるのは当然だよねぇ。


 勿論、王女宮改造と同じで対価は取らないことになっているから(アーネストだけじゃなくてあのラインヴェルドすら「払わないといけねぇだろ? で、いくらくらいになりそうだ?」とか言っていたけど、流石にズルをしている訳だからお金取れないからねぇ)、施工主・青薔薇の匠で金額はゼロという摩訶不思議な書類が今頃『青薔薇本』と共にアーネストの机の上で異彩を放っていることでしょう。


「おっ、早速耐震工事と老朽部分の修繕と増築とやってくれたみたいだな。事情を知らないヘンリー、ヴァン、それから侍女達と執事、下男達、文官勢も驚いていたみたいだぜ? あっ、統括侍女と王子宮筆頭侍女から『……王女宮筆頭侍女様、昨晩はお疲れ様でした』と労いの言葉を預かっているから伝えておくぜ? 二人とも呆れていたなぁ」


「……無茶苦茶な注文をしたどこぞのクソ陛下に、だよねぇ? というか、この時間にボクの部屋に来ていていいの? サボり?」


「思いっきりサボりだぜ? 後呆れていたのは俺にじゃなくてお前にだぞ? 流石にこれ一夜にして終わらせるとは誰も思っていなかったからな? ……本当にいいのか? 金取らなくても」


「お金は別にいいから。……ってか、各宮の筆頭侍女には冊子渡しておいたけど、やっぱり混乱が起きているのか。まあ、ちょっと変えたくらいで基本的に宮の作りは変えていないんだけど」


「大きく変わったのは図書館が無駄に増築されたのと、絵画の配置が変わったのと、新しい絵画が増えたのと、楽器が新調されていたのと、第二王子殿下の研究棟が増えていたのと……後なんだったっけ? あっ、ルクシアがお礼を伝えておいて欲しいってお願いしていたぜ。『最高の研究環境を整えてくださりありがとうございます』だそうだ」


「肝心なのを忘れているよ。中央訓練場――無法地帯の訓練場。特にどこぞのクソ陛下にはここで暴れてもらいたいものだねぇ。……ってか、サボったら探索に連れて行かないって言ったよねぇ? まさか忘れていないよねぇ?」


「まさか、俺はただお礼を伝えにきただけだよ。ああ、肝心なことを伝えるのがまだだったな。俺とバルトロメオ、ヴェモンハルト、ルクシア、ヘンリーにヴァン、プリムラが描かれていた肖像画、一枚のポスターみたいで格好良かったぜ!」


「そう言ってくれると嬉しいよ。ちなみに、裏には国王陛下、王弟殿下、アクア、大臣閣下、お父様、ヴェモンハルト殿下、スザンナ様が暴走してアーネスト様が発狂して、ミーフィリア様が呆れている絵を描いておいたから、これを見て反省してねぇ?」


「ん? そんな面白い絵を描いていたのか? ってか日常じゃね? まあクソ面白いからいいけど。後で見ておくぜ! しかし、お前の部屋も随分とお前らしくなったな。個人的には最高だと思うぜ? あっ、そのプリムラの肖像画、貰っていっていいか?」


「……ダメって言っても持って行くんでしょう? つくづく親バカだねぇ。まあ、止めても無駄だから持っていけばいいと思うよ? ちなみに題名は『天使の降臨』だからねぇ?」


「……お前も似たようなものじゃねぇか。プリムラのことを気に入ってくれたみたいだし、早速百合を愛でているようで良かったぜ。それじゃあ、俺はそろそろ帰らせてもらうぜ。文官達があたふたしているのは楽しいが、あまりふざけたことしているとどこかの王女宮筆頭侍女にキレられそうだからな」


「ボクは温厚だからキレたりしないけどねぇ? あっ、言い忘れていたことが一つあった。少しはカルナ王妃殿下に向き合ってあげて欲しいなぁと思って」


「ん? まあ、お前がそういうなら向き合うけどな。……何か気づいたのか?」


「気づいたけど、それが何かは教えないよ? こればかりは陛下自身に気づいてもらわないと意味がないからねぇ」


「そっか……なんだかまたお前を失望させてしまったみたいだな。分かった、親友の折角の忠告、無駄にしないと約束するぜ」



 王女宮筆頭侍女二日目の今日の仕事のメインは姫の護衛である白花騎士団のメンバーとの初顔合わせと、王女宮の料理人との顔合わせの二つ……両方とも昨日のうちに終わらせておくべきだったんだけど、まあ、一気にやるのも大変だと思って今日時間を作ってもらうことになった。


「失礼致します」


「失礼致しますわ」


 ソフィス経由で連絡を入れておいで良かったねぇ。

 やって来たのはジャンヌとフィネオ――王女宮最強の百合ップルだ。


「朝早くからお呼び立てして申し訳ございませんでした。お二人の肖像画が完成致しましたので、是非お二人にも見て頂きたいと思いまして」


 王女宮筆頭侍女の執務室についても昨日のうちにかなり模様替えを行った。

 壁には王女宮の侍女やメイド達一人ずつの絵が額に入れて飾られている……本当はここにプリムラの絵もあったんだけど、どこかの親バカ陛下に持って行かれちゃったからねぇ。

 丁度執務机の真後ろには侍女とメイド全員がプリムラと共に描かれている集合絵が飾られている。……ラインヴェルドはきっとこれを見てボクらしいなんて表現していたけど、まさかこの裏に百合薗グループの幹部全員の集合絵が描かれていることに気づいてボクらしいと表現した……訳じゃ流石にないよねぇ?


「大した画力がない上に一晩で仕上げたものですからあまり自慢できるものではありませんが……」


「ローザ様……失礼、筆頭侍女様はこれをお一人で、しかも昨晩だけで仕上げたのですか?」


「え、えぇ」


「素晴らしい絵ですわね。これほどまでに緻密に、そして美しく描写した絵は今まで見たことがありませんわ」


「もし気に入って頂けたのでしたらどうぞお持ちください。……実は今朝早く高貴な身分なお方がいらっしゃって、飾られていた絵を一枚持っていってしまわれたのです。一枚描き直すのも三枚描き直すのも一緒ですから、どうぞお持ちください。本日の仕事が終わってから仮設の使用人寮に戻る前にお寄りくださればそこでお渡しすることもできますし」


 内宮から使用人寮を使っている人は今夜中に荷物を仮設の使用人寮に運び込むように指示が出ている。二人も当然、ここに来る前にその指示を受けている筈だからねぇ。


「どうなさいますか? ジャンヌ」


「折角のご好意ですから遠慮なく頂戴したいと思います」


「そうそう、お伝えし忘れていましたがこの絵は裏にも別の絵が描かれています。ジャンヌ様の表の絵は黒百合を背景とした立ち絵、フィネオ様の表の絵は白百合を背景とした立ち絵ですが、ジャンヌ様の裏の絵は白い薔薇の咲き誇る庭を背景にお二人がお茶会を楽しむ姿、フィオネ様の裏の絵は月夜をバックに青い蝶が飛ぶ幻想的な光景を背景にしたお二人の絵となっておりますわ。どうぞ、お好きな方をお飾りください」


 ちなみに二人以外の絵も裏側の絵があるんだけど、カップリング絵があるのはジャンヌとフィネオ、プリムラの三つのみ。全部売れちゃったねぇ。

 ちなみに、プリムラのカップリング相手はボクじゃなくてシェルロッタだよ?

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