Act.8-75 アクアマリン伯爵家にて、美形兄妹とのお茶会(3) scene.1

<一人称視点・アネモネ>


 王女宮入りまで三週間、アクアマリン伯爵家でのお茶会まで後一日。

 アネモネの叙爵は今日から一週間後ということで、今日は一日フリーだねぇ。


 ということで、とりあえず本日の仕事を片付けてから久しぶりにドゥンケルヴァルト公爵領へ……まあ、ボクほとんど統治に関わっていないんだけど。


 ドゥンケルヴァルト公爵領はビオラ商会の支店を中心に貴族向けの邸宅やマンション、社宅用の建物が立ち並ぶ都市区画と昔ながらの村々が同居する都会と田舎が一体になったような土地だ。

 田舎といっても精霊式農法を導入した歴としたビオラ商会の収入源の一つになっていて、実際スパイス系を中心に様々なものが作られている。


 こっちの区画には醸造系の建物もある。時間魔法を使った時短醸造で安価なお酒を量産するって活用法だけどねぇ……ユグドラシルの樹液酒とかそういったものは貴重だから価値がある訳だからねぇ。量産はしない方がいいんだよ。

 灌漑設備もしっかりと整え、稲作もしている。……ブライトネス王国はパン食がメインだけど、米も食べられているからねぇ。とはいえ、本格的に作り始めたのはドゥンケルヴァルト公爵領からかな?


 今度は都市の方に目を向けてみる。

 この地に別荘を持つ貴族はごく僅かだけど、フォルトナ王国の貴族の中にはこの地に別荘を持つ者もいる。確か、オニキス、ファント、ファンマン、ポラリス、ジョゼフ、ミゲル、アルマンが購入していたっけ……アルマンは購入して最近ようやく結婚した妻と一緒に暮らしたかったみたいだけど、目論見は外れてなかなか仕事から解放されないみたいだねぇ。ってか、よく結婚できたねぇ、仕事漬けなのに。


 ということで、貴族向けの邸宅やマンションは需要がほとんどなくガラガラ……ラインヴェルドとかバルトロメオとかヴェモンハルトとかスザンナとかルクシアとか、ブライトネス王国勢がマンションの部屋を一室丸々購入していたりするけどそれくらい。まあ、みんな住むとこあるし、別荘って言っても見所はあんまりない、どっちかっていうとオフィス街ってイメージだからねぇ。大倭秋津洲で言うところの那古野みたいな?


「お久しぶりです、アネモネ会長。本日はどうなさいましたか?」


「お久しぶりです、ルイスさん。ごめんなさい、領主なのになかなか顔を見せられなくて。皆さんはお元気ですか?」


「はい、おかげさまで私達の生活も随分と楽になりました。……アネモネ様、本当に休まれていますか? モレッティ様がアネモネ様が一日も休まれず働き続けていると嘆いておられましたが」


「私はいいんですよ、せいぜい書類仕事ですから。自らの手で畑を耕したり、現場で仕事をしている皆様には本当に頭が下がります」


 たまに演技指導とかよく分からない仕事が降ってくるけど、基本的には好きなことして生きているだけだからねぇ。

 融資の面接とかも別に身を粉にして働いている訳じゃないし。


「本日はルイスさんにお願いがあって参りました。実はブライトネス王国とフォルトナ王国で叙爵することになりまして、新たにライヘンの森の領主になることが決まりました。……正式発表はもう暫く後になりますが。そこで、ビオラ商会からも何人か人員を割くことになりますが、領地経営の経験のあるルイスさん達にも何人かお手伝いをお願いしたいのです。ちなみに、先住民の魔物がいますから彼らと共同でお仕事をすることになります。若干働きたくないと希望している方もいますが、その方は放置で構いません」


「アネモネ様は魔物の一部と交流があることは存じています。危険なことはないことは分かっていますが……慣れるまで大変そうですね。ニートの話は聞かなかったことにします。ところで、具体的にどのような魔物と一緒に働くことになりそうですか?」


「牧場経営希望の瑪瑙という豚魔人帝オークエンペラーが一体、天職を求めている藍晶という犬狼牙帝コボルトエンペラーが一体ですね。他は傭兵や冒険者希望、服飾作りに興味を持っている方がいますが、服飾作りに興味を持っている轟鬼女帝オーガエンプレスの翡翠さんは服飾雑貨店『ビオラ』の一店舗を任せることが決まっているので、あまり交流はないと思います」


「牧場経営ですか?」


「はい、野菜を育て、食肉となる魔物や動物や卵などの副産物を取れる魔物や動物を飼育し、池で魚釣りをして、というどこかの牧場経営ゲームみたいな生活を送りたいそうで」


 適当にプレゼントしたあのゲームが原因かな? ……ビニールハウスは建てられても、中の天気は自在に変えられないし、付け替える太陽とかもないんだよ? 後、鉱山も近くにないからね! ピンクダイアモンドは掘り出せません。


「分かりました、何人か見繕っておこうと思います」


「ありがとうございます。決まりましたら、モレッティさんにお伝えください。よろしくお願いします」



<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト>


 翌日、ボクはアクアマリン伯爵家を訪れていた。

 ちなみに、今頃アメジスタは迷宮で教官殿エヴァンジェリンにビシバシ鍛えられている。……ジーノとヘレナにも暗殺術を教授してもらえることになったし、暫くは大変な修行の日々が続きそうだねぇ。


「お招きありがとう。……本当に手ぶらで良かったのかな?」


「ローザ様、今日は来てくれて本当にありがとうございます。早速ですが、ローザ様にプレゼントしたいものがあるんです! 一緒に来てくれますか!」


 嬉しそうな気持ちを隠しきれないソフィスと、そんなソフィスを微笑ましそうに見守るニルヴァス。

 二人の気持ちを蔑ろにしたくないから見気は使わない。


 二人に案内されたテラスには美しいホールケーキが置かれていた。


「ローザ様の誕生日会、ローザ様がもてなす側で大変そうにしていて……だから、私達で誕生日会を祝おうと計画したんです。料理長さんにお願いして七日で頑張ってケーキを作れるようになりました。美味しいといいのですが」


「嬉しいよ。ありがとうねぇ、ソフィスさん。ニルヴァスさんも」


 ケーキは美味しかったよ? 作った経験が本当に無かったみたいだから、凄く頑張ったんだろうねぇ。


「本当に申し訳ないねぇ、迷惑掛けっぱなしだねぇ」


「いえ、ローザさんにはいっぱい沢山のものを頂きましたから……それに」


「ん? どうしたの?」


「いえ……なんでもありませんわ」


 うーん、最近、ソフィスのボクに対する気持ちが親友のそれよりもっと別のものに変わってきつつあるんだよねぇ? あっ、自意識過剰とかじゃなくてねぇ。

 百合は好きなんだけど、百合に挟まる男には嫌悪感しかないし、ボクは割とグレーな上に月紫さん一筋だから相手を悲しませるような真似はしたくないんだけどなぁ。


「ところで、ローザ様は誕生日会を終えて貴族達に認知されましたが、お茶会に参加しないのですか?」


「あっ、お茶会ねぇ……実は何通も招待状をもらっているんですけどねぇ。最近忙しくて……それに、ニコニコ笑っている裏で他人の揚げ足取りをするお茶会はあんまり好きではないので」


 流行や噂話の渦中である社交界は実際重要な場所ではあるんだけど……ボクはあんまり好みじゃないからねぇ。

 正直力技で潰せるものは潰したいし、裏から手を回すならそんな回りくどい方法をしなくてもいくらでも方法はある。


 ……まあ、そんなことしていたから百合薗グループが一部界隈で恐れられるようになったんだけどねぇ。確かに、間違っちゃいないけど。


「まあ、行儀見習いが始まれば顔を合わせる機会も増えるでしょうし、大丈夫でしょう。ラピスラズリ公爵家の娘さんはお高く止まっているとか、そういう噂も流れているみたいですが、大した痛手でもありませんし……それよりも、もっと別の問題が色々と発生していますからね」


「そ、そんな噂が流れているのですかッ!? ローザ様は優しい方なのに!?」


「……確かに、ローザ様の陰口を叩く貴族は多いようですね。王族をパーティに招待し、貴族達からの招待を断る……舞台裏を知らない者達から傲慢な令嬢だと思われても仕方ないでしょう」


「まあ、実際はお父様とクソ陛下とその他一部が暴走した結果なんだけどねぇ。……挙げ句の果てに婚約者の決まっていない第三王子の婚約者を狙っているなんて根も葉もない噂も流れているし……だから、ボクは男と結ばれるつもりは更々ないって言っているのに」


「……だが、乙女ゲームだとローザ様はヘンリー殿下の婚約者になっていたのだろう? 実際、公爵家の令嬢であるローザ様は釣り合いが取れている」


「まあ、爵位的にはそうだねぇ。……でも、ラインヴェルド陛下にも婚約を結ぶ気は更々ないと伝えてあるし、陛下からも同意を得ているんだけど」


 だから確固たる繋がりを作るために王女宮筆頭侍女としてプリムラに仕えてもらいたいんだろう。

 別に形ある繋がりを作らなかったって、断罪されて国外追放にならない限りはこの国にいるつもりなんだけどなぁ。割と根ざしちゃったし。


「そうそう、ニルヴァス様にお願いがあったんだ。前々からだけど、ソフィス様が働き過ぎだって編集さんが嘆いていてねぇ。ソフィス様が仕事のし過ぎで倒れたなんてことになったら申し訳ないから、ニルヴァス様からもあまり頑張り過ぎないように言ってもらいたいんだけど」


「残念ながら、それはできないな。私はソフィスの気持ちを尊重したい。……それに、トーン貼りなどは手伝って負担を減らしているし、ソフィスも自分の体調は把握した上でやっているから大丈夫だ」


 ……あっ、トーン貼りとか手伝っているんだ? 思いっきり漫画の手伝いしているんだねぇ、意外。


「その言葉、そっくりそのまま返すぞ。ソフィスも心配している。ちゃんと自分の身体を自愛して働いてくれ」


「あっ、うん、大丈夫だよ? ボクのことは自分がよく分かっているから」


 最近だって三十回に一回くらいしか倒れてないからねぇ? 体調管理はバッチリだよ? 多分。

 まあ、ごくごくたまに、計算ミスって倒れることもあるけど。……ちょっと寝れば大丈夫だからねぇ。

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