Act.8-18 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。 scene.5 甲

<三人称全知視点>


 バトルロイヤルの大将選びには大きく二つの戦略がある。


 一つは防衛に重きを置くパターン。チームでも上位の実力者や参謀、地位が高い者を配置して守りを固める、或いは参謀を守るようにパーティメンバーを動かすというもので、ジーノのパーティやミスルトウのパーティなどがこれに当てはまる。

 バトルロイヤルは大将が撃破された時点で敗北が決定するのだから、大将の守護に重きを置いて戦闘を繰り広げるのは当然の傾向と言える。


 しかし、一方には主力メンバーをあえて大将に指名せず、攻撃に重きを置くパーティも存在する。

 ナトゥーフ達古代竜エンシェント・ドラゴンを最も低リスクで動かすために琉璃が大将を務める琉璃パーティや、元々纏りがないが故にここに暴れてくれることを期待し、安定感のある元中立派の猫人族の長イフィスを大将に据えたイフィスパーティ、アクア、ディラン、イリーナ、バルトロメオ、ソットマリーノ、プルウィア、ネーラ、ヴァルナーといったここの戦力の力を存分に生かすためにトネールが大将を買って出たトネールパーティ、オニキス達が暴れられるようにポラリスに大将を押し付けたポラリスパーティなどだ。


 細かく見れば、その思惑から更に分類できるこの攻撃的なパーティの中には今回の優勝候補であるエイミーンパーティも含まれていた。


「みんな、頑張ってくるのですよぉ〜」


 ポラリスが率いるパーティと同じく暴れたい強者が揃っているエイミーンのパーティはやむを得ず攻撃型にならざるを得なかったイフィスのパーティとは異なり、万が一大将戦に持ち込まれても対応できる強者、或いは秘策が用意されていた。

 ポラリスパーティであれば、【刺突の蒼騎士】ポラリス、トネールパーティであれば【雷将】トネール、琉璃パーティであればローザの使い魔琉璃に該当するそれは、エイミーンパーティでは究極の防御術式「第四防衛術式プリティヴィー・ムドラー」であった。


 エイミーンは「第四防衛術式プリティヴィー・ムドラー」を本陣に展開すると、「第四防衛術式プリティヴィー・ムドラー」を打ち破るほどの強敵の到来を期待しながら暇を潰し始めた。



 さて、全く協調性に欠ける(ローザという最強の壁を除けば)優勝候補筆頭であるエイミーンのパーティは、ラインヴェルド、オルパタータダ、レジーナとミーヤ、ヴェルディエ、ディグラン、バダヴァロート、ピトフューイ、カノープス、メネラオスとバラバラに行動を開始した。


 一方、ミスルトウのパーティはというと、確実に生存率を上げるため、メアレイズ・アルティナ・サーレ、ラーフェリア・メラルゥーナ・ヤオゼルド・ガルッテ、オルフェア・真月という三チームに分かれてそれぞれ三方向から行動を開始していた。

 各国の最高権力者達――『王の資質』を持つ猛者達相手に一人で戦っても勝ち目がないことは誰もが承知していた。それ故の、ミスルトウ、メアレイズ、アルティナ、サーレ、オルフェアが苦し紛れに下した作戦である。


 ミスルトウ達は運良く猛者と当たらずに敵の大将――エイミーンと対峙する機会に恵まれたらいいなという半ばヤケクソの希望的観測を込めてこの作戦を決行したのだが、当然そのように都合の良い展開になることはなく、三チームはそれぞれ森の三箇所でエイミーンパーティの猛者達と遭遇してしまうことになる。


 メアレイズ達はヴェルディエと、ラーフェリア達はディグランと、オルフェア達はレジーナとミーヤと……。


 第一回戦第四試合、ラインヴェルドとオルパタータダが共に「つまらなかった」と試合後に不満な感想を溢した戦いが幕を開ける。



「珍しい組み合わせだね。ローザさんのところの闇狼にユミル自由同盟の参謀の一人かい?」


 オルフェアと真月を発見したレジーナは『賢者の石と接骨木の杖フィロソファーズ・エルダーワンド』を油断なく構え、ミーヤはレジーナを守るように前に出て、触手を向ける。


 このミーヤもローザから贈られた先達結晶や進化輝石によって強化済みだ。


 名前NAME:ミーヤ

 種族SPECIES真祖の黒暴猫エルダー・クァール黒暴猫の女王クイーン・クァール、猫魈、猫娘

 所有owner:レジーナ

 HP:40,000,000

 MP:30,000,000

 STR:90,000,000

 DEX:10,000,000

 VIT:10,000,000

 MND:10,000,000

 INT:10,000,000

 AGI:40,000,000

 LUK:5,000,000

 CRI:40,000,000

 ▼


 新たに妖怪種族である三つの尻尾を持つ化け猫――猫魈と半妖種族である猫娘を獲得し、人間にも姿を変えられるようになったミーヤだが、肝心な戦闘能力の面では妖術が増え、真祖の黒暴猫エルダー・クァール黒暴猫の女王クイーン・クァールを手に入れたことで元々のクァールとしての能力も大きく向上していた。


 名前NAME:真月

 種族SPECIES聖霊スピリット使い魔マジックビースト地獄の黒妖犬ヘル・ハウンド、フェンリル、ティンダロスの大君主

 所有owner:リーリエ

 HP:50,000,000

 MP:50,000,000

 STR:60,000,000

 DEX:10,000,000

 VIT:10,000,000

 MND:60,000,000

 INT:10,000,000

 AGI:50,000,000

 LUK:8,000,000

 CRI:8,000,000


 一方、真月もまたこの五年の間にローザの従魔となったことで、従魔の恩恵を受けられるようになった。

 銀霊マグヌム・オプスによって引き起こされる『名付け』という名の大いなる業アルス・マグナによって生まれたことを示す聖霊スピリットという新たな種族を持つ真月はローザによって新たにフェンリルとティンダロスの大君主という新たな種族を得た。


 フェンリルは七禍魔王の一体、『北欧神話系』に属するレイド級の従魔・開陽のものと同じで、ティンダロスの大君主はミゼーアをはじめとするティンダロスの上位種だけが持つこちらもレイド級の種族だ。

 種族的に見れば真月の方が上に思えるが、ステータスにはそれほど大きな差は存在しないため、どちらが有利と一概にはいえない。


 そのミーヤと真月はオルフェアとレジーナが戦闘を開始する前に互いに互いが自分の倒すべきだと判断し、動き出した。


 ミーヤの二本の触手が高速で振われる。真月は『ワォン!!』と吠えると青黒い煙と闇の魔力が合わさったようなものへと変貌し、触手による攻撃を無力化して見せた。

 その青黒い煙は目にも止まらぬ速度でミーヤの背後へと回り込むと、再構成されて真月の姿へと変わり、「グラビティ・プレッシャー」を発動してミーヤを中心に超重力を発生させる。


 ティンダロスの大君主はティンダロスの猟犬の上位個体が持つ種族で、ティンダロスの猟犬と同様に鋭角を通じて移動する力を持つ。

 この転移能力には鋭角という制限があったが、真月は闇の使い魔が闇の魔力によって構成されていることを利用し、自身の身体をティンダロスの青白い煙と闇の魔力に分離した上で上手く再構成することでティンダロスの大君主の持つ移動能力を持ちながらも鋭角という制限から解き放たれることができた。


『ワォンッ!!』


 真月の遠吠えに呼応し、真月から放たれた青黒い煙が地面に吸い込まれると同時に青白い触手のようなものが生まれ、青い猛毒の液体によって校正された触手が一斉にミーヤへと襲い掛かる。

 ミーヤは無理矢理重力に抗って超重力域から脱すると、そのまま跳躍して触手を回避し、地上に降り立つと共に姿を変えた。


 ――三本の尻尾を持つ猫耳の黒髪の少女へと。


『ワォン、しぶといの! 真月は早く勝ってご主人様に目一杯褒めてもらいたいのッ!!』


『貴方もご主人様に良いところを見せたいとがんばっているのですね。私も、ご主人様――レジーナ様のために負けられないのです』


『ワォン? 君も真月と同じでご主人様に褒めてもらいたいんだね? でも、負けられないから……真月に勝ちを譲って!』


 真月の眼から炎が吹き出し、その炎が全身を覆った。

 灼熱の炎を纏った真月は自身の影へと飛び込むと、その影から無数の真月の分身を生じさせる。


 真月の影達は次々と黒髪の猫耳少女――ミーヤへと襲い掛かる。


『猫妖術・陰火連爆パイロキネシス・ウィルオウィスプ


 ミーヤの三つの尻尾から青白い炎が生じ、真月の影に次々と命中し、爆発していく。

 激しい光を伴った爆発に巻き込まれた影は蒸発し、三十体を超えていた真月の影も十回の爆発で全て消滅した。


『……どこに行ったのかしら?』


 しかし、真月の影達を撃破しても真月は一向に姿を現さない。

 影に潜ったまま姿を消した真月を警戒して地上や上空、周囲に隈なく気を配っていたミーヤだったが……。


『ワォンッ!!』


 真月はミーヤの予想を裏切り、二十方向から青黒い煙と闇の魔力として出現すると共に姿を形成して地に足をつけた。

 その全てが同時に口を開き、ブラックホールを生成――超圧縮極小重力天体マイクロブラックホールをほぼ同時にミーヤへと放つ。


『猫妖術・瞬間移動テレポーテーション


 ミーヤは超圧縮極小重力天体マイクロブラックホールが命中する寸前に自前の空間転移能力ではなく一切魔力反応の生じない妖術の瞬間移動で転移し、真月の攻撃を躱す。

 ミーヤの妖術は大倭秋津洲で超能力と呼ばれる力にプロセスこそ違うものの、かなり類似していた。テレパシー、予知、透視、念力、サイコメトリー、瞬間移動、念写、パイロキネシス、アポート……そういった超能力的な力であり、ユーニファイドの妖怪種族の有する変身能力は有さない。人型の姿になれるのはあくまで猫娘の種族特性によるものだ。


 超能力的な妖術で魔法に頼らない空間移動という脅威的な力を手に入れたミーヤは超圧縮極小重力天体マイクロブラックホールを躱すと真月達の一体に向けて攻撃を仕掛ける。

 真月は超圧縮極小重力天体マイクロブラックホールがミーヤの居た場所で激突した瞬間には一体に戻っており、ミーヤの攻撃を仕掛けようとした真月は再び青黒い煙と闇の魔力と化して消えてしまった。


『ワォン! 瞬間移動なんてびっくりしたよ! ……って、ご主人様が『黒い虐殺者ブラックデストロイヤー』は転移能力を持っているって言っていたっけ?』


『貴方こそ、まさか全く本体と遜色ない分身を生み出せるなんてびっくりしたわ』


 基本的に分身というものはどれだけ精巧に作り上げても本体に劣るものだ。

 仮に分裂といった方法を用いて同レベルの分身を作り上げようとしても、今度は分裂によって本体が弱体化してしまう。


 どの真月から放たれた超圧縮極小重力天体マイクロブラックホールも押し潰そうとする力が拮抗し、均等に互いに互いを押し潰そうとしながら超圧縮極小重力天体マイクロブラックホールが消滅していった。

 ならば威力が弱体化していたのかと問われると決してそうではない。

 完全にどの真月から放たれた超圧縮極小重力天体マイクロブラックホールも威力が弱体化しているとは思えないほどの威力を秘めていたのだ。


 ここから、ミーヤは全く本体と遜色ない分身を生み出す能力を持っていると推測していたのだが、真月はそれをあっさりと否定する。


『ワォン? さっきのは全て本物の真月だよ?』


 その真月の予想外のネタバラシにミーヤは衝撃を隠せない。

 言葉足らずの真月はそのカラクリを説明することはしなかったが、あえて説明すれば真月はティンダロスの大君主の持つ鋭角の時間の世界と行き来する能力を利用し、何度も時間遡上を実行――この時間遡上の能力を利用して同一時間上の時間遡行を何十、何百回と繰り返し、同一時間上に複数の自身を顕現して見せたのだ。


 後にローザが究極の時空魔法「三千世界の鴉を殺し-パラレル・エグジステンス・オン・ザ・セーム・タイム-」として完成させるそれは、時空魔法の副作用である時空を超えた者をタイムパラドクスから保護する効果、或いは曲線の世界の時間の影響を受けないというティンダロスの住人の性質が前提として存在しなければ成立しない、複数の自分という名の究極の軍隊を召喚する力なのである。


 ちなみに、時空を超えた者をタイムパラドクスから保護する効果とは同一時間上に同じ人間が二人以上存在した場合、対消滅を引き起こすという現象から時空を超えた者を保護する効果である。

 同一時間上に、例えば魂と肉体が合致したローザ・ラピスラズリという存在がいた場合は対消滅が発生する。転生などによってどちらかが不一致になればこの対消滅を回避することができるが、未来から過去へと移動した場合、全く同じ魂と肉体を持つ存在が二人存在するという状態が成立してしまう。

 しかし、時間移動系の時空魔法に無条件で組み込まれている時空を超えた者をタイムパラドクスから保護する効果によって、同一時間上に同じ人間が二人いた場合も移動した側をその時間以外からやってきた存在として定義することで対消滅を免れることができるのだ。


 ローザはこの理論を利用してこれから戦闘以外でも何十回、場合によっては何百回と同じ一日を繰り返す日々を送るようになり、ワーカーホリックを拗らせていくのだが、これが大好きなご主人様を更なる仕事地獄に落とすことになど、真月が気づく筈もなく……。


『ワォン!! これで決着をつけるよ! 燃え上がる魔狼ヴァナルガンド!!』


 再び焔を纏った真月が時間遡上を繰り返して何百、何千の真月となって一斉にミーヤへと攻撃を仕掛ける。

 その圧倒的な攻撃を前にミーヤは何一つ抵抗できないまま焼き尽くされ……。

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