Act.4-19 エルフの族長への謁見〜一種の差別主義者という視座から〜

<一人称視点・アネモネ>


「では、早速お話の方をさせて頂きます。今回は事情が複雑ですので、まずは私の方からいくつか前提となるお話をさせて頂き、その上でビオラ商会、ブライトネス王国双方から要望を述べさせて頂こうと思っております。その上でエイミーン様にはどれを受け入れ、どれを拒むかを決めて頂ければ幸いです。勿論、こちらはあくまで提案する立場にあり、最終決定権は全てエルフ側にありますので、私達の命を脅かさない限りは、例えこのまま話一つ聞くことなく私達にお引き取り願うことも含めて可能であることをまずはご留意ください」


「つまり、今回の件の最終決定権は全てこちらにあるということですね……でも、不思議なのですよぉ。私達にそんな権利を与えなくてもここまで来れた時点でいくらでも蹂躙は可能だと思うのですよぉ」


 まあ、そりゃ聞くよねぇ……ボクらが結界を突破してここまで辿り着いたということは、その時点でエルフの隠れ里の優位性は崩壊したということ。後は数の暴力で簡単に制圧することができる。人間はエルフよりも数が多いからねぇ……それに、この地に全てのエルフがいる訳じゃないから、全兵力を結集して迎え撃つということもできない。……まあ、ボクらも人間の全勢力って訳じゃないんだけど。


「私が一種の差別主義者であることは認めます。流石に万物――石や木、魔物などにまで人権があるとは言えませんから。本能で動くものの権利を尊重するというものは、残念ながらでき兼ねます。……私は権利の有無を知性と考えています。意思疎通ができるか、できないか。随分と人間中心的な考え方ではありますが、実際に意思疎通ができない者と交渉することはできませんからね。その理論に当てはめてみると、エルフは会話ができる存在であるということになります。その時点で、我々は同格です。いえ、人間、魔族、エルフ、ドワーフ、獣人、海棲族、意思疎通を図れる魔物、そしてまだ見ぬ種族――その全てが本来同格であると私は考えております。……エルフとしては許せませんか? 人間やドワーフと同格であるという考え方は。人間至上主義、エルフ至上主義、まあそういう考え方はありますが、そういうものに囚われて会話を放棄するのであれば、まあどうぞお好きなように。私も私のやりたいことを邪魔されなければ、それ以外は何を思って頂いても何も言わないというスタンスです」


「面白い人間なのですよぉ〜。わたしもぉ、差別なんてやっている暇があるなら、もっと別のことに有益に時間を使えって思うのですよぉ」


 やっぱり気が合いそうだねぇ……この族長。でも、気が合うかもしれないと思っていた陛下が実際は暴走列車で人使いが荒い人だったからなぁ……もしかして、ボクも人使いが荒いからかな? まあ、ボクの場合は効率を重視して結局自分で動いちゃうんだけど。


「では、私の方からいくつか前提となるお話をさせて頂きます。複雑なお話になりますので、分からないことがあれば私の話が終わった時点で質問してください。質疑応答の後、ビオラ商会商会長の立場から今回の使節団に参加した理由の方を説明させて頂きます」



<一人称視点・アネモネ>


 リーリエの姿になって若干驚かれたり、ローザとしての姿を見たエイミーンに抱擁されてマグノーリエに救出されるというアクシデントはあったけど、とにかくこの世界の真実や虚像の地球、その二つに関わるボク自身のことはカノープス達に話したものと寸分違わず伝えることはできた。


「驚きなのですよぉ……。でも、ありがとうなのですよぉ。おかげで、わたくし達は現状を知った上で今後どうするかを考えることができるのですよぉ」


「まあ、仮に人間がこの世界から消えたとしても他にも問題が山積みだからねぇ。ヨグ=ソトホートみたいな抗い難い脅威もある一方で、別の意味の脅威もある。例えば、MMORPG『Ancient Faerys On-line』の舞台妖精の国アールヴ・ヘイム。現状だと未確認だけど、異世界化でこの国が出現した場合、火妖精サラマンダー水妖精ウンディーネ風妖精シルフ木妖精ドリュアス土妖精ノーム闇妖精スプリガン光妖精アルヴ猫妖精ケットシー工匠妖精レプラコーンといった種族が新たに増えることになるねぇ。それから、『End of century on the moon』だとテラフォーミングによって移住可能になった月とSFのような超科学を持った人間。地下世界に目を向けると、『アンダーワールド・クエスト』の地底人の存在がある。……まあ、他にも可能性はあるんだけど割愛させてもらうよ。問題なのは、彼らと実際に交流する機会が生まれた時にどう対応するか。……となれば、その前に既存の問題に対処しておかなければならない。つまり、現状で確認できた人間、魔族、エルフ、ドワーフ、獣人、海棲族の意思の確認……今後、黙りを決め込んで鎖国を続けるのか、協力してこれから訪れるかもしれない脅威に抵抗するのか、それともいずれかがいずれかを支配下に置くのか……別に統一するかしないかは別として各々考えないといけないと思うんだよねぇ……今後の身の振り方を。ただ、あくまでボクはその脅威に対抗するために力を貸すのは吝かではないという立場。悪役令嬢として運命に抹殺されたら脅威に対処することもできないし、国から追放されたら助ける義理もないからねぇ。基本的にはボクが平々凡々に生きることができれば個人的にはそれで十分だから、他国の政治に姑みたいにとやかくいうつもりはないよ。ブライトネス王国の政治手法についてもねぇ」


 ちなみに、『アンダーワールド・クエスト』は高槻さんとタッグを組んだ第二作で、一人プレイ型で通信プレイでは最大四人のプレイヤーと冒険を楽しむことができる二人が共同で作った最初のConsole Game。


 主人公は「始まりの村」の村人Aという立ち位置で、ある日、井戸から現れた魔物によって地底世界の存在が明らかとなり、村の中ではぐれ者だった若い村人Aはその探索を村長から言い渡される。

 主人公は地底世界を歩いていく中で、地底人や地底人が崇める邪神で、地上世界の古い神話では天空の神とされているユラナスが地上を手に入れようと地上世界へと侵攻を企んでいること知る。

 三つのエンドが存在して、かつての天空の神ユラナスや地底人側につくという選択肢を選んだ場合、ラスボスは地上の神でかつてユラナスを追放した地母神ガイアとなる。一方、地上世界側として戦うことを選んだ場合、ラスボスは天空の神ユラナスとなる。どちらにもつかないという選択肢を選んだ場合はユラナスとガイアとの二連戦となり、最終的に世界の王となる。……世界の王になるルートが一番大変だけど、全部のエンディングを見たいって猛者は全ルートをプレイしたんだろうねぇ。


 買い物ができる店や体力の回復できる宿屋、蘇生や呪いを解ける教会は全て「始まりの村」にしか存在せず、地底世界の施設を利用することはできない。

 これまで他の村人から半ば村八分にしていた村人Aが持ち帰った宝物のおかげで村から街へとどんどん豪華になっていく……甘い汁を吸う中で掌を返したように態度を変える村人達は人間の醜さの体現で、主人公が地底世界につくという選択肢を持つことの切っ掛けとなったのかもしれないねぇ。


 村の発展度に応じて購入できるアイテムが異なってくるので、あまり無理をして冒険を進め過ぎず、定期的に地上世界に戻るのが推奨されている。

 魔物を倒した素材や金銀、宝物を売ることで資金を獲得できるが、アイテムを売却した場合、その二十パーセントが村に入るために八十パーセントの金額しか入手できないちょっと思い切ったルールが適用されている。これは、村人Aが冷遇されているということを如実に表すための描写だったんだけど、このシステムに対して社内でかなりの反感コメントが寄せられ、最終的に八十パーセントの額を予め表示することで解決したんだよねぇ……リアリティを追求したかったんだけど。


 キャラクターメイキングは前作――『Eternal Fairytale On-line』と同様に自由度を高めたシステムを採用していて、身長、体重、年齢、三サイズ、髪型、容貌に至るまで幅広く選択可能だけど、種族は当然ながら人間のみしか選択できない。


「ブライトネス王国はどのような方針を取る予定なのですかぁ?」


「さぁな? ただ、ラインヴェルドが全種族の力を結集して世界の変動に対処しようと考えているのはまず間違いないと思うぜ。……まあ、俺の個人的な考えでは、それでも対処は無理だと思うけどな。ローザ嬢にそっぽ向かれた日には、もう終わりだ。追放なんてした日には、もう全滅しか残されていないだろうぜ。ラインヴェルドも時空魔法を使える奴を探しているが、例え見つけたとしても時空の概念そのものみたいな神に勝てるとは思えねえ。勿論、だからと言ってローザ嬢に負んぶに抱っこじゃ、申し訳ないからな。各々が各々のできることをして、その上でローザ嬢に頼る。そうすれば、道が開けるんじゃねえか、と俺は思うんだけどな。だからと言って、協力しろって強要はしねえよ。人間だって一枚岩じゃねえんだ。うちの国の問題はラインヴェルドがなんとかするだろうし、フォルトナ教国も現体制のままなら尽力してくれるだろう。他にも小国がいくつか乱立しているが、その国々も説得すればなんとかなるだろうけども、問題はシャマシュ教国だ。あれに関しては、まあ説得は無理だろうな」


「シャマシュ教国にはバックに『SWORD & MAJIK ON-LINE』の狂神シャマシュもいるからねぇ。……まあ、化野さん――前世の家族には『好きにやって良い』って伝えたし、まあ、あの国は抜きで考えれば良いんじゃないかな? どうせ滅ぶんだし」


「…………相変わらずエゲツないな親友は。化野って前世で率いていたグループの幹部で、マッドサイエンティストなんだろ? そんな奴に好き勝手暴れさせたらどうなるんだ??」


「……さぁねぇ。どこまでの範囲が人体実験のモルモットになるか分からないけど、シャマシュ聖教教会の教皇や王家のエラルサ一族に関しては……まぁ、生存は無理なんじゃないかな? まだまともな奴もいたから多少の慈悲は……と思ったけど、召喚の責任の所在は王家だからねぇ。他には聖教教会の重役や信徒……もしかしたら、シャマシュ教国の全国民がってことも考えられるし、クラスメイトも含まれるかもしれない。正直手綱を手放した彼がどこまで使い潰すかは分からないけどねぇ。……でも、それは当然の報いだよねぇ? 彼らはボクらを召喚して魔族に嗾けて使い潰そうとしたんだから。勇者召喚を行うってことは、その結果召喚された勇者に叛逆されないようにしないといけない。それを怠ったんだから、滅ぶのは当然じゃない?」


 召喚した者達の日常を奪ったんだから、そりゃ叛逆されても仕方ないよねぇ。

 別に化野がやらなかったって誰かがあの国を倒そうと考えた筈だよ。それができなかったら飼い殺しにされて弄ばれるだけ……ただ、それだけの話だからねぇ。

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