Act.2-20 錬金術師のアイテムクリエーション scene.1

<一人称視点・ローザ=ラピスラズリ>


 幸い(?) 屋敷での被害は突然ラピスラズリ邸に降り立った古代竜エンシェント・ドラゴンを見て恐怖とショックで気絶したカトレヤ一人だった……けど、ここまで人目も憚らずに飛んできたんだから、間違いなく各地が騒ぎが起こっているよねぇ。


 ……まあ、今更揉み消すのは無理だし、その辺りはカノープスに丸投げしよう。カノープスなら裏から手を回して騒ぎを鎮静化させられ……るのかな? まあ、お手並み拝見というところだねぇ。


「わざわざここまで飛んでくるの大変だったよねぇ。何かあったの?」


『ううん。あれから穴の中から魔物は出現しなくなったよ。そのことを伝えたくて』


 律儀な古代竜エンシェント・ドラゴンさんだねぇ……。まあ、その結果騒ぎを起こしているのは、流石は無自覚って思うけど。


『それと……たまには遊びに来てもいいかな? 圓さんやみんなはボクの初めての友達だから』


「……古代竜エンシェント・ドラゴンさん。そう言ってもらえるのは嬉しい話だけど、次からは上空からじゃなくて人の姿で来てもらえないかな? ドラゴンが降り立つ貴族の屋敷というのは流石に目立ってしまうからね」


『……ごめんなさい。次からは気をつけるよ』


 そうそう、古代竜エンシェント・ドラゴンは結構抜けている天然さんだけど、ちゃんと言えば分かってもらえるんだよねぇ。……しかし、これ、傍目から見ていると人間カノープスドラゴン古代竜が平伏しているっていう倒錯した光景に見えるから、一歩間違えば誤解されてラピスラズリ公爵家が最も恐れる「悪目立ちする」っていう状況に陥るよねぇ。まあ、ここに第三者が入ってくることはないだろうし、ここには正しく状況を理解している人しかいないんだけど。


「ところで、古代竜エンシェント・ドラゴンさんって名前はないんだよねぇ? 正直、ボク達が友達なら名前で呼び合った方が親近感が湧くんだけど……まあ、名前ってその存在を固定してしまう最も短い呪いっていうから、今まで通り『吾輩は古代竜である。名前はまだ無い』っていう今のままで良いって言うなら無理強いはしないんだけどねぇ」


『……えっと、ボクに名前がないのは区別する必要が無かったからで、友達も居なかったから名前を持っている必要が無かったんだよ。でも、圓さんが付けてくれるのなら、お願いしたいな』


 意外な申し出……てっきり断ると思ったんだけどねぇ。

 しかし、言い出しっぺながら何も考えていなかったよ。


「そうだねぇ……ナトゥーフとか、どうかな?」


 紀元前12500年から紀元前9500年にかけてレバントに存在した亜旧石器文化、ナトゥーフ。……二億年前からドラゴネスト・マウンテンの周辺に棲みついている最古にして最強の竜種の一体だから、メソポタミアの古い文明の名前とかどうかなと思ったんだけど……あんまり響きは格好良くないか……アルゥ●イアみたい方が良かったかな?


『ナトゥーフ……ナトゥーフ! 今日からボクはナトゥーフって名乗るよ!』


 あっ、気に入ってもらえたんだ……コレデイイノカ感が半端ないけど、本人が気に入ったならそれでいいか。


「さて、お父様。今回の調査で、ダンジョンを一度攻略してしまえば内部の魔物が穴の外に出現することは無くなった。恐らくだけど、ダンジョンから魔物が溢れるのは客引きの意味があるんじゃないかな? 魔物が出てくるなら対処をしなければならない。ダンジョンは挑戦してもらわなければ意味がないからねぇ。でも、一度完全攻略されてしまえば客引きをする意味はなくなる。ほとんどの場合、そのダンジョンの情報が公開され、ダンジョンで手に入るものを目当てに人が集まってくるからねぇ。蟻が砂糖に群がるように」


「では、不思議のダンジョンを見つけ次第、精鋭の冒険者や騎士達にダンジョンに挑戦させ、それ以外の実力のない者はゲートウェイに近づかないように周知を徹底させるよう私の陛下に進言しておきましょう。ありがとう、流石は私の可愛い娘だ」


 全く……空恐ろしいよねぇ。笑顔を見せて娘に激甘な父親という表情をしながらも、心の底から愛しながらも、もし敵に回ろうというのなら容赦なく叩き潰すっていう破綻した性格。

 人を殺せもしない顔・・・・・・・・・で穏やかに笑いながら、敵対する者を皆殺しにする……ん? この笑顔、どこかで。


 ああ、そっか。ボクの笑顔にそっくりなんだ……ようやく腑に落ちたよ。

 テクストには著者の内面が宿る……というみたいだけど、【ブライトネス王家の裏の剣】にはボクの残酷なところが受け継がれているのかもしれないねぇ。或いは濃縮されているのかな?

 まあ、ボクが転生者だって知らなければ、カノープスの笑みが遺伝したなんて言われるかもしれないけど……。



 ナトゥーフを『全移動』で送り届けてから、ボクは自室に篭った。ちなみに、カノープスはナトゥーフの訪問で気絶したカトレヤのケアと、王族への報告、冒険者ギルドへ不思議のダンジョン情報を流すなどの仕事に追われている。……まあ、あの人に任せておけば万事上手く行きそうだからねぇ。お母様への説明を押し付ける形になったけど、まあ、カノープスならきっちり隠すことは隠して説明してくれるだろうし、大丈夫大丈夫。


 アカウントを切り替える……でも、今回は『Eternal Fairytale On-line』のアカウントではない。


 『不思議のダンジョン;ゲートウェイフロンティア』の登場人物――ブラン。

 野心家で強気なトレジャーハンターの少女で、機械の扱いに長け、拳銃に似た武器を扱う。アイテムの改造スキルを持ち、武器に属性を付与することが可能。また、アイテムの合成や分離により素材としたアイテムよりも高レベルや低レベルのアイテムを作り出すこともできる。……まあ、この世界の錬金術師が持っていない技術を使えるアカウントってことになるねぇ。


「さて……とりあえず、やってみますか」


 といっても、どうやってやるかさっぱり分からないのが実情なんだよねぇ。ゲーム時代は『改造』と『変換』、『合成』と『分離』が行えた。でも、どうやらブランに姿を変えてもウィンドウを開ける様子はないし……。


 とりあえず、試しにステータスを見てみようか。


 ブラン Lv99

HP 999/999 MP 999/999 AP 999/999

冒険家 ジョブLv.MAX

ジョブLv UP ----pt     Lv UP ----exp

Ability 改造Lv.MAX 変換Lv.MAX 合成Lv.MAX 分離Lv.MAX 銃技Lv.MAX

E 七星銃プレイアデス+150

E セブンスター・ベスト+150

E ロンズデーライトリング

E 天秤

E 合成釜/錬成棒

E 分離盤


 ……やっぱりカンストしているんだねぇ。そして、この程度じゃあ戦闘でメインを張るのは難しそうだ。

 こういう改造とか練金術とかをする時にアカウントを使う程度になりそうだねぇ。


 それじゃあ、さっそく装備品の鑑定から始めようかねぇ。


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七星銃プレイアデス+150…攻190。遠距離攻撃が可能になるプレイアデスの星が刻まれた拳銃。

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セブンスター・ベスト+150…防230。北斗七星の星々の意匠が施された美しいベスト。

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ロンズデーライトリング…防999、常時プロテクト付与。世界で二番目に硬い鉱石をあしらった指輪。

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天秤…『変換』を使用する際に必要な練金キッド。

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合成釜/錬成棒…『合成』を使用する際に必要な練金キッド。

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分離盤…『分離』を使用する際に必要な練金キッド。

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 鑑定の表示は『不思議のダンジョン;ゲートウェイフロンティア』のシステムのものを採用しているみたいだねぇ。

 しかし、天秤とかは初期装備か。まあ、ゲームの中には直接は登場せず、あくまでスキルを使う時にカットインで現れるアイテムっていう設定だったからねぇ。


 ……よし。


 統合アイテムストレージからアイテムを取り出す……この辺りでいいかな?


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・オリハルコン

▶︎アトランティスに存在すると言われている伝説の金属。 途轍もない強度と魔力親和性を誇る。

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・ミスリル

▶︎銀に似た輝きを持ち、「銅のように打ち伸ばすことができ、磨けばガラスのように光る。銀色に光るが、いつまでも曇ることが無い」と言われる伝説の金属。圧倒的な魔力親和性と魔力伝達力を誇る。

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・アダマンタイト

▶︎ひたすら硬く扱いが困難だが、加工する技術さえあればその圧倒的硬度を惜しみなく活用できると言われる伝説の金属。

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 金属は全て『Eternal Fairytale On-line』のものを選んだけど、異世界化してからは同名の金属は全て同性質とフレーバーテキストを持つようになったみたいだねぇ。

 まあ、大迷宮ダンジョンの下層で得られるオリハルコンやミスリルと、ボクの持っているオリハルコンやミスリルは同一のものということになるねぇ。


 それじゃあ……実際には試したことはないけど、自分の力を信じて試してみますか。


「【錬成】」


 ミスリルとオリハルコン、そしてアダマンタイトを融合して新たな金属を作り出す……うっ、なかなか上手くいってくれないねぇ。でも、負けないよッ!!

 そういえば、あの自称「本好きを拗らせた変態」もミスリルとオリハルコンを融合してオレイミスリルなる金属を生み出していたっけ? ならば、そこにアダマンタイトを加えたら一体どんなものができあがるんだろうねぇ!!


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・アトランタイト

▶︎オリハルコン、ミスリル、アダマンタイトの合金。幻の大陸アトランティスにのみその製法が存在したとされ、現在は製法が失われた超貴重金属。

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 でき……た。ボクも設定していない、オリジナルの合金。

 後は、このアトランタイトを天秤や合成釜/錬成棒、分離盤の金属部分に混ぜて……どうせなら貴重な木材系素材とかも使っちゃおう! 世界樹ユグドラシルの枝とか。


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・アトランタルの天秤

▶︎アトランタイトと世界樹ユグドラシルの枝を素材にして改良した天秤。扱いは製作級のため追加強化可能。『変換』を使用する際に必要な練金キッド。『変換』の成功率を80%底上げする。

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・アトランタルの合成釜/ユグドラシルの錬成棒

▶︎アトランタイトと世界樹ユグドラシルの枝を素材にして改良した合成釜と錬成棒。『合成』を使用する際に必要な練金キッド。『合成』の成功率を80%底上げする。

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・アトランタルの分離盤

▶︎アトランタイトを素材にして改良した分離盤。扱いは製作級のため追加強化可能。『分離』を使用する際に必要な練金キッド。『分離』の成功率を80%底上げする。

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 できちゃったねぇ……なるほど、扱いは『Eternal Fairytale On-line』のアイテムの区分けに従って製作級になるのか。……まだまだこの世界のことは分からないことだらけだし、色々と調べてどこにどのゲームのシステムが適用されているのかを確認しておいた方がいいかもしれないねぇ。


 さて、練金に必要なキッドも揃ったし、そろそろ本格的にスキルを試していきますか。

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