Act.1-10 ステータスプレートと無能者の烙印 scene.2

<三人称全知視点>


「全員確認できたか? それじゃあ、一つずつ説明していくぞ? まあ、名前とか年齢とか性別とかは説明がいらないだろうし、まずはレベルってのか説明するぞ。レベルってのは各ステータスの上昇と共に上がる指標的なもので、各ステータスの上昇と共に上がる。上限はレベル:99で、それがその人間の限界――潜在能力を全て発揮した極地を示す。ステータスの上昇値は人によって個人差があるし、元々のステータスにも個人差がある。その他のステータスの項目はまあ、そのままだな。傾向としては魔力が高い方がステータスの上昇率が高くなるみたいだが、その関係は残念ながら現時点では不明だ。ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔力系は魔法の使用により上昇していく」


 つまり、単純に魔物を殺せば経験値を獲得できるという御都合主義は存在しないということだろう。

 勿論、戦闘から「経験値」を獲得することはできるだろうが、それは戦闘で行った運動量や魔法使用量という言葉に変換できるのであって、「四天王を倒したからボーナスポイントあげちゃう!!」的なものはないということだろう。


「話を聞く限り、経験値が豊富に入った食材……例えば空飛ぶキャベツとかっていうのは無さそうだし、解毒不可能な猛毒を持つ魔物の肉を食べることで魔物の力を獲得する的なご都合主義はできなさそうだねぇ」


「そりゃ、魔物の肉だって普通に食べられるし、経験値の入った食材とかあるなら俺も食べたい。……というか、お前達の世界ではキャベツが空を飛ぶのか?」


「あくまでテンプレの話だからねぇ。気にすることはないよ。まあ、要するに単純に敏捷と体力を上げたいならフルマラソンとかアドベンチャーレースとかをやってとにかく身体をイジメ抜けって話だねぇ。三百名山制覇とか、大陸横断レースとか、エベレストやK2登頂を目指すのも効きそうだねぇ。……異世界なのに、主な鍛え方が某筋肉系桃色魔法少女が思いつきそうなものばかりってのがなんとも言えないけど」


※園村が挙げたものは、全て事前準備が必要不可欠なものばかりで、場合によっては死者が出ます。絶対に思いつきではやらないでください。分かっているとは思いますが。そして、基本的にその事前準備の方が身体を鍛えるという意味では効果がありそうです。


「園村君、一々発想がぶっ飛んでいますけど、どうしてそういう明らかに超上級者向けのものばかりを並べるんですか? そもそもまだマシだと思えるのがフルマラソンって……そもそも異世界に三百名山もエベレストやK2もありませんよ!!」


 真面目な顔をしてツッコミを入れてくる愛望に、園村は「遊び心というものが実はカケラも分かっていないタイプの大人だったんだねぇ。見た目は夢いっぱいそうなのに」と半眼を向け、愛ちゃん先生を守り隊に一斉に殺気を伴った視線を向けられた。


「次に天職と職業、副職業について説明するぞ。まず、天職ってのはその人の才能みたいなものだ。天職持ちはその天職の領分においては無類の才能を発揮する。まあ、技能欄を見ればいくつか技能が出ているが、それは要するにその天職で使えるほとんどの技術と思ってくれていい。この天職持ちは少なくてな。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系はまあ、ピンからキリまであるが、基本的に千人に一人から希少なもので十万人に一人、非戦闘系は百人に一人ってところだな。十人に一人って珍しいものもある。まあ、非戦闘系の天職はその職業をするのに必須って見方も多いからな」


「ピアノの調律師に絶対音感や相対音感が必須ってのと考え方は似ているみたいだねぇ。ただ、ボクの絶対音感はカウントされていないみたいだし、おそらくだけど元の世界で才能として持っていたものはカウントされないんじゃないかな?」


「まあ、確かにそうかもしれないな。勇者召喚ってのは今回が初めてだから、分からないことも多い。しかし……元々持っているポテンシャルが全てステータスに表記されないって可能性もあるのか」


 そして、この時園村が切り開いた可能性はこの異世界の根底すら揺るがすものになるのだが、騎士として一流のゴルベールに予想できるものではなかった。

 ただ、この時のゴルベールは「そういうこともあるんだな」とただ漠然と認識していただけだった。


「勿論、才能がないからって諦めることはない。職業って項目と副職業って項目があるだろう? それは、天職持ちに弟子入りしたことを示すものと、現在の職業的な意味での職業の二つを指し、それぞれの職業で簡単には無理だが、鍛錬に鍛錬を重ねて、更に才能があれば天職持ちよりは遥かに大変だが、技能を獲得できる。まあ、そういう話には誉高い勇者一行はならないと思うけどな」


 さらりとフラグを立てるゴルベール。まあ、既にステータスが明らかになっているのでフラグが立ったというのはおかしいのかもしれないが。


「それじゃあ、今から一人ずつステータスプレートを確認させてもらうからな」


 ゴルベールはそう言うと一人ずつステータスプレートを確認し始めた。

 やはり、テンプレ通りステータスが高かった曙光はゴルベールから称賛の言葉を受け取り、他の面々も高評価を受けていたの……だが。


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新宮寺愛望 27歳 女 レベル:1

天職:鑑定士 職業:ー 副職業:教師

筋力:10

体力:10

器用:10

耐久:10

敏捷:10

知力:190

精神:200

魔力:200

魔耐:200

運:10

魅力:300

戦闘系技能:ー

魔法系技能:ー

耐性技能:ー

感知技能:ー

職業系技能:鑑定…高速鑑定+複数鑑定+精密鑑定・教導

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 愛望のステータスを見て微妙な表情を浮かべ――。


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門無平和 32歳 男 レベル:1

天職:薬師 職業:ー 副職業:教師

筋力:10

体力:10

器用:10

耐久:10

敏捷:10

知力:2300000

精神:10

魔力:10

魔耐:10

運:10

魅力:290

戦闘系技能:ー

魔法系技能:ー

耐性技能:ー

感知技能:ー

職業系技能:調合…高速調合+連続調合+魔法薬調合・薬系鑑定…高速鑑定+複数鑑定+精密鑑定・薬草鑑定…高速鑑定+複数鑑定+精密鑑定・教導

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 平和のステータスプレートを見て渋い顔をして――。


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園村白翔 17歳 男 レベル:1

天職:錬金術師、書写師 職業:ー 副職業:ー

筋力:5

体力:5

器用:5

耐久:5

敏捷:5

知力:5

精神:5

魔力:5

魔耐:5

運:5

魅力:5

戦闘系技能:ー

魔法系技能:ー

耐性技能:ー

感知技能:鉱物感知

職業系技能:錬金術…鉱物系鑑定+精密錬成+高速錬成+複製錬成+圧縮錬成+自動錬成+鉱物分離+鉱物解体+鉱物融合+消費魔力減少・彫金…魔法陣刻印・紙作成…全種類紙生成+魔法紙作成、墨類作成…魔法墨作成・書術…高速書写+完全複製+契約書作成

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 そして、園村のステータスを見て完全にフリーズした。


「……とりあえず、確か愛望さんは勇者としては戦うつもりはないんだろ?」


「はい! そもそも、私は生徒達を戦わせるのに反対の立場です!! 当然、私も前線に立ちたくはありません!! 今回も無理矢理連れてこられた訳ですし!!!」


 ……どうやら愛ちゃん先生を守り隊にお姫様抱っこされて連れてこられたようだが……守り隊とは一体。そもそも、女性の部屋に突撃する時点でアウトである……まあ、突撃したのは流石に女子メンバーだけだったようだが。


「私もどちらかと言えば戦いには反対の立場です。そもそも、この世界のルールで戦うということ自体、性に合いません。もし、ステータスを無効にするような、上っている途中で梯子を外すような真似をされたらたまったものではありません。技能に頼るということは、その分、技能を失った時のリスクも増える訳ですから。まあ、全ての準備が整ったら魔族を殲滅することも吝かではありませんが、この魔法という力に頼り過ぎた科学力が中世レベルの世界で、かのジュリアス・ロバート・オッペンハイマー氏やエドワード・テラー氏、その仲間の科学者達のようなレベルまで達するのは至難の技であり、当然莫大な時間と費用が掛かることになるでしょうが。ただ、それに見合った力を必ずやご用意致しましょう」


 この場でただ一人、愛望だけが青い顔をして震えていた。

 ジュリアス・ロバート・オッペンハイマーやエドワード・テラー――「原爆の父」と「水爆の父」という惨い大量殺戮兵器を開発した狂科学者達を嬉々として素晴らしい科学者として語るその姿に、教育者には相応しくない狂気を感じ取っていたのだ。


 イケメンで信頼も厚い教師だが、異世界という場所を得たことで所々で狂気を覗かせるこの男が果たして何をしでかすのか。

 それに、生徒に危害が及ぶ可能性もある。愛望は最大級の警戒を平和に向けようと心に決めた。


「まあ、教師二人は別として園村――お前は魔族の討伐に参加するつもりでいたんだよな」


「…………まあ、そうですね」


 念のためステータスプレートを光に翳したり、昭和のブラウン管みたく叩いてみたり、思いっきり振りかぶって壁に投げつけてみたりするが、プレートに表示されている文字は全く変わらない。

 ゴルベールは予想外の事態に「さて、どうしたものか……」と言葉を選び始めた。

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