あなたをとりこにする魔法

波野留央

プロローグ

 いつもと同じ朝。――でも、いつもと何かが違う朝だった。

「ない!」

 起きてみたら、チョコレートの包みがなくなっていた。

 昨日のバレンタインデーに、告白しようと思って用意したチョコレート。自分できれいにラッピングした。緑色の包装紙に金のリボンを掛けて、赤い紙バッグに収めて――。

 それが、今、跡形もなく消えている。机にベッド、クローゼット、あちこち引っくり返しても見つからない。

 最後にどうしたんだっけ? 昨日、彼に渡そうとして、結局渡せなくて、鞄と一緒に持ち帰って、机の上に置いた――はず。

「まさか、盗まれた……?」

 ――ううん、決め付けるのはまだ早い。どこかに置き忘れたのかもしれない。落ち着いて。ちゃんと考えなくちゃ。「お前は本当に慌て者だ」って、また冷くんに叱られちゃう……。

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