第13話 西園寺とメイド


黒崎と別れた俺は家へと戻るとその扉の前に西園寺が体育座りで顔を埋めていた。帰って着替えた様子はなく制服のままここにいる。


「遅い」


そう言われスマホを確認すると時刻は19時。西園寺は18時から24時なので1時間過ぎてしまっていることになる。


「何で家知ってる」


こいつに家を教えた覚えは一切ない。俺はジト目で聞く。


「ゆうくんは記憶喪失」


西園寺は言葉に覇気がなく、落ち込んでいる様子だ。


「そうか」


もう何を言っても都合の良いように解釈されるので渋々認めるしかない。


「べ、別にゆうくんの後を追って、それで見失ったから家に来たわけじゃないから」


「.......」


「もしかしたらずっと来ないと思って落ち込んでいるわけじゃないから」


「.......」


「黒崎さんの家に泊まっているかもしれないってずっと、ずっと、考えていたわけじゃないから...」


俺はどう返答すれば分からなく「そうか」と呟くしか思いつかなかった。


「家上げて」


少し顔を上げ西園寺は小さく言う。


「.......」


「何で黙ってるのよ」


「だって部屋汚いから」


「ゆうくんのくせに女子みたいなこと言って、そこまで私が嫌い?」


「いや、そういう訳じゃない」


「だったら」


「わかった。部屋に入っても文句言うなよ?」


「うん。ありがと」


扉を開き、西園寺が部屋へと入る。すると「ゆうくん」と西園寺が口を開いた。


「私この部屋好き」


俺の部屋はと言うといわゆるヲタク部屋だ。周りにはアニメのタペストリーやポスター、フィギュアが飾らせており、本棚には漫画やラノベの数々。それで少し部屋に上がらせるのに抵抗があったのだが、西園寺が目を輝かせていることもあり、そんなものはなくなった。


「抵抗ないのか?」


「何でよ。抵抗するなんてあり得ない。だって私も好きだもん」


「そうなのか?」


「当たり前よ!私の推しは桜ちゃん!」


「マジか!俺も桜を推してるんだよ!これは話が弾む」


(何てね。私は全く興味がないし、アニメを見る気もしない。でも、ゆうくんがヲタクなら私もヲタクになるしかないんだ。ゆうくんが大好きなものは私も大好きにならないといけない。ずっとゆうくんを見てたんだから)


「私もゆうくんとたくさんお話したい!、、、って言うかゆうくんがどうしてもって言うから仕方なく話すのよ」


「そうだな」


照れ隠しでもしているのか西園寺は素直認めないらしい。


「うんっ!あ、、、後一つ気になっているんだけど、あの布団の膨らみは何?動いてるし怖いんだけど」


西園寺がベットへ指を指す。それは部屋に入ってきてからずっと気になっていたものだ。


「あぁ、俺も気になってた」


玄関に靴があるし、がさがさとベットが揺れる音もするし。


「ご主人様♡ご主人様♡ご主人様♡ご主人様♡ご主人様♡ご主人様♡ご主人様♡ご主人様♡ご主人様♡ご主人様♡ゆう様大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き♡」


布団の中でヤバい声がする。

そして、その声を聞いた西園寺は布団をめくる。


「ふ、ふざけないで!!」


そこに居たのはメイドだった。メイドはメイド姿のまま俺の枕の匂いやシーツの匂い、布団の匂いなど布団に蹲りながら嗅いでいた。服は乱れ下着や際どい所まで露出している。

西園寺はそのメイドの行為に見かねて声を荒げた。


「西園寺様。これはお見苦しい所をお見せしました」


「な、何やっているのよ!はしたないじゃない!」


「どこがでしょうか?これはご主人様と愛を感じられる行為です。そこにはしたないなどということはありません」


メイドはそう言いながらも荒い声を吐き続けていた。

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