第165話

 俺の言葉に、父親は眉間に皺を寄せて俺を見つめてくる。


「なるほど。アドリアン、お主の息子は立派に将来を見据えているようだがどうするのだ?」

「辺境白様。私は息子を危険な場所へ一人向かわせるのは反対です」

「ふむ……。それなら――、魔法師団長のアリサを連れていくのはどうだ?」

「魔法師団長殿をですか?」

「そうだ。エルフには森で生きていく上で木々と同調するための魔法が存在すると聞く。アリサは、ハーフエルフではあるが使うことが出来よう」

「……」


 父親は無言になってしまう。


「アルセス辺境伯様。同調の魔法とは?」


 俺は、そんな魔法を聞いたことがない。

 そもそも、俺はアリサには魔法を教わったのは攻撃魔法くらいなものだが……。


「同調の魔法というのは、森に上に住居を作る性質のエルフ達が木々にストレスを与えないようにと、木々の波長に自分達の波長を合わせる魔法のことだ。私も、詳しくはないが、それを使えば……。おそらく、アルス。お前と同じ存在となり城に入ることも可能になるであろう」

「――なるほど……」


 俺はアルセス辺境伯の言葉に頷く。

 たしかに同じ存在になれば、俺と……。

 ああ、そういうことか。

 だから、アリサを魔王城に案内したときに、俺にアリサが話しかけてきて魔王城に一緒に入ろうとした素振りを見せたのか。

 ただの好奇心だと思っていたが、まさか――、そんな意図があるとは思っても見なかった。

 正直、一度裏切った相手と一緒に魔王城に行くのは納得がいかない部分でもあるが、ここは大人になろう。


「お父さん、魔法師団長アリサ殿と一緒にいきます。ですから!」

「――だ、だが……」


 どうやら折れてはくれそうにない。

 なら――、切り札を使うしかないな。


「僕は自分のことを知りたいのです。もし反対されるようなら! 魔王が倒されても僕はシューバッハ領地を継ぎません!」

「なんだと……!?」

「ですから、魔王城に行く許可をください」

「……わかった。ライラには……、私から説明しておこう。ライラは絶対に反対するだろうからな」


 父親であるアドリアンが大きな溜息と共に納得してくれた。

 アドリアンから許可を貰った俺は、川辺で時間を潰していた。

 それは何故かと言うと、魔法師団は魔王城の城門に書かれていた文字を解読するためにアルセス辺境伯軍の陣地にはいないからだ。

 魔法師団長であるアリサも、魔法師団と共に出払っているから戻ってくるまで時間がかかる。

 それに、アルセス辺境伯と魔法師団長のアリサの間でも色々と俺に聞かれたくない内容があるはずだ。

 俺の予想どおり、川辺で待っていることを伝えたところ、二つ返事で許可を貰うことができた。


「それにしても、本当に俺の定位置になりつつあるよな……」


 大岩の上で寝転がりながら空を見上げていると、あの時のことが思い出される。

 俺が、魔王に殺される前に見た光景。

 それは、フィーナが殺された場面だ。

 その場面が頭の中でフラッシュバックする。

 それと同時に、フィーナの妹であるレイリアが今回は上手く行っているという記憶が思い出される。

 彼女は、何の意味を込めて俺に理由もなく自分は特別であると告げてきたのか、そこがずっと気になっている。

 ただ、あまり容態は良くないらしく俺が行くと余計な負担を掛けてしまうだろう。

 それなら、魔王城で何らかの情報を得るのも一つの手だ。

 多角的な方向から物事を見つめ直すのは、問題が起きたときの常套手段だから。


「アルスくん!」


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