第126話
――それでもフィーナは俺を信じてくれると言ってくれた。
だから俺は、また戦える。
そうじゃなかったら、俺は村を守るのではなく捨てるという選択肢をとっていただろう。
実際のところ、見たことが無い第三者がどうなろうと俺には関係ない。
――でも、それは……人として正しい選択肢なのだろうか?
動物としては正しい選択肢なのかも知れない。
でも、俺は人間であり、人という存在。
そして人は、動物とは違う。
何が違うと問われれば、大勢の人間が答えるだろう。
人間は道具を扱うことが出来る存在だったからだと。
……でも、俺は違うと思う。
地球で人類が、生物の頂点に君臨できたのは道具を扱うという一点ではないと思う。
それは、人類が何も持たない種族として生まれてきたからだと思う。
四足動物のように早く走ることも。
熊や虎のように強い力も。
魚のように早く泳ぐ能力も。
人類は持ち合わせていなかった。
だから、生き残るために知恵を磨いた。
そして知恵を磨くことで他人との相互理解方法を確立した。
それが言葉であり文字。
そして、それはコミュニケーションの設立と維持にも寄与した。
コミュニケーションが出来れば、他者が困っていれば助ける場面にも出くわすし助けると言う行為が、経験として蓄積されていく。
蓄積された経験は文字や言葉として次代へと引き継がれる。
そして引き継がれた経験は技術として伝えられ発展させられていく。
そうして、地球では生物の頂点に立てた。
――そう、人類が地球に存在する生物の頂点に立てたのは何のことはない。何も持たずに生まれてきたからだ。
何も持たずに生まれてきたから、臆病になり知恵を磨いたに過ぎない。
地球で人類が霊長類として頂点に立ったのは臆病だったからだ。
臆病だったからこそ、互いに協力し助け合い巨大な社会を作り上げることに成功した。
――だから、俺がすることはフィーナが俺を信じてくれたように、誰かを信じることではないだろうか?
「アルスくん、大丈夫?」
ずいぶんと考えこんでいたのだろう。
少女は――フィーナは心配そうな顔で俺を見てきていた。
俺は、「あ、大丈夫だ」としか言葉を返せなかったが、少女はにこりと微笑むと村へ戻っていった。
「モテモテね? あなたに好意があるようだけど?」
後ろに立っていたアリサが、俺の頭を撫でながら語りかけてくる。
言われなくても分かっているし、それと同時にフィーナは、俺が転生する前のアルスという少年に好意を抱いているということも。
「……俺には関係の無いことですから――」
「――そう……」
俺の返答に納得いかなかったのか、不機嫌そうな声色でアリサが答えてきたが、俺は、そのことについて特に思うことは無い。
フィーナが、過去のアルスに好意を抱いているのはいい。
でも、それは俺ではないし……。
――何より俺はフィーナを殺した。
だから、彼女には相応しくはないし人を殺した人間が、領主として領地を開拓するのも問題だとは思っている。
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