第97話

「はい? 何でしょうか?」


 俺はベッドの上で座ったままアリサさんの顔を見ると、彼女は、まっすぐに俺を見ながら「まさか……あなた、自分を犠牲にしてでも魔王を倒そうとしているわけじゃないわよね?」と、問いかけてきた。


 俺はすぐに頭を振るう。

 何故か知らないが肯定してしまったら話が拗れそうな気がしたからだ。 


「そんなことは考えていません。ただ、俺にかけられている時を巡る現象はきちんと調べておかないと思っただけです」


 俺のことを心配そうな顔色で見ていたアリサさんは、ホッとした表情を見せると「そう、それならいいけど――」と、言ったあと口を閉じる。

 しばらく、彼女は考えるそぶりを見せたあと、頭を左右に振りながら「同じ時間を繰り返すような魔法はきいたことないわね」と答えてきた。

 

「そうですか……」


 俺は、ほんの少し落胆した。

 ただ、それと同時に妙に納得してしまう。

 

「ほかに知りたいことはあるのかしら?」

「いえ……、それで魔法の練習は?」

「そうね、倒れたばかりで魔法を使うのは心身的に良くないから……」

「そうなのですか?」


 一刻の猶予もないのに、そんな理由で止められても困るんだが……。


「それにしても封印が精一杯の魔王を倒せるなんて、アルスくんは普通とは違うのよね?」

「普通とは違う?」

「そう、貴方は魔王を倒したことがあるのよね? その時は、どうやって倒したのかしら?」

「どうやって……」


 アリサさんの言葉を聞きながら俺は魔王を倒した魔法を考える。

 たしか魔王は夜に断末魔をあげた。

 同時刻に村全体に地震が発生したが……地震系の魔法は使った覚えがない。

 唯一、使った魔法というか……想像したのは一つだけ。

 それは成層圏から5メートルほどの隕石を落とす妄想。

 それが魔王を倒す切欠だとしたら……。


 ただ、俺は自分で狙ったとおり魔法を発動させたことがない。

 だから確実とは言えないが魔王の腹心である魔法王が俺のことを勇者と呼んでいた。

 そして俺が倒したとも――。


「たぶん、俺の魔法で倒せたと思います」

「――え!? アルスくんの魔法で魔王を倒せたの?」

「おそらくですが……」


 俺だって自信や確信を持って言えるわけではない。

 それでも魔法王を倒した時に感じた魔法発動時の全能感。

 その時に感じた思いは……。


「それでアルスくんは、魔法は誰に習ったの?」

「誰に……」


 名前は同じだが顔も声色もまったく別人のアリサさんが俺を見つめてきている。


「だって魔力を測ることは出来るけど、魔法の使い方は教わらないと分からないから、アルスくんのは魔法の師匠みたいな人がいるのよね?」


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