第50話
「お父さん。一体、何があったのですか?」
俺が、父親の名前を呼んだときに父親が悲痛な表情を見せたのが分かった。
でも、それが何故だか分からない。
「アルス、一つ聞きたい」
「はい?」
「お前は……誰だ?」
「――え?」
一瞬、父親が何を言ったのか理解できなかった。
どうして、そんなことを聞いてくるのか分からない。
「アルス?」
答えを躊躇していると、アリサ先生が、俺の名前を呼んできた。
その表情から読み取れるのは落胆?
俺は……何か答えを間違えた?
「どうして、僕は……」
俺は日本人の桜木優斗で、そしてアルスで……。
意識や記憶や知識が混ざりあった……。
深く考えてこなかった。
元の記憶や経験が、その人間を構成する領域だとしたら、それが混ざりあった自分というのは、どういうものだ?
「よく分かった」
父親は、俺と手を繋いでいたアリサの手を払うと俺の手を掴んで歩き始めた。
歩みがとても速い。
まったく子供のことを考えてない歩みで――。
「あなた! アルスがどうかしたの?」
母親が走ってくると、俺と父親の前に立ちふさがった。
「アリサ殿! 眠りの魔法を! これは辺境伯の命でもある!」
父親が、いつもとは違った威圧的な声色で、アリサに命令すると、数秒間、迷ったかと思うと母親が膝から崩れ落ちた。
「――なっ!? アリサ先生! どうして!?」
突然のことに俺は叫んだ。
俺の言葉を聞いたアリサが一瞬、何かを堪えるような表情をしたあと、俯いてしまう。
彼女が何も説明してくれない。
もしかして、先ほど俺を家から連れ出そうとしたことに関係しているのでは?
だけど――。
どうしてだ?
理解が追いつかない。
一体、何が起きている?
アリサの方を見ても、彼女は俯いたままで表情を見せてくれない。
ただ一つ分かったことは、辺境伯が関わっているということ。
そうじゃないと、整合性がつかなすぎる。
「ごめんなさい、ライラ。ごめんなさい、アルス……」
彼女は、俯いたまま謝罪の言葉を繰り返すだけ。
どうしてだ?
どうして、謝ってくる?
問いただそうとしたところで父親が俺の手を引っ張ってくる。
母親の横を通り過ぎようしたところで「アルス……」と、魔法で殆ど意識が無いというのに俺の名前を弱弱しく紡いできた。
「ここは……」
父親に連れてこられたのは川原だった。
そこは魔法の練習をしていたところ。
そして周りには円陣を組んでいる1000人以上もの兵士達。
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