災害時デマの発生メカニズム―3.11の事例を参考にして―

平中なごん

1 チェーンメールによるデマ

 3.11――2011年(平成23年)3月11日に発生した、東北太平洋岸から北関東にかけて未曾有の被害を及ぼし、さらには被災していない地域の人々も含め、日本全体、はては全世界規模でも大きな衝撃を与えた東日本大震災。


 その直接的な原因は最大マグニチュード9.0を記録した地震による揺れと、それによって引き起こされた一部では38.9mにまで達した大津波によるものであったが、それに続く福島原子力発電所の事故やそのための電力不足、あまり計画性があるとは言えない計画停電がより一層の心理的、経済的大混乱を招いたことも大きな要因である。


 また、地震発生後間もなくして、人々を混乱させたもう一つのものに「チェーンメール」と呼ばれる携帯電話やPCのEメールを媒体として流布されたデマゴギーがある。


 かく言う私のもとにも当年3月13日に友人から送られて来たので、それを一つ例に紹介しよう。




(原文)

コスモ石油関係者より連絡

コスモ石油の爆発により有害物質を含んだ雨が降るので外に出る時は肌を露出せず傘やカッパを持ち歩くようにとの事でした。知り合いに回して下さいとの事でした。




 「コスモ石油の爆発」とは、当時、紅蓮の業火が夜の闇を焦がす光景がテレビでも大きく報じられたコスモ石油千葉製油所のことであろう。


 だが、実際に爆発したのはLPガスのタンクであり、有害物質が飛散した訳ではないし、そもそも千葉から遠く離れた著者在住の長野県松本市にまで飛んでくる規模となれば、もう首都圏は壊滅状態だろう。


 どう見てもその手のメールに見えたし、ツッコミ所も満載なので、私はその旨を友人に伝えて注意したが、その友人は共通の東京に住む友人からこのメールをもらい、本当のことと信じて私達地元の友人数名に転送したのだという。


 これと同内容のチェーンメールはなかなかの人気を博して広く流布したらしく、きっと同じようにして拡散していったに違いない。


 一方、関西の方では別のモチーフのものが出回っていたようだ。


 こちらは兵庫県に住むまた違う友人のもとに当年3月12日に届いたメールで、電話で話した折に偶然、チェーンメールの話題となり、その頃、著者は民俗学研究の活動をしていたので「要るなら送ろうか?」と転送してくれたものである。




(原文)

 関西電力で働いている友達からのお願いなのですが、本日18時以降関東の電気の備蓄が底をつくらしく、中部電力や関西電力からも送電を行うらしいです。一人が少しの節電をするだけで、関東の方の携帯が充電を出来て情報を得たり、病院にいる方が医療機器を使えるようになり救われます!こんなことくらいしか関西に住む僕たちには、祈る以外の行動として出来ないです! このメールをできるだけ多くの方に送信をお願い致します! よろしくお願い致します。




 後になって同じような内容のメールが松本周辺でも広まっていたのを知ったが、無論、発電所で作られている交流電力は備蓄などできないし(できていたら苦労しない。直流に変えて備蓄することは可能だが、それも非効率で現実的ではない)、ご存じのように東京電力では50ヘルツなのに対して、中部電力、関西電力は60ヘルツと周波数が異なり、送電するには変電所で一旦、直流電力に変えた後に同じ周波数に変換する必要がある。


 そして、現在ある三つの周波数変換所をもってしても不足分1000万キロワットには程遠い上限100万キロワットを超える送電をすることができないから、東京電力管区で大規模停電の恐れがあるのだ(註1)。


 間違うことなき、正真正銘、デマのチェーンメールである。

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