第41話 二つの戦い
カルーナは、プラチナスと引き続き酒場内で対峙していた。
「……どうやら、君を侮ってしまったようだ」
「何が言いたいの……?」
プラチナスは構えながら、カルーナに話しかけてきた。
「魔法使いには、私に有効打がないと思っていたが、それは間違いだったようだ」
「そ、それはどうも……」
プラチナスは、すごく真摯な態度でそう言ってきた。これには、カルーナも思わず萎縮してしまった。敵であるというのに、なんとも丁寧な男だった。
「ここからは、君を侮れないと約束しよう」
「それは嫌だけど……」
そう言いながら、プラチナスは剣を構えた。
「
「くっ!」
剣から、白金の闘気が放たれた。
カルーナは、逃げながらカウンターの中に入る。
「よし……」
カルーナはカウンターを物色し、近場にある酒の入った瓶を手に取った。
「えい!」
「何っ?」
さらに、カルーナはそれをプラチナス目がけて投げつけた。
「どういう意図か読めないが……躱させてもらう」
プラチナスは、酒瓶から逃れるように後ろに下がった。受けることも、切り裂くこともできたが、カルーナの意図がわからない以上、迂闊な行動をとりたくなかったからだ。
そして、直後にそれは間違いであったと気づく。
「いない……!」
プラチナスが身を躱した隙に、カルーナは、店の奥に消えていった。
酒瓶は単純な囮であり、逃げるための時間稼ぎに過ぎなかったのだ。侮らないというプラチナスの思考を、利用される形になってしまっていた。
「だが、それはやはり侮れないということ……」
プラチナスはカルーナを追いかけていくのだった。
◇
カルーナは既に酒場から出て、走っていた。
とにかく今は、ある場所に行きたかった。
後方から、プラチナスが追いかけてきているが、幸いにも足はそれ程速くなかった。
「あった!」
そして、カルーナの目的地が見えてきた。
カルーナは扉を蹴破り、そこに入った。すぐに、プラチナスもそれに続いてきた。
「ほう……武器屋か」
「……そうだよ」
プラチナスは周囲を見渡しながら、そう呟いた。
「確かに、ここなら武器が豊富にある。だが、何をするつもりなんだ?」
「それを私が言う訳ないよ……」
「そうだろう。ならば、私のやることは一つだ」
プラチナスは再び剣を構えながら、叫んだ。
「
「くっ!」
カルーナはその攻撃を躱しながら、ここに来た目的を実行する。
「
「むっ!
魔法が放たれたのを認識して、プラチナスは魔法を反射する態勢になった。
火球が着弾し、カルーナの方へ跳ね返ってくる。
「くっ!」
カルーナは、それを躱して、店の奥の方へ逃げていく。
「……はっ!」
そして、プラチナスも気づいた。カルーナ後ろにあったものが何かを。
「爆弾か!」
プラチナスは急いで、この場から離れることにした。
カルーナは、既に逃げている。最初から、これを狙っていたので当然だ。
「ぬうううう!」
――バンッ!
直後、大きな音とともに爆発が起こった。
◇
「はあ、はあ……」
カルーナは、なんとか武器屋から脱出し、様子を伺っていた。
武器屋の商品を覚えておいてよかったと、心から思った。店には後に、王国から支援があると思うので、心配はないだろう。
そんなに威力の高い爆弾ではなかったため、爆発は、武器屋の内装を破壊する程度の威力しかない。しかし、至近距離で爆発すれば、それなりの攻撃力は生まれただろう。
武器屋の中は、煙に覆われており、その様子はわからない。これで、プラチナスが倒れてくれればよいのだが。
「くっ!」
しかし、それは叶わなかった。煙の向こうに鎧の形が認識できた。
「やってくれたな……」
そこからは、プラチナスが出てきた。その体には、所々にひびが入っており、爆発によって確かなダメージを負っていた。
「魔法使いに、ここまで傷つけられたのは始めただ……見事という他ない」
「度々どうも……」
「だが、そう簡単にやられる私ではないぞ……」
プラチナスは、再び剣を構えた。
◇
アンナは、引き続きツヴァイと対峙していた。
アンナの言葉によって、ツヴァイの様子は少し変わった。
どうやら、激昂しているようだ。
「
そう言って、ツヴァイはアンナに槍を向けてきた。
槍の先から、闘気が放たれた。
「くっ!」
アンナは身を躱しながら、考える。
ツヴァイに一撃を叩き込めたが、その防御が固いことに変わりはない。
「
ツヴァイが、間髪入れず二発目を放ってきた。
怒りに任せて、連続で攻撃してきているようだ。
「そのくらい!」
だが、その単調な攻撃はアンナにとって簡単なものだった。
攻撃を躱しつつ、ツヴァイとの距離を詰めていく。
「
そして、一気に攻撃を打ち出した。
「
しかし、ツヴァイはそこまで冷静さを失っていなかった。
闘気の壁を生じさせ、アンナの攻撃を防いでいく。
「くそっ!」
アンナは大きく後ろに後退した。ツヴァイの攻撃を受けないためだ。
それを見たツヴァイは、攻撃することなく手を止めた。
「……鬱陶しい奴だ」
「ツヴァイ……何を動揺しているんだ?」
「ふん! お前には関係ないことだ」
ツヴァイは、先程までの余裕を失い、何か動揺しているようだった。
アンナの言ったことが図星だったとしても、別に問題はないだろう。むしろ、笑いながら鎧を脱ぎ捨て、アンナのやってきた努力をあざ笑えばいいだけだ。
「お前のその鎧の下には、何があるっていうんだ……?」
「……黙れ」
アンナの言葉で、ツヴァイは怒りを加速させていく。
アンナとしては好都合だった。冷静さを失ってくれた方が、戦いを有利に進められる。少々、心苦しさはあるが、そんなことを言ってられる状況ではなかった。
「もしかして、人に見られたくない何かがあるのか?」
「黙れと言っている!」
ツヴァイは槍を掲げながら、言葉を放つ。
「お前のその減らず口を今すぐ聞けなくしてやる!」
「答えないなら、図星だと受け取っていいのか?」
「ぬうっ!」
ツヴァイは、アンナの口を塞ぐため、地面を蹴り向かってきた。
単調な行動だった。アンナは剣を構えて、カウンターを狙っていた。
――バンッ!
その時だった。
「なっ!」
「むっ!」
辺りに大きな爆発音が響いた。
それにより、アンナとツヴァイの体が止まり、音の方に意識が向かった。
「くっ!」
「ぬうっ!」
しかし、お互いに一瞬で意識を目の前の敵に戻す。
すると、ツヴァイは、大きく後退していた。
「くそっ!」
どうやら、轟音によって冷静さを取り戻したらしい。
チャンスを逃したアンナは、悔しさに声をあげた。
「……なるほど、冷静さを失うと、いいことなどないということか……」
下がったツヴァイは、天を仰ぎながらそう呟いた。
その様子から完全に冷静さを取り戻したようだ。
「お前の言葉に乗せられるとは、俺もまだまだ未熟だな……」
「あのまま乗ってくれたら、嬉しかったけどね……」
お互いに構え直しながら、にらみ合う。
「くっ……!」
先に動いたのは、アンナだった。その選択は、後退であった。
「な、何……!?」
突如逃げ始めたアンナに困惑しつつ、ツヴァイはすぐにその後を追った。
「どこに向かっている!?」
「さあね!?」
アンナは近くの店に入りながら、現在いた場所の反対側の通りに抜け出した。
そこには、アンナが予測した通りの人物がいた。
「お姉ちゃん!?」
「カルーナ! 無事でよかった!」
アンナの背中が、カルーナの背中と合わさった。
お互いの目の前には、それぞれの敵がいた。
「ツヴァイ様!?」
「プラチナスか……なるほど、合流を狙っていた訳か……」
アンナとツヴァイ、カルーナとプラチナス、二つの戦いが今交わった。
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