第41話 二つの戦い

 カルーナは、プラチナスと引き続き酒場内で対峙していた。


「……どうやら、君を侮ってしまったようだ」

「何が言いたいの……?」


 プラチナスは構えながら、カルーナに話しかけてきた。


「魔法使いには、私に有効打がないと思っていたが、それは間違いだったようだ」

「そ、それはどうも……」


 プラチナスは、すごく真摯な態度でそう言ってきた。これには、カルーナも思わず萎縮してしまった。敵であるというのに、なんとも丁寧な男だった。


「ここからは、君を侮れないと約束しよう」

「それは嫌だけど……」


 そう言いながら、プラチナスは剣を構えた。


白金の衝撃プラチナ・ブラスト!」

「くっ!」


 剣から、白金の闘気が放たれた。

 カルーナは、逃げながらカウンターの中に入る。


「よし……」


 カルーナはカウンターを物色し、近場にある酒の入った瓶を手に取った。


「えい!」

「何っ?」


 さらに、カルーナはそれをプラチナス目がけて投げつけた。


「どういう意図か読めないが……躱させてもらう」


 プラチナスは、酒瓶から逃れるように後ろに下がった。受けることも、切り裂くこともできたが、カルーナの意図がわからない以上、迂闊な行動をとりたくなかったからだ。

 そして、直後にそれは間違いであったと気づく。


「いない……!」


 プラチナスが身を躱した隙に、カルーナは、店の奥に消えていった。

 酒瓶は単純な囮であり、逃げるための時間稼ぎに過ぎなかったのだ。侮らないというプラチナスの思考を、利用される形になってしまっていた。


「だが、それはやはり侮れないということ……」


 プラチナスはカルーナを追いかけていくのだった。





 カルーナは既に酒場から出て、走っていた。

 とにかく今は、ある場所に行きたかった。

 後方から、プラチナスが追いかけてきているが、幸いにも足はそれ程速くなかった。


「あった!」


 そして、カルーナの目的地が見えてきた。

 カルーナは扉を蹴破り、そこに入った。すぐに、プラチナスもそれに続いてきた。


「ほう……武器屋か」

「……そうだよ」


 プラチナスは周囲を見渡しながら、そう呟いた。


「確かに、ここなら武器が豊富にある。だが、何をするつもりなんだ?」

「それを私が言う訳ないよ……」

「そうだろう。ならば、私のやることは一つだ」


 プラチナスは再び剣を構えながら、叫んだ。


白金の衝撃プラチナ・ブラスト!」

「くっ!」


 カルーナはその攻撃を躱しながら、ここに来た目的を実行する。


小さなリトル紅蓮の火球ファイアー・ボール!」

「むっ! 反射リフレクト!」


 魔法が放たれたのを認識して、プラチナスは魔法を反射する態勢になった。

 火球が着弾し、カルーナの方へ跳ね返ってくる。


「くっ!」


 カルーナは、それを躱して、店の奥の方へ逃げていく。


「……はっ!」


 そして、プラチナスも気づいた。カルーナ後ろにあったものが何かを。


「爆弾か!」


 プラチナスは急いで、この場から離れることにした。

 カルーナは、既に逃げている。最初から、これを狙っていたので当然だ。


「ぬうううう!」



――バンッ!



 直後、大きな音とともに爆発が起こった。





「はあ、はあ……」


 カルーナは、なんとか武器屋から脱出し、様子を伺っていた。

 武器屋の商品を覚えておいてよかったと、心から思った。店には後に、王国から支援があると思うので、心配はないだろう。

 そんなに威力の高い爆弾ではなかったため、爆発は、武器屋の内装を破壊する程度の威力しかない。しかし、至近距離で爆発すれば、それなりの攻撃力は生まれただろう。

 武器屋の中は、煙に覆われており、その様子はわからない。これで、プラチナスが倒れてくれればよいのだが。


「くっ!」


 しかし、それは叶わなかった。煙の向こうに鎧の形が認識できた。


「やってくれたな……」


 そこからは、プラチナスが出てきた。その体には、所々にひびが入っており、爆発によって確かなダメージを負っていた。


「魔法使いに、ここまで傷つけられたのは始めただ……見事という他ない」

「度々どうも……」

「だが、そう簡単にやられる私ではないぞ……」


 プラチナスは、再び剣を構えた。





 アンナは、引き続きツヴァイと対峙していた。

 アンナの言葉によって、ツヴァイの様子は少し変わった。

 どうやら、激昂しているようだ。


槍の衝撃波ランス・ブラスト!」


 そう言って、ツヴァイはアンナに槍を向けてきた。

 槍の先から、闘気が放たれた。


「くっ!」


 アンナは身を躱しながら、考える。

 ツヴァイに一撃を叩き込めたが、その防御が固いことに変わりはない。


槍の衝撃波ランス・ブラスト!」


 ツヴァイが、間髪入れず二発目を放ってきた。

 怒りに任せて、連続で攻撃してきているようだ。


「そのくらい!」


 だが、その単調な攻撃はアンナにとって簡単なものだった。

 攻撃を躱しつつ、ツヴァイとの距離を詰めていく。


十字斬りクロス・スラッシュ!」


 そして、一気に攻撃を打ち出した。


鎧の障壁アーマー・バリア!」


 しかし、ツヴァイはそこまで冷静さを失っていなかった。

 闘気の壁を生じさせ、アンナの攻撃を防いでいく。


「くそっ!」


 アンナは大きく後ろに後退した。ツヴァイの攻撃を受けないためだ。

 それを見たツヴァイは、攻撃することなく手を止めた。


「……鬱陶しい奴だ」

「ツヴァイ……何を動揺しているんだ?」

「ふん! お前には関係ないことだ」


 ツヴァイは、先程までの余裕を失い、何か動揺しているようだった。

 アンナの言ったことが図星だったとしても、別に問題はないだろう。むしろ、笑いながら鎧を脱ぎ捨て、アンナのやってきた努力をあざ笑えばいいだけだ。


「お前のその鎧の下には、何があるっていうんだ……?」

「……黙れ」


 アンナの言葉で、ツヴァイは怒りを加速させていく。

 アンナとしては好都合だった。冷静さを失ってくれた方が、戦いを有利に進められる。少々、心苦しさはあるが、そんなことを言ってられる状況ではなかった。


「もしかして、人に見られたくない何かがあるのか?」

「黙れと言っている!」


 ツヴァイは槍を掲げながら、言葉を放つ。


「お前のその減らず口を今すぐ聞けなくしてやる!」

「答えないなら、図星だと受け取っていいのか?」

「ぬうっ!」


 ツヴァイは、アンナの口を塞ぐため、地面を蹴り向かってきた。

 単調な行動だった。アンナは剣を構えて、カウンターを狙っていた。



――バンッ!



 その時だった。


「なっ!」

「むっ!」


 辺りに大きな爆発音が響いた。

 それにより、アンナとツヴァイの体が止まり、音の方に意識が向かった。


「くっ!」

「ぬうっ!」


 しかし、お互いに一瞬で意識を目の前の敵に戻す。

 すると、ツヴァイは、大きく後退していた。


「くそっ!」


 どうやら、轟音によって冷静さを取り戻したらしい。

 チャンスを逃したアンナは、悔しさに声をあげた。


「……なるほど、冷静さを失うと、いいことなどないということか……」


 下がったツヴァイは、天を仰ぎながらそう呟いた。

 その様子から完全に冷静さを取り戻したようだ。


「お前の言葉に乗せられるとは、俺もまだまだ未熟だな……」

「あのまま乗ってくれたら、嬉しかったけどね……」


 お互いに構え直しながら、にらみ合う。


「くっ……!」


 先に動いたのは、アンナだった。その選択は、後退であった。


「な、何……!?」


 突如逃げ始めたアンナに困惑しつつ、ツヴァイはすぐにその後を追った。


「どこに向かっている!?」

「さあね!?」


 アンナは近くの店に入りながら、現在いた場所の反対側の通りに抜け出した。

 そこには、アンナが予測した通りの人物がいた。


「お姉ちゃん!?」

「カルーナ! 無事でよかった!」


 アンナの背中が、カルーナの背中と合わさった。

 お互いの目の前には、それぞれの敵がいた。


「ツヴァイ様!?」

「プラチナスか……なるほど、合流を狙っていた訳か……」


 アンナとツヴァイ、カルーナとプラチナス、二つの戦いが今交わった。

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