第38話 揺れる王都
「うっ……」
窓にかかったカーテンの隙間から、光が差し込んできた。
アンナは、ゆっくりと目を開け、体を起こす。
「朝か……」
「うん……?」
隣のカルーナも目覚めたようで、声をあげていた。
「おはよう、カルーナ」
「……おはよう」
隣のベットを見てみると、ティリアは既に身支度を済ませていた。
「あ、お二人とも、おはようございます」
「おはよう、いつも早いね……」
「……おはようございます」
ティリアはいつも早起きで、アンナやカルーナが起きた時には、身支度まで終えていることが多かった。
なんでも、村にいた頃からの癖らしく、自動的に目が覚めるらしい。アンナもカルーナも、朝は強い訳ではないため、羨ましく思っている。
「さて、カルーナ、私達も準備しようか」
「うん……」
アンナとカルーナも身支度を始めた。
◇
身支度を終え、朝食を食べ、三人はそれぞれの行動を開始した。
アンナは、王城の中庭にて修行を行っていた。
昨日読んだ書物の通りなら、アンナの技量を上げれば、聖なる光も強くなるはずだった。なら、体を鍛えようと思ったのである。
「よく考えたら、聖剣の鞘って別にいらないんじゃ……」
アンナは、自分の手にある聖剣を見て、そう呟いた。今まで考えたことがなかったが、聖剣を呼び出すと鞘に入った状態で出てくるが、この鞘の分を別の力として使えばよいのではないだろうか。
「とりあえず、やってみようか」
アンナは集中して、鞘を聖なる光に変えて、全身に巡らせた。そして、闘気も同時に身に纏う。書物の通りなら、これが聖闘気となるはずだ。
二つの力が、交わり、混ざっていく。
「うっ……」
しかし、アンナの思考は途切れた。
二つの力を混ぜ合わせるのは、かなりの集中力を使い、精神的疲労が普通ではなかった。
「はあ、はあ……」
このように集中力がいるものは、戦闘中に使うことは難しいだろう。仮に使えたとしても、この疲労感では隙が大きすぎる。
「もっと、鍛えなきゃ……」
だが、聖なる光は、アンナが成長すればする程高まるはずだ。それなら、鍛えればいいだけだと、アンナは思った。
「うん?」
そこでアンナは、違和感に気づいた。何やら、城内の方が騒がしいのだ。。
「何かあったのか……?」
兵士達が城内を駆け巡り、何かを話しているようだ。
ただごとではない雰囲気を感じ取ったアンナは、城内に戻っていった。
◇
ティリアは、今日も医務室で治療にあたっていた。
兵士達の傷は、一度の回復魔法では中々治らない。さらに、人数も多いため、治療は長期に渡っていた。
「ふー」
ティリアは、数名の治療を終えて、一度休憩をしていた。
いくら強い回復魔法を使えても、何人も治療していると疲労してしまう。それでは満足に魔法が使えないため、こうして休憩を挟むのだ。
医務室には、他にも回復魔法を使える者がいるので、その者達に任せておけるのも、ティリアが安心して休息できる理由だった。
「ティリアさん、お疲れ様です」
「あ、お疲れ様です」
休んでいるティリアに、回復魔法使いの一人が話しかけてきた。
「ティリアさんは、やっぱりすごいんですね。あんな強力な回復魔法、見たことありませんよ。何か理由があるんですか?」
「理由ですか? それはわかりませんが、幼い頃から、何故か魔力が高くて、それで回復魔法を練習したら、今のようになったんです」
「へー、生まれつき高くて、練習して、さらに高くなってって感じですか」
本当にそれだけだった。生まれつき魔力が高く、魔法も得意だった。
「確か、親が高名な魔法使いだったりすると、魔力が高い子が生まれやすいって、聞いたことがありますけど、それって、どうなんでしょうね」
「それは……私は両親のことをよく知らないので、わかりません……」
「そ、そうだったんですか!? すみません、変なこと聞いてしまって」
「あ、いえ、大丈夫です。気にしてませんから」
その話を聞いて、ティリアは自分の母親のことを思い出していた。フォステアは、高名な兵士であると、レミレアから聞いていた。つまり、母親は魔力が高い訳ではなかっただろう。
もし、先程の話が本当なら、自分には魔力の高い父親がいたということになる。最も、それは推測に過ぎない。だが、これも一つの手がかりになるかもしれない。
「あれ?」
そこでティリアは、城内の様子がおかしいことに気づいた。
兵士達が、騒がしいのだ。
「なんでしょう……」
ティリアは、その様子に、言い知れぬ恐怖を感じるのだった。
◇
カルーナは、武器屋で杖を新調し、町を歩いていた。
今日も、鎧魔団の情報を集めたり、ティリアの出自の手がかりを探そうと思っていた。
しかし、武器屋から出てから、どうも落ち着かないような、空気が重いような、よくわからない感覚がするのだ。
「なんか、嫌な感じ……」
カルーナは周囲を警戒する。大通りには、普通に人々が行き来している。その者達は、特に何も感じていないようだ。
そこで、カルーナは数名の兵士を見つけた。
「兵士さん!」
「あ、あなたは、カルーナ様?」
「何か、あったんですか?」
「……」
兵士達は、顔を見合わせた後、ゆっくりと頷いた。
「実は、先程、前線にいた見張りから、鎧魔団に動きがあったという連絡があったのです」
「鎧魔団……!」
兵士の言葉に、カルーナは目を丸くした。それは一大事だ。
「鎧魔団が侵攻しているようなのですが、ある種違和感のあるようなんです」
「違和感? それって、なんですか?」
兵士達は、苦悶の表情を浮かべながら、話を続けた。
「動きが目立っており、恐らく陽動ではないかと、思われるのです」
「陽動……」
「何より、鎧魔将ツヴァイと副団長プラチナスの姿が見当たらないのも、おかしいのです。侵攻の際には、この二人が指揮をとるはずなのです」
「まさか……」
そこで、カルーナの頭にある考えが過る。そして、それは兵士達の推測と同じだった。
「ツヴァイは、この王都を目指している可能性があります。恐らく、勇者の到着を聞いて、一気に決着をつけようとしているのではないかと……」
「そんな……」
だとすると、まずいことになる。この王都が、一気に戦場に変わってしまう。
「カルーナさん、今から私達は、民の避難誘導を行います」
「わかりました。私は、ツヴァイとプラチナス、鎧魔団を探します」
そう言って、カルーナは駆けて行った。
鎧魔団がどこにいるか、見当はつかないが、王都を襲撃するのならば、隠れて行動しているはずだ。
そう推測したカルーナは、鎧が隠れられる場所を手当たり次第に回っていくことにした。
◇
アンナは、町の中に駆け出していた。
兵士達に事情を聞き、すぐに飛び出していた。鎧魔団を探さなければ、罪のない人々の命が奪われてしまう。
町の中では、兵士達による避難誘導が行われていた。町の人々は、恐怖に怯えながらも、兵士達に従い避難していた。
「はっ……!」
走っていたアンナは、あることに気づき声をあげた。
「闘気……」
それは、闘気による威圧感のようなものだった。遥か前方より、強大な闘気を感じる。先程まではまったく気づかなかったため、こちらに気づいた何者かが発したのだろう。
つまり、これはアンナを誘っているということだ。
アンナは、ゆっくりと前方に歩いて行く。
「……」
そして、相手を視認することができた。
漆黒の鎧、手に持った槍、どれも聞いた特徴と一致していた。さらに、そこから発せられる闘気は、強大なものである。今まで、アンナがそれを体験したのは、二回。
「鎧魔将……ツヴァイ!」
「ほう、わかったか。赤髪の女勇者よ……」
そこには、鎧魔将ツヴァイが立っていた。
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