紅の林檎亭の亭主は仕事以外も教える

「給仕として働く…!?いや、本当に…食事も給金も出るなら、引き受けない手は無いけれど…願ったりかなったりかもしれないけれど…!?」

ゴードンの言葉に困惑する孤児達。

「そうだろうな、さっきまでのお前たちのような汚い格好のガキを雇う所なんて無いだろうから、盗んででも生きていこうとしたのも無理もねえ。ましてや、お前らのようガキの為にここまでしてくれるようなお人よしも世界広しとは言えどもおそらく俺ぐらいだろう。」

だが、とゴードンは続けた。

「どんな理由があっても盗みはしちゃいけねぇ、お前らを紅の林檎亭に雇い入れると決めたせいで、ついさっきまで憲兵やお前らの盗みに遭った飲食店に対する対応に俺とバーバラが追われる羽目になったんだからな。」

自分達のしてきた事の罪悪感に苛まれた孤児達は黙り込んだ。


しかし、さっきまで黙り込んでいたバーバラがその沈黙を破った。

「給仕の仕事だけじゃない。あんた達には教えることが色々とあるわ。法律とか、読み書きとか、護身の術とか、魔法とかね。」

「はい、読み書きができれば良い仕事に就けます。それはより良い生活ができるようになる事につながります。」

マーシャがバーバラの言葉に続ける。

「戦う技を学べば、冒険者や傭兵になれる。剣だけでなく、格闘、斧とか、魔法も含めてな。」

エアルはマーシャの言葉へさらに続ける。

「生きていくだけじゃない。良い生活をしようと思ったら、幸せになるためには、盗みなんてしてはいけない。」

サムソンがさらに続けて言う。

「いつか、あんた達が一人で生きていけるようになるまで、あたし達が面倒みるから、さ。」

スズネはにこやかに語りかけた。

「ああ、僕も…もっと良い生活がしたい!!」

クルスはエアル達の言葉に希望を持った。

「ああ、俺もだ!!」

他の孤児たちも心のこもったエアル達の言葉を信じる事にした。

それからは孤児たちには夜まで、明日までに仕事を覚える為の指導が行われた。

これが、紅の林檎亭の伝説の給仕長の「女性」クルスの初仕事だったとは、今は誰も知らない物語。

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