二十一、黒縄地獄
地獄は、八つの層に分かれており、
下の層にいくほど、
罪人が受ける責苦は大きくなる。
第一層から順に挙げると、
一、
二、
三、
四、叫喚地獄、
五、大叫喚地獄、
六、焦熱地獄、
七、大焦熱地獄、
八、
総じて、八大地獄と云う。
マタヨシは、第二層、黒縄地獄で、
さらなる凄惨な地獄の責苦を見た。
生きたまま鋸でバラバラに切断され、
苦しみながら死んでいく人間の姿を見た。
生きたまま鉄の
もがき苦しみ死んでいく人間の姿を見た。
雲の下では、獄卒が、
鍋に鉄のしゃもじを突っ込み、
濁った湯の中から肉片を掻き集め始めた。
すると、酷い悪臭が雲の上まで
立ち昇ってきた。
これには、仏頂面も
思わず顔をしかめた。
「こいつはひでえ……」
地面に散らばった肉塊の前で、
獄卒が「
死者がたちどころに蘇った。
こうして、恐るべき責苦が、
倦むことなく繰り返されてゆくのである。
それは、この地獄での
罪人の寿命が尽きるまで続く。
黒縄地獄での人間の寿命は、
十三兆三千億年以上である。
*
さて、雲の上では、
余計な口をきく者がいなくなったので、
罪人たちの悲鳴や、うめき声が、
より一層、耳に響いてくるようになった。
ここでも、プルートーは
マタヨシに「どうか?」と聞いた。
マタヨシは、地獄の責苦を、
自分の目で見て、自分の耳で聞いた。
しかし、彼は何も答えなかった。
心ここにあらずという感じだった。
彼はまるで、落し物を探している
子供のようだった。
プルートーは思った。
もしかして、誰かを探しているのか?
誰か知り合いでもいないかと思って、
見ているのか?
プルートーはマタヨシに言った。
「あそこにいる人間は皆、
代れるものなら代ってくれと
思っていますよ」
「――だろうな」
「…………」
だろうな、だと?
お説御尤も、とでも言いたげだ。
こいつはやはり、そこらにいる、
ただのお人好しではないようだ。
それにしても、
つまらぬ――。
恐るべき地獄の苦罰を見て、
怯えて縮み上がるでもなければ、
こいつは、地獄に堕ちた人間どもを
憐れにすら思っていない。
赤の他人であれば、
どうなってもいいというのか?
身から出た錆として、
割り切って見ているのか?
いいや、割り切ることなどできぬ。
この凄惨な光景を目の当たりにすれば、
どのような人間も、
心を動かされぬはずはない。
心が苦しまないわけがないのだ。
もし苦しまないとしたら、
そいつはもう人間ではない。
わたしが見るところ、こいつは人間だ。
立派な人間の男だ。
よし。そろそろ例のところに行くか。
プルートーは
「
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