84.鍔迫り合い
「いやー、よくぞやってくれた、英雄オルドよっ!」
「……」
ここは尊大な空気に包まれた部屋――王城謁見の間――なわけだが、なんとその主が庶民出身の俺を盛大に迎えてくれた。
もちろん本心からではないだろう。というかそれ以前に、王様の顔色が非常に良くない。大臣も気になるのかちらちらとあの方の顔色を窺っている様子。これはもう、気力だけで生きてるような状態なんじゃないか。
「ありがたき幸せ、王様……」
俺は視線とともにひざまずいたわけなんだが、その際に王から受けた殺気は素人が放つものとしては最高のものを感じた。どれだけ平民の俺を憎んでるんだか……。
「して、オルドよ。村が襲われてしまったそうだな……?」
「……はい。自分が魔王退治をしている間に狙われてしまったみたいで……」
「それはとんでもないやつらだのお? うむぅ、ヒジョーにけしからん……」
白々しさを隠す気もないんだな。悪化する一方な病のせいで怖さ知らずってわけか。
「それについては、なんでも妙な噂が流れてるそうで」
「ほほう? 申してみよ」
「はっ……。兵士が村を襲ったとか。王様をこの上なく愚弄する噂かと……」
「……ふむ、確かにな……うっ? ごほっ、ごほっ……げほおぉっ――」
「――お、王様ぁっ!」
「……」
王が激しく咳き込んだかと思うと血を吐き、大臣が血相を変えて駆け寄る。ただ、周りで顔を向け合っている兵士たちのあきらめたような様子を見るに、色々と察している感じではある。こういうのが日常的なわけだ。
こりゃ死ぬのも時間の問題だな。だが、そうはさせない。簡単に死なせてなるものか、愚王め……。
「……っ!」
俺は最大限の殺気を周囲に放ち、王へと一気に接近する。
「……な、なっ……?」
「オ、オルドどの……?」
王と大臣が驚愕するのは自然な話で、玉座の後ろに何者かが隠れているから俺に見抜かれていると思ったんだろう。しかし、殺気を浴びてこの場にいる全員が動けなくなったはずだ。
さて、と。用事も済んだので俺はすぐに元居た場所に戻り、一層恭しくひざまずいてやる。
「突然のご無礼、失礼しました、【逆転】スキルで王様のご病気を完治させたゆえ、どうかお許しを……」
「な……なんだと……?」
「お、王様……」
王が目をかっと見開いているその一方で、大臣もまた信じられないといった顔で王の体をべたべたと触り、別人かと疑っているかのようにすら見えた。確かにそれくらい顔色が良くなってるからな。
しかし王は歯軋りするくらい悔しかったらしく、小刻みに肩を震わせながら俺を睨みつけている。怒りのあまりか、もう隠す気もないらしい。平民の中でも特に嫌われている俺が病を完治させる嫌がらせってわけだ。
「おのれ……王であるわしに対して余計な真似をしおって、分をわきまえん平民めが――」
「――お、王様、そんなことを仰らずに――」
「――ええい、うるさいぞ大臣っ! わしは平民風情に同情されるくらいなら潔く自決する気でおったのだ! 平民なんぞに泥を塗られた体、最早何も怖くはないわい! さあ、早く出てこい! 一か八か、例のスキルをかけるのだ! でなければお前だけでなく家族全員の首が飛ぶぞっ!」
「は、ははあっ!」
お、玉座の後ろから覆面をした男が出てきて俺のほうによたよたと向かってきた。こいつが例の記憶を消去するスキルの使い手ってわけか。それで、俺の記憶を消してわけのわからないうちに牢獄にでも閉じ込めるか、そのまま処刑してしまおうっていう腹積もりなんだろうが、そうはいかん。
俺は素早く覆面野郎の背後に回り込み、記憶がない状態とある状態を【逆転】させてやった。
「……あるぇ?」
まさにこいつは自分が何者であるかもわからない状態だろうが、おそらくソムニアのように家族を人質に取られてやったことだろうからあとで元に戻してやるつもりだ。
「きっ、貴様、何をやったのだ……!」
「記憶喪失にさせてやっただけだ。そちらの得意技だろう」
「お……おのれ……折角のチャンスを自らフイにしおって……」
「ん? 殺すんじゃなかったのか?」
「殺すのは、平民としての貴様だ! 最近の記憶を消したあと、貴様の【逆転】スキルとやらで平民と貴族の血を逆転させ、その力を王国のために役立てるつもりだったのだ。なのに、馬鹿な男だ……」
「……」
なんだよ、平民と貴族の血って……。やつらの血は俺たちとは違うっていうのか? 馬鹿馬鹿しいってことを表現するために俺は小さな溜息のクオリティを【逆転】させて響き渡るような荘厳な溜息を作り出した。
「はあ……。それが本当かどうかはわからないし、事実だとしてもどうせ都合のいいことに利用するだけだろ? なあ、ソムニア、ブラックス」
「うんっ」
『ウムッ』
「……な、な……」
俺の隣に、【透明化】していたソムニアが血斧を担いだ状態で現れる。さあ、ここから俺たちの本当の反撃が始まる……。
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