61.伝説
「むんっ――るるぁっ……!」
「「「ぬわああぁぁっ!?」」」
ルディアの拳が唸りを上げるたび、村人たちが同時に吹き飛び、いずれも無残な姿で倒れていく。それはまさに圧巻の光景であり、目撃した村人たちが例外なく戦意を喪失した様子で立ち往生してしまうほどであった。
「あ、嗚呼……ルディア……凄いよ、強すぎだよ……」
最早近くで傍観するだけになっていた、【無効化】スキル所有者のエルナドが感嘆の息を漏らす。
「けほっ、けほっ……」
まもなく薄れゆく土煙の中からルディアが鬼気迫る表情で現れ、エルナドや分隊兵たちから拍手が湧き起こった。
「ふう、久々に暴れ回ったもんだから息が切れちまったよ。すっかり体が錆びついちまったもんだねえ……」
つい先ほどまでルディアの周りにいた多くの村人たちは、既に半数以上が戦闘不能状態になっていた。
ルディアとエルナドの分隊は敵なしであり、村人たちのスキルや剣術は【半減化】と【無効化】によってたちまち威力を失い、それに加えてルディアの爆発的な突破力により、鍛え上げられた村人たちもなすすべなく散ってしまうという有様だった。
「ルディア、何か武道とかやってたの?」
「んっ……ま、まあ大したことはないんだけどねえ、少しばかり齧ってはいたよ。昔、ね……」
「へえー」
「そ、そんなにジロジロ見るんじゃないよ! 照れるじゃないか……」
「あはは……」
それまでの壮烈な立ち振る舞いとは一転して、いかにも照れ臭そうにもじもじするルディアに苦笑するエルナド。
「――たっ、助けてくれえぇっ!」
「おうおう! 俺たち王国軍に対してよー、村人ごときが暴れるからこうなるんだよ! 死ねっ!」
「ぎゃああぁぁっ!」
「ふー……すかっとしたぜ。この調子で村人どもは全員皆殺し――」
「――馬鹿やってんじゃないよっ!」
「ぐはっ!?」
村人の背中に槍を突き立てた兵士を殴り飛ばすルディア。
「追い打ちなんてみっともない真似するんじゃないよ、兵隊ども! 反逆罪とはいえ、相手は村人だろ! 流れで殺すのは仕方ないにしても、王国軍なら少しは民を大事にしなっ!」
「「「は、はいっ!」」」
ルディアの剣幕は、汗で厚化粧が中途半端に崩れてしまっていたせいもあったが、その場にいる分隊兵が一様に青い顔で敬礼するほどの迫力であった。
◇ ◇ ◇
「ラ、ライレル様……お気をつけくださ、い……」
「ど、どうした!? 誰にやられたっ!?」
「ば……」
「ば……?」
「……け、物……」
「化け物……? し、しっかりしてっ! まだ死んじゃダメだ!」
まもなく息絶えた村人に対し、ライレルは無念そうに首を横に振った。
(クッ、クッソオォ……どこの誰がこんなことをしたのか知らないけど……絶対に許さない。オルド様の作った村を、僕の弟子たちをこんな風にした報い……必ず受けさせてやらないと――)
「「「――ぬわああぁぁっ!?」」」
「……ベッ……ライレル様! 今っ……!」
「うん、僕も聞こえた。行こうっ!」
悲鳴がした方向へ走るガリクとライレル。
「「――あっ……」」
まもなく二人が目にしたのは、圧倒的な力で大勢の村人たちを一気にねじ伏せていく謎の人物の姿だった。
それはまさに爆発的な戦い方であり、突っ込まれた村人たちが垂直に高く飛び上がっては地面に落下していくというもので、そのたびに土煙が舞い上がるため、敵の姿を確認することさえも困難であった。
「あ、あの戦い方は……まさか……」
「あの戦い? ガリク、知ってるの?」
「……は、はい。でもまさかそんな。伝説の人物がこんなところにいるわけ……」
ガリクの声は震えていた。やがて、薄くなった土煙の中から一人の老齢な女性が鬼の形相で現れるのがわかる。
「や、やっぱりそうですよ、あれはルディアだ……」
「ルディア? なんかどっかで聞いた覚えが……」
「ベイベー……いえ、ライレル様。あれは先々代の勇者パーティーに所属していたものの、仲間割れを起こして追放されたという噴火拳の使い手、拳聖ルディアで間違いないかと……」
「え……ええっ!? あの伝説の……?」
仰天するライレル。拳聖ルディアとは、当時最強と謳われた先々代の勇者パーティーの中でも飛び抜けて強かったとされる人物のことであり、自由奔放な性格が災いして追放されたといわれている伝説的な最強の格闘家として、冒険者の間で知らない者はいないほど有名であった……。
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