17.変わり身


「愛してるよベイベー……」


「あたしもお……」


「「ちゅー……」」


「「「……」」」


 パーティー『漆黒の刃』のリーダーのガリクが、宿舎のベッドで新人の僧侶と唇を重ねるところを、少し開いた扉の隙間から息を殺して覗く者たちがいた。いずれも容姿端麗で若々しいメンバーの少女たちである。


「ガリク様ったら、また新しい女の子連れ込んじゃってる……」


「まぁリーダーはモテるからさ。あっちのテクニックも抜群だしね」


「だねっ。ナンパ者だけど、あのナヨナヨしたライレルよりはずっとマシだよ」


「「「きゃははっ」」」


 笑ったあと、しまったという顔をする三人の少女たち。


「んん……君たち、覗きだなんて趣味が悪いよ。見てたなら入ろうか。今から5Pするよ」


「「「はぁーい……」」」


「ガリク様ぁ、あたしはあなたと二人きりでしたいのお……」


「わがまま言ったらダメだよベイベー……。この体は俺だけのものじゃないのさ……ん?」


 外がにわかに騒がしくなってきたことに気付くガリク。


(……普段は閑静なところなのに妙だね……)


「あたし、こっそり様子見てくるう!」


「「「私もっ!」」」


「一応、ここは有名パーティー『漆黒の刃』の宿舎だからね、バレないように気をつけて行ってくるんだよ、可愛いベイベーたち……」


 競うように外へ飛び出していく少女たちを尻目に、ガリクはニヤニヤと笑いながらベッドに横たわった。黄色い歓声が上がっていることに気付いたからだ。


(まさか、俺たちの宿舎がここにあるっていう噂が早くも広まったのかな? 女の子っていうのはステータスに弱いからね。強くてモテるやつのところに群がってくるものなのさ。俺の一番になって自慢したいってね……。あぁ、アソコが乾く暇もない……)


「「「「――ガリク様ぁっ!」」」」


「……ん? どうしたんだい?」


 しばらくして戻ってきたメンバーの少女たちは一様に混乱している様子だったが、そのうち一人が我に返った表情になった。


「最近、次々とダンジョンの攻略記録を塗り替えている『リバース』っていう新参パーティーが来てて、それで盛り上がってるみたいです。しかもその中にはライレルらしきやつも……」


「……うんうん、そうかそうか……って、はあ!? ライレルなんかいるわけないだろ!」


 ガリクが事実を確認するべく窓を開けると、自分たちの宿舎の下にはかつて追放したライレルを含む四人パーティーがいて、多くの野次馬に囲まれているところだった。


「な、な……俺の宿舎の近くで勝手なことを! し、しかも……本当にライレルがいるだと……?」


「「「「素敵……」」」」


「残念だけど、今の俺はそんな気分じゃないんだよ、ベイベーたち――」


「――勘違いしないでくださいよお」


「え?」


「あたし、もうこんなパーティー抜けますう」


「……は?」


「「「私もー!」」」


 口をあんぐりと開けるガリクを尻目に、メンバーの少女たちが次々とパーティーを脱退して外に飛び出していく。その先には、今噂のパーティー『リバース』がいた。


「ふ……ふざけるなあぁぁぁっ!」


 我に返り、剣を持ちだして血眼で少女たちを追いかけるガリクだったが、その前に一人の元メンバーが立ち塞がった。


「あなたの相手は僕だよ。久々だね、リーダー……」


「……ラ、ライレル……追放されたからって復讐でもしにきたのか!? 弱いくせに……痛い目に遭いたくなければそこをどけっ!」


「試してみる?」


「えっ……」


 堂々と剣を抜くライレルに仰天するガリク。


(ダンジョンの攻略記録を塗り替えてるパーティー『リバース』だったか? ライレルのやつ、どうせ強いやつらに媚び売って入っただけの無能のくせして、随分と強気になったもんだ……。だが、一人なら……一人なら楽に勝てるはず。こいつの外れスキルでは、どう頑張っても【器用さ三倍】スキルが上乗せされた俺の剣には勝てん……)


「た、タイマンだな!? タイマンでやるならやってもいいぞ!」


「うん、もちろんっ」


「……な、なんか妙に艶めかしくなりやがって……お前一人で俺を倒してみろ! このカマ野郎っ!」


 キンッ! キンキンキンッ!


(くっ……俺の攻撃が全て受け流されているだと……!?)


「この程度?」


「な、舐めるなあああああああっ!」


「ダーメ、そんなんじゃ」


「こいつうぅ……!」


 周囲のどよめきがやがて失笑に変わるほど、ガリクはライレルに弄ばれていた。


「――それっ! とどめだあー!」


「ぐはっ……」


 ついにガリクが倒れ、歓声が響き渡る。


「……な、なんでそんなに短期間で強くなったんだよおおぉ……」


「さあね? あと、ガリク。知ってた? 僕、女の子だったんだよ」


「……は? ライレル、お前頭おかしく――」


「――触ってみて」


 ライレルの股間に触れて、見る見るガリクの顔が青くなっていく。


「な、ないだと……? お前……本当に女だった、のか……」


「うん……」


「……ラ、ライレル……よく考えるとお前は可愛いやつだった……。追放したのも、可愛い子には意地悪をしたいという切ない男心があったからさ……ってなわけで、早速俺と付き合うかい?」


「ダーメッ」


「ぐほぉっ……」


 野次馬がさらに集まる中、ガリクは振られた上にライレルの手刀で頭を打たれて無様に倒れ、周囲の笑いを誘うのだった。

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