3.虜
「ふー、すっきりしたぜ……。あー、つええっていいなあ!」
「だねぇ」
「最高でしたぁ」
「面白かった……」
「……」
ようやく終わったのか……?
俺が勇者アレク、僧侶ロクリア、魔術師マゼッタ、戦士エスティルから受けたのは、想像を絶する暴力の嵐だった。
短い間だが自己の能力を格段に引き上げる勇者の【勇壮】、ヒール量を飛躍的に上昇させる僧侶の【聖痕】、一時的に魔法力を物理力に変換する魔術師の【変色】、膂力を爆発的に増大させる戦士の【鬼憑き】……やつらの暴力的なスキルを嫌というほど味わった。
「どうだ、オルド。今の気分は。んんっ?」
「ぐっ……」
俺はアレクに頭を踏みつけられる。
「……これで、満足か? 満身創痍の俺に対してこんなことをしても、決してお前たちが強くなるわけではない……」
「うんうん、そうだな。オルド、てめーが弱いだけだ。でもさ……今のてめーより俺たちのほうが遥かに強いのは明白だろうが!?」
「ぎっ!? があぁっ!」
勇者アレクの蹴りが俺の顔面に集中する。痛い、苦しい。
「ヒーリング!」
「ほらほらぁ! 反抗してみろよクソ賢者! 片親の無能が! クソゴミめがっ!」
「ぎいいっ!」
「ヒーリング!」
「俺はなあー、てめーなんかとは生まれも育ちも違うんだよ! ゴミは大人しくゴミ箱に収まってりゃいいのに、ゴミの分際で人間みたいな面するどころか散々調子こいてきた罰だ、こんのクソムシめがああぁ!」
「がはああっ!」
「ヒーリング!」
死ぬほど痛くて苦しいのに終わらせてくれない。もう嫌だ、狂うか死ぬか、なんでもいいから早く楽になりたい……。
「「「キャハハッ……」」」
悪魔たちの笑い声が遥か遠くからのように聞こえる。何故だ、何故ここまで惨い仕打ちを俺が受けなくてはならない? 俺が一体何をしたというんだ……。
「――う……?」
俺は気を失っていたのか……?
「よー、オルド。起きたみてえだな。まあ五分くらいしか経ってねえけどよ。少しは休ませてやらねえと可哀想だって思ってよ?」
「……」
勇者アレクの声に打ちのめされる。まだ何か企んでいるのか。今度は何をするつもりなんだ……。
「アレク……ここから解放してくれとは言わない。せめて楽に死なせてくれ。頼む……」
「ヒュウゥゥ……。賢者オルドが死を懇願なさったぜ。聞いたか? 死なせてくれぇーってよ! 泣けるねぇ!」
「「「アハハッ!」」」
「どんなに……笑ってくれてもかまわない……。死なせてくれ、頼む……」
「んー、それはできねえ相談だな。なんでてめえを五分も眠らせてたかわかるかー? その間にサプライズを用意するためだよ」
「……サプライズ……?」
「そうそう。それはてめえをここから解放してやるってことだ。喜べ!」
「……え……?」
「なあ、俺って優しいだろ? でもよー、とりあえず鏡見て色々整えろ。そのままじゃぜってえモテねえから」
「……あ、あ……」
鏡に映っているのは、ボサボサの白髪頭をした皺だらけの醜い老人だった。これが……俺だというのか……? 俺を苦しめるために、ここまでやるというのか……。
「もう一つのサプライズでさー、【老化】スキルを持ってるやつを連れてきてやったんだよ。わざわざてめえなんかのためにな。これなら、ほっといてもいずれ老衰で死ねるだろうし、喜べよ!」
「「「キャハッ!」」」
「……うぅ……」
「見て、こいつ泣いてる。ダッサ……」
「お爺さん、可哀想ですぅ」
「年寄りのくせに、中身は幼児みたいだな」
「「「「ププッ……」」」」
「……」
もう、俺は周りの言うことが聞こえなくなった。ドス黒い感情が体の内側からどんどん湧き上がってきて、俺を虜にしているかのようだった……。
「……はぁ、はぁ……」
杖をつき、よろよろと夜道を歩く。フードを深くかぶり、誰にもこの姿を見られないように。恨みを晴らしたくても魔法を使えなくされた上、スキルを付与してくれるはずの教会も出禁にされた。
ここまでされてしまうと、この老いぼれた体ではどうすることもできない。それでも、頭の中には尽きることのない憎悪が渦巻いているため生き地獄だった。やつらが俺をあえて生かしたのはこのためだろう。
道中、死のうとしたが自死できないスキルをかけられているのもわかった。延々と苦しませるつもりだ。こうなったらもう、俺に残された道は一つ……誰かに殺されるしかない。
それにはうってつけの場所がある。王都の東部にある迷いの森。とても広大な森で、強力な魔物が住むことでも知られており、迷ったが最後……二度と出られないといわれる恐ろしい森だ。俺はそこで生きたまま食われ、激痛の最中でやつらを呪いながら死ぬつもりだ。
決して幸せにはさせない。勇者アレク、僧侶ロクリア、魔術師マゼッタ、戦士エスティル……呪ってやるぞ……お前たちを……。
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