全て逆にするスキルで人生逆転します。~勇者パーティーから追放された賢者の成り上がり~

名無し

1.裏切り


『グガアアアアアアアァァッッ!』


 ついに……ついに討伐した。この世界に甚大な混沌と被害をもたらしていた魔王を……。


「オ、オルド……ごめんね……」


 勇者パーティーの中で、僧侶のロクリアが申し訳なさそうに俺の元に歩み寄ってくる。


「いいんだよ、ロクリア。は誰にでもある」


 俺の幼馴染でもあるロクリアが暗い表情を浮かべるのも無理はなかった。魔王に間違ってバフをかけてしまったわけだからな。それでかなり強化されてしまったものの、こうして倒せたのだから問題ない。


 そのあと、隠れるように後ろで見ていた勇者アレク、魔術師マゼッタ、戦士エスティルが俺を取り囲んだ。


「す、すげーな、オルド。強化魔王を一人で倒しちまうなんて……」


「凄いですー、オルド様ぁ。天下無双ですねぇ」


「オルドどのにかなう者など、もうこの世には存在せんだろうな」


「何言ってるんだよ。みんなのサポートがあったから勝てただけさ。ありがとう、アレク、マゼッタ、エスティル……それに、ロクリアも……」


 俺はみんなに向かって深々と頭を下げた。一人一人丁寧に。


 思えば幼少期から魔法の天才と言われた俺だが、甘えることなく周りへの感謝を忘れず努力を続けてきたおかげで才能が開花したんだ。


 賢者になってからも俺はずっと、卑屈にならない範囲で低姿勢を続けている。そのことには、数年前に病死した母さんからよく聞かされたことが影響していた。


 どんなに偉い立場になっても常に腰は低く志は高くなければならないと。そうしないと、人は肥大化した自己のプライドに飲み込まれてしまうのだと。


 だからこそ、強すぎる力は慢心と軋轢を生むとして、俺は最後まで自分にスキルを付与しなかった。


 酔っ払いで暴力的だった父と別れてから俺を一人で育ててくれた母親の遺言を、どうしても守りたかったんだ。もう少し長生きしてくれたら、平和になった世界を見せられたのにな……。






「「「「「勇者パーティー、ばんざーい!」」」」」


 俺たちが乗った馬車が王都に凱旋し、大勢の歓声が聞こえてきて心に響く。


 なんとも痛快で、ずっと浴びていたいと思えるものだった。子供の頃、片親だといじめられてきた俺でもここまでこられたんだ。今までの厳しい道のりが浮かんできて、油断すると涙が零れそうになった。


「はい、オルド。これで涙を拭いて。頑張ったわね」


「あ、ありがとう……」


 ロクリアが微笑みながらハンカチを渡してくれて、それが余計に感動を助長させた。


「ロクリア、俺さ――」


「――なあ、オルド」


 その勢いで彼女に大切なことを伝えようとしたとき、勇者アレクから申し訳なさそうに声をかけられた。仕方ない。告白はあとにしよう。


「どうした? アレク。そんなに改まって」


「魔王を倒したのはさ……俺ってことにしてくねえか?」


「……え?」


「王様から訊ねられたらさあ……頼むよ。お前が一人で倒したって噂が広まっててさ、このままじゃ勇者パーティーを引っ張る立場としちゃ、面目が立たねえんだ……」


「わ、わかったよ、そうする」


「ありがてえ!」


 俺は涙目のアレクと握手を交わした。そんなに思いつめていたとはな……。


 俺としては平和を取り戻すことさえできればいいと思っていて、誰が魔王を倒したかなんてことには一切興味がなかったんだが、平民の俺と違って貴族出身のアレクとしては色々思うところがあったんだろう。






「勇者アレク、賢者オルド、僧侶ロクリア、魔術師マゼッタ、戦士エスティル……魔王退治、実にお見事であった!」


「「「「「ははー!」」」」」


 凱旋パレードのあと、俺たちは王様の座る玉座の前でひざまずいていた。でも、何か変だな。王様のお顔が優れない……。


「……ところでちと聞くが、賢者オルドよ。何かが流れておっての」


「よ、良くない噂? それは一体……」


「パーティーが一丸となって魔王を倒したことを、賢者オルドが全て自分の手柄にしていると聞いたのだが……本当かね?」


「い、いえ、そんな滅相もない! それに、魔王はここにいる勇者アレクが倒したもので……」


 なんだ? 周りがざわざわしている。妙な空気だが、これは一体……。


「おかしいではないか。魔王を倒したのが勇者アレクであるなら、何故そんな噂が流れておるのだ……?」


「王様ー!」


「……アレク?」


 突然の出来事だった。アレクが泣きながら一歩前に出てひざまずいたのだ。


「アレクよ、一体どうした!?」


「友情を大事にしたかったため、できれば隠し通したかったのですが……彼のためを思って言います。実は、脅されたのです。魔王は賢者オルドが一人で倒したことにして噂を広めよ、と……」


「……ア、アレク!? 話が違うぞ!」


「賢者オルド、黙るのだ!」


「……お、王様……?」


 王様は立ち上がり、俺を真っ赤な顔で睨みつけていた。


「何が違うものかっ! 勇者が魔王を倒したことは事実だと自分でも言っておるし、実際にそれとは相反する噂も広まっているではないかー!」


「そ、それはアレクからそう言えと脅され――」


「――ええい! 見苦しいぞ! 賢者などと言われておったが、所詮は出世に目がくらんだ卑しい平民ということか! 誰か、王を欺いたこの不届き者を捕えよー!」


「そ、そんな……! ロクリア、マゼッタ、エスティル……! なんとか言ってくれ!」


「「「「……」」」」


 何故だ、何故みんな黙っている……? 俺はいつしか、多くの兵士たちに取り囲まれていた。

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