師匠の訓練は理不尽ですか?いいえ、魔改造です

RAIMARU

お使い編

第1話 登場しました

 とある国のとある森の中。

 程良い日差しを受けて木々の隙間から大地に向かって光の線が延びていた。

 天候は至って良好、森の中も小鳥の囀りが歌のように聞こえ、風によって葉と枝が擦れ合っていた。

 そんな森の中に切り開かれた場所がある。その部分の樹木を切り取ったかのようにその場所にだけ木が生えていない。

 代わりに一件の家があった。

 太い丸太を使った平屋の山小屋なのだが、大木で組まれているだけにやたらと頑丈に見える。その山小屋の近くには煙突付きの小屋のようなものまであった。

 だが、その森にヒトの気配はなかった。

 その森には誰も近付かない。中に入ってしまえば誰も出てこられない。

 その森には誰も寄りつかない。中には猛獣が可愛く見える程の凶悪な生き物がいる。

 その森には誰も受け入れない。中には絶対主が君臨しているという。

 その森の名前は“不帰の森”。

 だが、そんな森の中にあって、山小屋のある場所だけが平穏だった。

 そして、その山小屋の中からトントントンとリズム良く包丁の音が聞こえてくる。開けられた窓から美味しそうな匂いが漂ってくる。

 その匂いに釣られて凶悪な生き物が近付いてきそうなものなのに、何も起こらず静かに時が流れていた。


 包丁をリズミカルに刻んでいたのは少年だった。台所に立って鍋に火を掛けていた。コトコトを煮えている鍋の蓋を取ってスープの味見をして、頷いた。

 そんなご飯を作っている最中、いきなり大声が響き渡った。


「だから、まだ早いって言ってるだろ?半人前にも届いていないんだぞ?」


 ソファに座っている大柄の女性が唐突に大声を上げたのだ。スラリと伸びた手足には所々に傷があるが、女性の魅力をこれでもかと振りまいている胸の大きさ。そして、部屋の中にあって黄色から紅くグラデーションされた髪が輝いている。

 背の高さに目を瞑れば魅力的な女性には違いなかった。

 その女性が独り言のように呟いているかと思えば先程のような大声を出したのだ。


「おぅ。うん、そりゃ森の中を歩けなきゃ、何も手に入らねぇだろ?それ位は出来るようになってる。だけどな~、何?」


 未だに大声で喋っている女性に構わず、少年は黙々と調理をしていた。


「わかった、わかっっったよっ!!言っとくが、本人次第だからなっ!!んで、内容はいつものアレか?あぁ、じゃあなっ!!」


 大柄の女性は不機嫌に会話を止めるとドスンドスンと聞こえそうな足音を響かせて少年に近付いていく。

 その足音に何事かと部屋に寝そべっていた魔獣と思われる生き物が顔を上げて、女性の動向を見守った。


「エルド、お前に訓練を出す。“お使い”だっ!!」


 大柄の女性が訓練と少年に言うと少年は手を止めて返事と供に振り返った。


「はい??」







 門番のムースはいつも通りの警備についていた。

 毎日の変わらないのどかな風景を前に欠伸を漏らす。


「はぁあ〜…今日も異常はなさそうだな〜。」


 そう一人呟く。

 天気は程々の晴れ。時折、光が憎らしいほど照らし続ける。

 国の中でも外れに位置する、フェル村。

 たまに辺境の方へ、もしくは海の方へと向かう一団。

 この村から二、三日の場所にある街の商人か行商人。

 そんな危険とは程遠い人物しかこの村には寄り付かないせいで危機感がまるで持ててないのであった。

 だからと言って、村の防備はしっかりとした物だ。

 3mを超える壁が木造ではあるが村一帯を囲んでいる。


 だが、そんな村の衛兵の役割を担っているムースは天候は程々に良いせいで怠け心に拍車をかけていた。


「まぁ、何にしても平穏が一番ってな!そもそも、この村に門番てのがいるのかどうか怪しいが。」


 そう自問自答のように言いながら、門番の必要性は分かっているムース。

 鍛えた腕を振るう機会が訪れない愚痴を誰にも聞かれないことを良いことにブツブツとぼやくのが彼の日常の一部なのである。


「はぁあ〜…」


 この溜め息とワンセットで。


 程よい日差しを受けて彼は改めて思い直す。

 平穏が何よりも替え難いということを。


(あれは何だ?)


 目を細め、遠くを見つめるムース。


(土煙が上がっているのか?魔物か、それとも…)


 他の門番を呼び寄せ伝えるべきかどうかを迷う。ここ最近、訪れていない様子に判断を迷うムース。

 まだ距離があることでこの場所へと向かっているわけではないのでは?とそんな事を思いつつも一緒に立っていたもう一人の門番に支持を出した。


「待機している警備兵にこちらへ来るように言ってこい。」


「了解しました!隊長!」


 もう1人の男は大きな声を出して村の中へ戻っていく。


(ん?進路を変えたか…?)


 土煙が消えたことで、こちらに来ることはないと胸を撫で下ろすムースだったが、何かが起きてもいいように先程よりも警戒を強める。


(あれは中型の魔獣・・・。いや、距離からして大型もあり得るかっ!!)


 まだ離れている距離だが、ゆっくりと歩みを進める姿を確認した。はっきりとした大きさは分からずとも騎士団に所属していた経験から凡その大きさをはじき出す。


 槍の持ち手がぎゅっと握り込まれる。

 一筋の汗が額から落ちてくる。

 これからの戦闘に幾通りもの戦略を考えるムース。


 だが、彼の考えが決まるよりも先に魔物がその姿を露わにするのだった。


(な、なんだ…!!コイツはっ!?)


 彼の記憶にはないその姿に不安を覚える。

 勝つというよりもいかに被害を減らすか、そのことにムースが考えを強制的に変えていく。

 だが、彼の不安はすぐに解消されることになった。


「すいません、ここはフェル村ですか?」


 魔物の後ろからひょこっと顔を出したフードを被った人物。

 その言葉で一瞬、呆けてしまう。

 しかし、気は抜けないと緩みかけた警戒を解かず誰何する。


「お前は誰だ!コイツは何だ!!」


「落ち着いてください、私はエルド。コイツは相棒のサイファ。ネルスラニーラさんに頼まれごとがあると言われてここまで来たのですが…。」


(ネルさんに…?エルドと言ったか…。たしかに言われたわ、焦った〜)


 ふぅっと息を吐き、張り詰めた雰囲気を解くムース。


「すまんな、エルドくん。見たことない魔物に警戒をしていたんだ。 申し訳ないがフードを外してくれるか?人相を伝えられているのでな。確認をしたいんだ。」


「いえいえ。こちらこそ、すみません。フードをしたままで。不躾でした、申し訳ありません。」


 

 風に舞う髪。

 日の光で白にも銀にも見える。

 ただ、毛先は薄い蒼だった。

 そして、彼は美しく、その虹彩も薄い蒼だった。


「改めて、私はエルド。それと相棒のサイファ。

 先程も言ったとおり、ネルスラニーラさんに頼まれてここまできました。」


「あぁ…。俺はムース、この村の警備隊長をしている。ネルさんにはエルフと聞いていたのだが、君は…。」

 と、答えたムース。


「私はハーフなんですよ。」


「なるほど。ようこそ、フェル村へ。

 では、ネルさんの店を教えよう。」



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