第349話

 アウラストウルスとアルファの神兵、そしてユウティーシア達が戦ってからすでに1週間が過ぎていた。

 戦いの爪痕は酷い物であった。

 魔法帝国ジール王都ジルニスカはの都市機能の9割が停止。

 王城倒壊、非難をせずに居た王族は全員死去。

 官僚機構も軒並み停止し、魔法帝国ジールの60万を超える魔法師部隊はほぼ壊滅し残りは数百程度と言う惨事であった。

 残されたのは300万人近い王都の住民だけであり、その中の7割は奴隷が占めている。

 奴隷の中には今まで押さえつけられてきた事に反発し略奪なども起きている。

 王都の壊滅と王族の全員の死去、そして官僚も軒並み死亡しており抑止力である兵士もすでに存在しておらず、その混乱は地方へ広がり今まで力で押さえつけられて魔法帝国ジールに組み込まれていた町は次々と独立を宣言しすでに強国としての体裁を保てていない。

 

「なるほどな」

 クラウスはブリッジの上で、軍事帝国ヴァルキリアスのアリス皇女殿下が支援のために寄越したユニコーン達から上げられた資料を見てため息をついていた。

 支援は、聖女ユウティーシアが魔法帝国ジールに駆けつけた事で各国からの支援を引き出すことには成功していた。

 船や陸路では、物資の輸送に時間がかかりすぎる事からコルク・ザルトが寝ずに各国からの物資を輸送している。


「アリス皇女殿下は他には何も言ってはいないのか?」

 クラウスは、目の前に座るロウトゥに確認のために聞くが……。


「ユウティーシア嬢には以前、大変迷惑をかけたのでとしか言われてはいません。ただ……」

 そこでロウトゥは、夜会で出会った少女ユウティーシアと先ほど見たユウティーシアを脳裏で見比べて彼女を思い出す。

 自らの身を差し出す事で誰かを守りそして逝った己の部下であったカリナと言う女性に、今のユウティーシアからは同じ匂いを感じた。

 自らが手塩にかけた最高の暗殺者であると同時に最も幸せになって欲しかった者でもあった。

 その願いは叶えられる事は無かった。


「クラウス殿下、差出がましい事ですがユウティーシア嬢はそう長くは無いのではないですか?」

 ロウトゥの言葉にクラウスの持つ報告書がほんの少しだけ強く握り締められる。


「そんな事はない。用件が済んだのならばすぐに治安維持に戻ってくれ」


「分かりました」

 ロウトゥは、答えながら自分の考えは間違ってないと理解した。

 夜会場で会った彼女、ユウティーシアはいい意味で言えば才女でありこちらの全てを見通してくるような少女であったが、悪い意味で言えば彼女には感情が無かった。

 ただ、知識だけを与えられた人形、感情を失った人間それが暗殺者であるロウトゥの琴線に触れた。

 だから彼女を助けた。

 自らの主であるアリスを裏切ってまで、ユウティーシアを助けた。

 人の心を持ち誰かを守るためなら自らが傷つく事を厭わなかったアリスの母親であるカリナにユウティーシアの雰囲気はとても似てるとロウトゥは思ったのだ。

 だからロウトゥは……。



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