第276話

 俺は草薙の言葉を聞きながら周囲の風景を見ていくがそこは広大では壁に天井が床に至るまで剥き出しの土しかない。他には特に変わった物は見当たらない。それなのに何故、草薙は俺をここに連れてきたのだろう?


「さて、君には彼女が見えてない事でようやくはっきりした。では話を始めようとしよう、私が初めてこの世界に来たのは今から1万年前の事だ。当時、私は日本でプログラミングの仕事をしていてね、副業でホームページの作成も請け負っていたんだ。


 そんなある日、私の元に一通のメールが届いた。そこには神木島の祭りのホームページ作成依頼が書かれていた。そこで私は、取材中にある女性に出会った。彼女は自分の事を神と言っていたが私は頭のおかしい女としか思っていなかった。

 そして取材中に彼女は私にこう告げてきた。

 自分達の領域を犯してくる者を倒す手伝いをしてほしい、そのためには貴方の協力が必要だから力を貸してほしいと。代わりに私が高校時代から引きずってる問題を解決してあげると提案してきた。

 最初はまったく耳を貸す気は無かったが彼女は、高校時代の修学旅行で一人だけ助かった私の罪悪感を指摘してきた。力を貸してくれれば君が交際していた相手を助けてあげようと」


「それで、その提案をしてきた女性の手伝いはしたんですか?」


「いいや、一度死んだ人間が生き返るなんてそんな事はあり得ない。60歳近くになった男にそこまでの情熱はなかった」


「なら何故、ここに?」


「簡単な話さ、彼女は実力行使にでたんだ。自らの領域を侵す者達への対抗馬として私や他の者達を利用してるんだ。まぁその領域を侵す者を私が作り出した訳なのだから彼女の唯一の失敗は私を異世界へ移動させてしまった事だろう。この世界に来てからはあった事は無いが、異世界に来た反動で私の体は高校時代に若返ってから一切、年齢を積み重ねる事は出来なくなった。

 そしてここからが問題だ。人間の寿命と言うのはテロメアに左右される、なら精神の寿命は何に左右されると思う?」


「何に……」

 大人と子供と老人の違い、それは好奇心の差だろう。年齢を重ねる毎に人は同じ事を経験として理解してる為に、感動が少なくなる。それが続けば無感動となり精神的寿命になる可能性がある。


「心の動き、つまり感動するかどうかですか?」


「そうだな、大体はあってるが精神の寿命と言うのは簡単に言えば知的好奇心つまり欲望に他ならない。幼い子供が何故、あんなにすぐに言葉を話せるようになり物事を理解し分かるようになるかと言うのならば、そこには飽くなき探求心と言うなの純粋な欲望があるからだ。

 そして1万年も長生きをすると分かるのだよ。自分の精神的寿命と言うのがね、そこで私は精神を健康的に若さを保つために自分の精神の中にもう一つの人格を作った」


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