第0099話 幻術使いの呪いがごとき命令

 今、ハニーたちと一緒いっしょに、神都しんとにある俺たちのマンションの食堂しょくどうにいる。

 夕食の団欒だんらん一時ひとときを……みんなと楽しい時間を共有きょうゆうしているところだ。


 夕食の前に、ハニーたちには、自動翻訳機能じどうほんやくきのうを使える能力を付与ふよしておいた。


 魔族の女性たちもハニーになってくれたことだし、古代魔族語こだいまぞくごを話す、別宇宙からやってきたセヴォ・ブナインも仲間に加わった。

 なので、ハニーたち同士どうし不自由ふじゆうなくたがいにコミュニケーションがとれるように、自動翻訳機能じどうほんやくきのうを利用できる能力を付与ふよしておいた方が良いだろうと判断したからだ。


 現在、ハニーたちは種族しゅぞく垣根かきねえて、何も考えずとも、普通ふつうに会話を楽しめるようになっている。 だからもう、いちいち念話ねんわで会話する必要もなくなったのだ。


 今夜の夕食の団欒だんらんは、いつもにも増して、より一層いっそう楽しめているように見える。


 あたらしく仲間なかまになってくれた者たちの紹介しょうかいとおたがいに親睦しんぼくふかめてもらうために、ここで、みんなで一緒いっしょ夕食ゆうしょく団欒だんらん一時ひとときごすことにしたんだが……


 この自動翻訳機能じどうほんやくきのうは、それにおおいに役立やくだっているようだ。



 この場には、シオリと全管理助手ぜんかんりじょしゅにも来てもらっている。


 もちろん未開みかい砂漠地帯さばくちたい神術しんじゅつ練習れんしゅうをしてもらっていたハニーたちもちゃんとむかえにってきたのでここにいる。


 神術指導しんじゅつしどうをしてくれていたシェリー、宇宙間転移でやって来たセヴォ・ブナイン、ダンジョンで新たに仲間となったハニーたちも……攻撃神術の練習をしていた者たち全員、ちゃんとここにそろっている。


 彼女たちはおも存分ぞんぶん、たっぷりと"攻撃神術"の練習ができたんだろう。

 なんかとても充実じゅうじつした表情を浮かべている。シェリーの御蔭おかげだな。


 攻撃神術の練習の興奮こうふんさめやらぬのか、彼女等は今、攻撃神術の話題で非常に盛り上がっている。 その御蔭おかげでセヴォの意識も俺の方に向いていないのでありがたい。


 ここでグイグイとせまられたら、ちょっと面倒めんどうなことになりそうだもんなぁ……。



 闇奴隷やみどれいオークションから救出してきた女性たち10人もこの場にいる。


 あ! 彼女たちは俺のつまになったわけじゃないし、仲間になってくれるかどうかもまだ聞いていない。 だから、彼女たちには、まだ加護かご付与ふよしていない。


 自動翻訳機能利用能力じどうほんやくきのうりようのうりょくも与えてないんだが……えずは、会話には不自由ふじゆうしていないようだ。


 彼女たち10名の中には魔族の女性も2名いるんだが、会話にもこまっている様子はない。 彼女たちは、もともと語学ごがく堪能たんのうなのかも知れない。


 なお、彼女たち10名が今後こんごどうするかについては、この夕食後ゆうしょくご相談そうだんすることになっている。


 けっして"うぬぼれて"言うわけじゃないが……

 これまでの経験けいけんから、どうも彼女たちも俺の嫁さんになってくれるような気がしてならない。


 う、うぬぼれじゃないからな! 経験則けいけんそくっていうか、なんていうか……だっ!



 ああ、もちろん、勇者ユリコ とふたた意識いしきもどした 橘ユリコ もここにいる。


 橘ユリコも管理助手かんりじょしゅになることを承諾しょうだくしてくれた。

 だからふたりには、"宇宙ステーション" を出る前に、他の管理助手たちと同等どうとう能力のうりょく権限けんげんを与えておいた。


 彼女たちふたりも他の管理助手たちと同様に、マップ画面を見られるようになっているし、キャットスーツがなくても、この惑星内であれば、自分がのぞむ好きな場所に転移・転送することも可能になっているし……


 今の "だぶるユリコ" は、管理助手たちが持つ能力のすべてを得ているのだ!



 橘ユリコは自分に管理助手がつとまるのか少々不安ふあんげだったが、ユリコに説得せっとくされて

引き受けてくれることになった。


 まぁ、そうなるようなことは、まずないだろうが……

 もしも自分には向いてないと感じるようなら、その時は無理はさせないつもりだ。


 管理助手はやめてもらってもいいと思っている。

 まぁ、気楽きらくに、まずは試しにやってみる…くらいに考えてくれればいい。


 『たちばなユリコ』には、この世界にれるまでは、勇者ユリコと一緒いっしょにさゆりの下で管理助手としての仕事しごとを学んでもらおうと思う。その方が 橘ユリコ にとって良いと思ったからだ。


 日本人としてらしたことがあるふたりなら、橘ユリコとも話が合うだろうし……


 勇者ユリコにいたっては、もともとが同じ魂だったのだから、橘ユリコのこころった考え方ができるだろうと期待きたいしたからである。


 "勇者ユリコ"の方の基本きほんシステムは『勇者エディション』なのだが、"橘ユリコ"の方は通常の『管理助手エディション』にしておいたので、根本的こんぽんてきな考え方にが出る可能性はある。 だが……まぁ、それはたいした問題ではないだろう。


 しかし……をなんとかしないといけないなぁ。


 『勇者ゆうしゃユリコ』、『たちばなユリコ』ってぶのもなぁ。 なんかしたしい間柄あいだがらではないような感じだし……そもそも、びづらいもんなぁ。


「あのさぁ、ユリコ……」

「はい」「なぁに? シン?」


「あ、ユリコさんの方でしたか? すみません」

「あ、ユリコさんを呼んだのかな? ごめん」


「いや、ふたりにようがあるんだけど。 お前さんたち、ふたりに関係かんけいする話をしようと思ったんで、ふたりともばれたと思ってもらっていいぜ」


「え? なに?」「え? なんでしょうか?」


 さ、さすがだな。 まるで双子ふたごのようだ。 返事へんじがシンクロナイズするぞ?


 でもなぁ~んか 橘ユリコ のほうは、ちょっと他人行儀たにんぎょうぎ態度たいどだよなぁ……。


「えーと、これからはお前さんたちをどうべばいいのかなぁ…と思ってさぁ。

 前世ぜんせのように『ユリコ』って呼ぶと、どちらのユリコを呼んだのか "ハッキリ" しねぇだろ? だから、かたを変えた方がいいんじゃねぇかと思ってさ」


「はい。そうですね」「ええ。そうね。そうした方がいいわね」


なに希望きぼうはあるかい? ふたりとも『ユリコ』って呼ばれた方がしっくりくるとは思うんだが……どうだろう?」


 これには『たちばなユリコ』の方が先に答えた。


「それでは、前世ぜんせで、私たちがおつきあいを始めた頃のように……

 私のことは『ユリ』と呼んで下さいますか?」


 そうだったな。 俺は彼女のことを『ユリちゃん』って呼んでたんだ。


 橘ユリコは自分の方がこの世界には後からやってきたので、呼び名を変える必要があるというのなら、自分の方だと思ったんだろうな。


 "謙譲けんじょう美徳びとく" というのか、このやさしさは、やっぱりユリコだよな!


 ああ……この子には やはり 俺の嫁になって欲しいなぁ。

 どうにかして俺の嫁になってもらえないもんかなぁ。


 しかし、なんというか、彼女の他人たにん行儀ぎょうぎ態度たいど……

 俺が『壱石ひとついし 振一郎しんいちろう』だとは、まだ信じられないってことなんだろうかな?


「ああ、思い出したぜ。そうだった。俺たちがつきあい始めた頃は、俺はお前さんのことを『ユリちゃん』って呼んでたんだよな。

 で、俺は『シンくん』って呼ばれてたっけ。 ははは。 なつかしいなぁ。

 それがいつの間にか『ユリコ』、『シン』ってうようになったんだよな?」


「いつの間にかって!? え!? おぼえてないの!? じょ、冗談じょうだんだよね?」

「え!? まさかおぼえていらっしゃらないのですか!?」


 へっ? な、なんか "きっかけ" があったんだっけ? え? え?


「えーと……ごめん。 何がきっかけだったんだっけ?」


「うそっ! …… しんじられな~い! ねぇ? 本当に!? 本当におぼえてないの!?」

「え……。そ、そんなぁ……」


 ユリはかなしそうな表情ひょうじょう疑惑ぎわく眼差まなざしを俺にける。

 本当は『シン』じゃないんじゃないかという思いが強くなったのか?


 ユリコが ニヤニヤ しながら……


「ねぇ、ダーリン、実は本当は『シン』じゃなかったりしてぇ~?

 ねー、ユリちゃん、そう思わな~い?

 まさかあの時のことをわすれるなんてさぁ~、信じられないわよねぇ?」


 あ、あの時のこと? うぅ……思い出せない……。


「はい。ユリコさん。話し方もちがいますし、やはりシンじゃないんじゃぁ……」


「あ、ユリちゃん。"『さん』づけ" はやめてね。

 私たちはなんというか……双子ふたごのようなものでしょ? だから、そうね……

 私の方が先にこの世界に転生したからぁ、私のことは『おねえちゃん』って、呼んでくれないかなぁ?」


「え? あ、はい……、分かりました。 お姉ちゃん……」

「うん! ユリちゃん、よろしくね!」


 ふたりがそんなことを話している間も、俺は必死ひっしにきっかけとやらを思い出そうとしていた。


 うぅぅ……いったい何がきっかけだったんだっけかなぁ?


 『Suspended Animation』状態だった彼女たちにとっては、多分、2、3年前の出来事できごと…っていう認識にんしきなんだろうけどさぁ……


 この俺の方は、彼女たちがくなってからも数十年余分よぶんに生きたんだぜ?


 そのきっかけとやらは、俺にとっては数十年前の出来事できごとなんだよなぁ……

 そんなのおぼえてないよぉ~。とほほ。 なんだったかなぁ~???


「あのさぁ、お前さんたちにとっては2、3年前の出来事できごとなのかも知んねぇがなぁ、俺にとっちゃ、数十年前の出来事できごとなんだぜ?」


 ユリコの表情がけわしくなる? ユリは愕然がくぜんとしている?


「え!? 私たちが はじめてむすばれたとき のことをわすれたって言うの!?

 はぁ……ホント信じられないわ……。 何十年前だって、私たちのことを大切たいせつだと思っていたなら、ちゃんとおぼえているんじゃないのかなぁ、普通ふつうは?」


「そ、そうです。 やはりあなたは シンの偽物にせもの ですね?」


 あ! 思い出した! そうだ! 高2の夏休みだ!


「ああ……ようやく思い出したよ。 高2の夏休みだった…よ・ね?

 そ、そうだよ……あの時からだよ…ね?」


 ふたりの顔にはホッとしたかのような表情が浮かぶ。


「はぁ~。よかった。 もうダーリンのことがきらいになるところだったわ。

 私たちのことなんか どうでもいいのか と思っちゃったんだから!」


「本当に、シンのニセ者だと思ってしまいました。 とてもショックでした」


「す、すまん……」


 なんかわけをしようかとも思ったのだが……やめた。

 こういったケースでは、わけは、絶対ぜったい結果けっかまないからだ。


 >>マスター。その判断はんだん正解せいかいです。

  わけをした場合、98.7%の確率かくりつ状況じょうきょう悪化あっかしたと思われます。


 <<そ、そうか……あぶなかったな。ふぅ。

  ま、まぁ、えず、分析ぶんせき、ありがとうな、全知師ぜんちし


 だまりこくって、なに弁明べんめいをせずかたまっている俺を見てユリコが、ムッとしたような表情をしながら言う……


「いくら い~っぱい! お嫁さんができたからって……忘れるなんてさ!

 しっかりしてよね、ダーリンっ!  もうあっちに行こう! ユリちゃん!」


「え? あ、はい! あ、お姉ちゃん、待って下さい」


 ほ、歩幅ほはばが大きく、歩みは速いな!? あれはおこっているよなぁ……。

 ユリコは、談笑だんしょうしているマルルカとマイミィの方へと歩き去って行った。


 ユリコは "ぷんすか" おこりながらこのり、ユリがいそいでユリコのあとっていく……。


 呆然ぼうぜんとしている俺にむかって さゆり が声をけてきた。


「あららぁ……ダーリン、やっちゃったね? うぷぷ!」


 かたわらで、ずっと黙って ニコニコ しながら俺たちのやりとりを見ていたさゆりは、そう言って俺をからかってから、ユリコたちのあといかけていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 今夜こんや夕食ゆうしょく団欒だんらんも、とても楽しくて、心地好ここちよいものであった。

 楽しすぎて、時間を忘れそうになるくらいだったのだ。


 一晩中ひとばんじゅうでもみんなとの団欒だんらんを楽しんでいたかったのだが、このあと闇奴隷やみどれいオークションから助け出した女性たちと、今後こんごり方について相談することになっていたし……


 俺の記憶きおくうばった、当時とうじの日本担当助手だったユウガヲによって反逆者はんぎゃくしゃ汚名おめいせられて、この惑星へと流刑るけいされた女性『ミサヲ』……数十年間ものながきにわたり、シオン神聖国で奴隷どれいにされてこき使われている彼女を助け出しに行こうと思っているので、うしがみかれるおもいをって夕食会はお開きにした。

(→第0090話参照。)


 まぁ、今回に限らず、この思い…後ろ髪を引かれるような思いでお開きにするのは毎度まいどのことなんだよなぁ……


 楽しい一時ひとときはあっというってしまう……。



 さて、闇奴隷やみどれいオークションから助け出した女性たちは次の10名である。


 シンフォニ(16歳。魔族)、 コンチェル(17歳。魔族)、

 アイナ(17歳。ダークエルフ族)、 ツヴァナ(17歳。ダークエルフ族)、

 ムイン(16歳。ドワーフ族)、 メルイ(17歳。ドワーフ族)、

 ラルン(16歳。うさぎ族)、 フュー(15歳。うさぎ族)、

 シュハク(16歳。人族)、 サギリ(15歳。人族)


 全員が各種族かくしゅぞく神殿しんでん神子みこだ。


 うらでシオン教徒がからんでいたらしいので、俺へのいやがらせの意味もあって、ワザと神殿しんでん神子みこさらってきたんだろうと思う。


 シオン教徒め! 本当にゆるせんヤツらだ!


 彼女たちには夕食後の後片付けの後も、そのまま食堂しょくどうのこってもらった。


 そのまま食堂しょくどうで話を聞くことも考えたのだが……

 俺の部屋へと移動し、そこで今後のり方について話し合うことにした。


 さいわいなことに全員ぜんいん凌辱りょうじょくされるようなことまではされてなくて、その点だけはなんというか救いだったんだが……

 無理矢理奴隷どれいにされて、屈辱的くつじょくてきともいえる"いやな思い"もたくさん味わったことだろうし、ひょっとしたら、デリケートな話もしなくてはならないかも知れない。


 そう考えて、俺の部屋に来てもらって話した方が良いと判断したのだ。


 子供たちには聞かせたくないような話も出るだろうから、キャルたちにはいつものようにラフの部屋でパジャマパーティーをしてもらう。



「あしたのぉ、ぴくにっくで~と、たのしみなのぉ!」

(うん! うん!)

「ラフお姉ちゃんと美味おいしいお弁当べんとうをつくろうね~」

「うん! たのしみぃ~っ!」


 きゃっきゃ! わいわい! きゃっきゃ! うふふ! ……


 子供たちはすごく楽しそうに、明日のことを話ながら俺の部屋から出て行った。


 夕食の席で、明日はニラモリア国の首都しゅと近郊きんこうにピクニックデートに出かけることになったのである。


 ダンジョン探査たんさ終盤しゅうばんで、キャルたちと約束やくそくしたれいの"ピクニックデート" をすることになったのだ。(→第0074話参照。)


 ちなみに明日の夕食はバーベキューパーティーをすることになっているんだが……


 その前に、ニラモリア国での嫁選よめえらび……といっても、希望者全員を嫁にするつもりなんだが……それ…嫁選びもおこなう予定になっている。


 明日あす結構けっこうタイトなスケジュールだぜ……ふぅ~。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 キャルたちがラフの部屋へと移動して、今現在、俺の部屋には俺と、闇奴隷やみどれいオークションからすくい出した女性10名だけが残っている。


 10名がゆったりと腰掛こしかけられる大きなソファーに皆が座っており、飲み物を飲みながら雑談をしている。


「えーと。みんな、ちょっといいかな?

 これからのことなんだが、お前さんたちはどうしたいか教えてくんねぇかな?

 できるだけお前さんたちの希望きぼう沿うようにするつもりだ。

 だから、まずは遠慮えんりょなしにお前さんたちが思っていることを……

 お前さんたちの素直すなおな気持ちを聞かせてくんねぇかな?」


 故郷こきょうに帰ることをのぞむ者もいるだろうし、このまま神都しんとの神殿に残って、俺たちと一緒いっしょはたらきたいと思っている者もいるかも知れない。


 彼女たちの希望きぼうには、できるだけ沿ってやりたいと思っている。


 そう思っていると、女性たちみんながたがいに顔を見合みあわせながら大きくうなずくと、ダークエルフ族の神子みこ、"アイナ" がみな代表だいひょうしてくちひらいた。


上様うえさま。 私たちを奴隷どれいオークションからおすくい下さいましてまことにありがとうございました。 あらためまして、衷心ちゅうしんより御礼おんれいもうげます」


 全員がソファーから立ち上がり、深々ふかぶかあたまげる。


「なんのなんの! いいってことよ! 全員を無事ぶじに助け出せて本当によかったぜ!」


「それで、あのう、上様うえさま。 おたずねのけんですが……

 奴隷どれいオークションからお助けいただいた時に、シオリ様から今後こんごどうしたいのかについて考えるように言われていましたので、そのことについては、ずっとみなで話しておりましたが……」


 魔族の子もいるというのに、ちゃんと話し合いができたのか?


 やっぱり語学ごがく堪能たんのうな子たちなんだろうかなぁ? 魔族語が分かる子がいるのかも知れないな? あ、逆も考えられるのか……魔族以外のヒューマノイド種族の言語をかいする…話せる魔族の子がいるということなのかも知れない。


 まぁ、えず今はどうでもいいか……。


「おお。そうかい? ならばもうある程度ていどは考えがまとまっているんだね?」


「あ、はい。 あのう、それが……大変たいへん ずうずうしい ねがいかとぞんじますが……

 そのう……私たちは全員が上様うえさまきさきになることをのぞんでいます!

 上様うえさま! これがぶんえたねがいであることは重重じゅうじゅう承知しょうちしております。はじ外聞がいぶんもかなぐりてておねがいします!

 どうか……どうか私たちのこのねがいをかなえて下さいませ! お願いします!

 私たちは全員が、ずっと上様うえさまのおそばとうございます!」


 ふたたび全員が深々ふかぶかあたまげる。

 涙目なみだめになっている者、むねまえいのるかのようにしている者もいる。


 あぁ。やはりそういう事になったか。 みんなが本当にそうのぞんでくれるのなら、こんなに嬉しいことはない。大歓迎だいかんげいだ。 俺には断る理由なんてない!


 しかし、ホント、この俺はいったいどうしちまったんだろう……


 魂の綺麗きれいな女性に『好きです。嫁にして』って言われると、まるで条件反射的じょうけんはんしゃてきにその女性のことを好きになってしまい、是非ぜひとも嫁にしたくなってしまう。


 嫁にしてくれと言われて、ことわった事なんてなかったんじゃぁ……

 あ? いや、あったな。 セヴォ・ブナインとサブリネ・グロウグルには断ったな?

(→第0039話、第0088話、第0089話参照。)


 だがなぁ、ノアハを奴隷にしたサブリネを好きなるようなことはないだろうから、まず嫁にすることはないだろうが……(→第0039話参照。)

 セヴォ・ブナインのほうは、ちょっとかれつつあるからなぁ。 恐らく、その内に嫁にしちゃうような気がするなぁ……。


 れっぽい人仕様しようの基本システムが暴走ぼうそうでもしているんだろうか??

 おっと、いかん! いかん!


「ここにおります全員、私も含めて、后候補きさきこうほとしてリストアップされましたが……

 実際に、候補としてはえらばれなかった神子みこたちでございます。

 そんな私たちがこの機会きかいじょうじて上様うえさまきさきになることをのぞむとは、大変たいへんおそおおいこととはぞんじます。ですが、これは…上様うえさまきさきになることは、みな子供こどもころからのゆめなのです!

 どうか、私たちのこのねがいをおとどくださいませ! どうかお願いします!」


 みななみだをいっぱいめながらむねまえみ、いのるかのようにしている。


 この子たちはなんと謙虚けんきょなことか! 全然ぜんぜんおそおおい願いじゃないんだけどなぁ。

 こんなにしたわれて……俺は本当にしあわせ者だよなぁ。 ああ……もうあらがえない!


 よし! ハーレムがどんなに拡大かくだいしようがもうかまうものかっ!

 ここにいるみんなに、俺のきさきになってもらおう! "ケセラセラ" だ!


「ありがとうな。 みんなにこんなに思われているなんてなぁ……

 俺はなんという幸せ者なんだろう! みんなの気持ち、すっげぇ嬉しいぜ!」


 みんなは、俺の口から次にどんな言葉が出てくるのか不安ふあん半分はんぶん期待きたい半分はんぶんといった面持おももちで固唾かたずんでつ。


「みんな! お前さんたちの気持ちは受け取ったぜ! 大歓迎だいかんげいだ!

 こちらの方こそ、お前さんたちには是非ぜひとも嫁さんになって欲しい。

 みんな! どうか俺のところに嫁に来てくれ! 頼む」


「"はいっ!……きゃぁーっ! 嬉しいっ!"」


 神子みこたちは全員が俺のもとへとあゆり、俺をかこみ喜びの気持きもちを爆発ばくはつさせるかのように、俺の身体からだれながら ぴょんぴょん とびはねている!


 なかには号泣ごうきゅうしている者もいる。 男冥利おとこみょうりきるってもんだな!

 ん? 冥利みょうり? 『男冥利おとこみょうりきる』ってのは、神の俺が使うのはちょっと変か?

 まぁ、こまかいことは気にしない、気にしない。ははは!



 そんな女性たちの中でただひとり、喜びの表情を浮かべた直後に、すぐにうつむいてしまい、けわしい表情ひょうじょうかべている者がいるのを見逃みのがさなかった。


 彼女だ! オークション会場にいる時、隷従れいじゅう首輪くびわめられていても、うつろな目をしていなかった唯一ゆいいつの女性……人族の女性、"シュハク" だ!


 これは絶対ぜったいに何かあるな? 何かなやごとかかんでいるようだな?

 この後、ここに残ってもらって話をしてみよう。


 どうもあの表情は気になる。 何か分からないが、悲愴感ひそうかんすらただよう。


 シオン神聖国で奴隷どれいとなっている流刑者るけいしゃ、ミサヲを救出に向かう予定時刻までにはまだ間がある。 彼女、"シュハク"と話をするくらいの時間は充分じゅうぶんにとれるだろう。



 ◇◇◇◇◇◆◇



 新しく嫁になってくれた女性たちには、すぐに俺の部屋で加護かご付与ふよした。

 もちろん、ハニー装備一式もプレゼントしてある。自動翻訳機能利用能力じどうほんやくきのうりようのうりょくも当然、付与ふよした。


 そして今、俺たちは俺の部屋のリビングにあるソファーで紅茶こうちゃを飲みながら団欒だんらんを楽しんでいるところだ。


 もともと、何もしなくても、一応コミュニケーションはとれていたようだが……

 俺が加護かご付与ふよしたことで彼女たち全員が自動翻訳機能じどうほんやくきのうを利用する能力も得たので以前よりも、より一層いっそう会話かいわはずむようになったようだ。


 俺がこの場にいるのは気恥きはずかしく、場違ばちがいじゃないだろうかと思えるくらいに、女子トークががっている?


 なんとまぁ、この俺本人を目の前にして、俺をさかなに盛り上がっているのだ。

 恥ずかしくなってくるくらい俺のことをほめまくっている。どうも居心地いごこちが悪い。



 念話回線ねんわかいせんをつないで、BGMとして日本人だった頃に俺が好きだった音楽を流しているので、まるで喫茶店きっさてんにでもいるかのように錯覚さっかくしてしまう。


 彼女たちの会話ははずんでいる。

 だからBGMに耳をかたむけている子なんてひとりもいないようだ…と思ったら……


 ん? うさぎ族の子、ラルンがほおめ、モジモジしている?


 彼女と目が合った! すると彼女はこれさいわいと俺にたずねてきた。


「あのう……ダーリン。 今流れている歌にダーリンの私たちへの思いが込められているんですね? そうなんですね?」


 おお。この子はBGMにみみかたむけていてくれたんだ! 嬉しいな!


 ん? でも……どういう意味だ?

 恋愛や愛についての名曲めいきょく選曲せんきょくして、BGMとして流してはいるんだが……


 えーと、今流れているのは……Lady か!? Kenny Rogers の Lady だな!?


 ああ、なるほどなぁ。"あなたをどれほど好きなのか"を歌い上げているような歌詞だもんなぁ。 なるほど、この歌が彼女の心にひびいたんだな?


 偶然ぐうぜんとはいえ、なんかちょっと嬉しいな。


 日本人だった頃は語学が苦手だったんで、どちらかというと歌詞の意味よりも曲のほうが好きで聞いていたんだが……


 へぇ~、これは愛をうたう、あま~い バラード だったんだなぁ?


 意識して選んだわけではないが、ハニーたちをいかに愛しているかを伝えるのにはってけのバラードだよなぁ。( R.I.P. > Kenny Rogers ! 黙祷もくとう…… )


「俺が好きな曲を集めて流しているだけなんだが……じつ偶然ぐうぜんなんだ。

 確かに今流れている歌は、俺がいかにお前さんたちを愛しているかを伝えるには持って来いの歌だよな。

 まぁ、だから、結果的にはお前さんの言うように、俺のお前さんたちへの気持ちを表しているってことにはなるな。

 それよりも、ラルンは ちゃんと BGMに耳を傾けていてくれたんだね?

 嬉しいなぁ。ホント、すっごく 嬉しいぜ!」


 ラルンはずかしそうに微笑ほほえんだ。

 その仕草しぐさいとしくて、つい、いつものクセできしめたくなってしまった……


 あ、これだけはもうえておくぜ!

 もちろん、理性でそれをグッと我慢がまんしたとも! と、当然だ! ふぅ。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 まだまだ話をしていたかったのだが……


 この後も俺はまだ色々とやることがあるので、みんなが紅茶こうちゃを飲み終えたところで今回はお開きということにした。


「それじゃぁ、みんな、おやすみ。楽しい ひととき をありがとうな」

「"こちらこそ、ありがとうございます。おやすみなさい。失礼します"」 ……


 新しく嫁になってくれた10人のうち、なんとなくくらい表情をしている"シュハク"をのぞく9人は、このマンションの1かいホールに設営せつえいしてある野営用やえいようテントない自室じしつへともどって行った。


 みんなはこのまま俺と一緒いっしょ一夜ひとよごし、むすばれることを望んだのだが……


 さすがにそれは性急せいきゅうすぎるし、ソリテアが管理している"スケジュール"にはないおつとめをするわけにはいかない。

 それに、暗い表情をしたシュハクの話を聞く件、シオン神聖国への奴隷救出作戦の件もあるから、残念ながらみんなにはお引き取りいただいたのだ。


 パタン!


 9人をおくし、とびらめて、俺のうしろにひかえているはずのシュハクに話しかけようと、うしろをかえった時である!


 俺ははらに "ズンッ!" といった衝撃しょうげきかんじた!?


 ゴトッ……ボタボタボタ……


 ゆかかれたカーペットのうえまみれの短剣たんけんちた?

 短剣が落ちた場所の周囲しゅういは血にまっている!?

 なおも血がボタボタと落ち続けている!?


 ん? シュハクの手は血まみれだ!? なんだ!? そ、そうか俺のはら短剣たんけんを……


 ズサッ……ドサッ!


 俺はひざからカーペットの上へとくずちたのだった……


「ごめん…なさい……ごめんなさい。ううう……こ、こうしないと…子供たちが……子供たちがぁ……ご、ごめんなさい……ううう……」


 シュハクはきながら、ただただ 謝罪しゃざい言葉ことばかえす……


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