第0083話 すべては妹を救うために……

 神殿騎士隊長のテアンが俺に気付く……


「あ。上様! ボニーが殺されました! 左胸を一突きにされています」

「それで犯人は?」


「残念ながら……魔導士風の男があわてて立ち去るところを目撃した者はおりますがフードを目深まぶかかぶっていたため顔は見えなかったとのことです。

 あ、それから……これをご覧下さい」


 テアンがそう言いながら、ボニーの右手を少し持ち上げる……

 ボニーの手には小豆大あずきだいのダイヤモンドらしき粒が数個あった。


 ボニーは強くにぎりしめていたのだろう、手の平にはそのダイヤモンドらしきもののあとが赤く残っている。親指と人差し指の間あたりには傷もある?

 よく見ると地面のあちこちにダイヤモンドらしき粒が散らばっていた。


 これは例のネックレスじゃないのか?

 ボニーを殺した犯人はフィルのネックレスをボニーの手からうばおうとして争ったということなのか?



 ボニーの魂の履歴に記録された映像を見る……


 くそっ! 犯人の顔はやはりフードが邪魔をしてよく見えないな。


/*--> ここから記録映像開始……


 ボニーとボニーを殺害した犯人は小声で何やら言い争っている?

 ボニーの両手にはそれぞれに全く同じように見えるネックレスが握られている?


 あれがフィルが大切にしていたネックレスなのか? 同じものが2つあるのか?


「……いいから早くその本物の方をフィル様の首につけてこいって」

「もう無理よっ。上様に気付かれてしまったもの。今さら姫様の首に本物をつけるなんてできない」


「だったらジュエリーボックスにそれとなく戻しておけばいいじゃねぇか?

 何か聞かれたら『どさくさに紛れて盗まれたりしないように保管した』とかなんとか言えば大丈夫だろう?」

「それももうダメ。 誰かが必ず姫様の側にいるのよ?

 誰にも気付かれずジュエリーボックスに戻すなんて絶対に無理だわ。

 ……ああ。なんてことなの……

 まさかこの偽物のネックレスが姫様をあやつって自殺に追い込むための隷従の首輪れいじゅうのくびわだなんて……姫様を自殺に見せかけて殺すだなんて……ひどい……

 そんなことはひと言も言ってなかったじゃないの!

 そうと知っていたら絶対に引き受けなかったわ!

 もうおしまいよ! これを上様に見せてなにもかもあらざらいお話しするわ!」


 ボニーの声がだんだん大きくなる……


「しっ! 声が大きいぞ! 誰かに聞かれたらどうするんだ!

 妹が人質になっていることを忘れるなよ! あの大使のことだ。事が露見ろけんすれば妹は見せしめにむごたらしく殺されちまうぞ! それでもいいのか?」

「そ、そんなぁ、お願い! コニーを返して! 私は言われたことはやったわよ!

 言われたことをやったらコニーは無事に返すって約束したじゃない!

 私に命令されたのはネックレスのすり替えだけよ! それはちゃんとやったわ!

 約束は果たしたんだから妹は無事に解放してよ! ねぇ、お願いだから……」


「もう少し声のトーンを落とせよ!

 妹を無事に解放してもらいたいならお前は誰にも何も言うな! らぬぞんぜぬを通せ! いいな!?

 さあネックレスを二つとも俺に寄越よこせ。 俺が処分してやるから。

 ネックレスを持っていなければお前が疑われることもねぇだろうからな……

 さあこっちに寄越せ!」

「こ、これは渡せないわ! 妹と引きえよ! 早く妹を連れて来てよ!

 これを渡しちゃったら妹を返してくれる保証がなくなるじゃないの!」」


「心配するな! 俺のアサシンとしてのほこりにかけて必ず妹は無事に解放してやるから……早くそれを寄越せ!

 分かっているのか? お前は交渉できるような立場にはねぇんだぞ!

 ネックレスと引き換えに妹を解放しろと言ってもあの残虐な大使が素直すなおに応じると思うのか? 妹はすぐに殺されちまうぞ? お前にはヤツに従うか従わないかの二択しかねぇんだよっ! 従わなかったら姉妹二人とも消されるだけだ!

 さあ寄越せ、寄越すんだっ!」


 フードを目深まぶかに被った男はふところから短剣を取り出して威嚇いかくするが……

 ボニーはひるまない!


「妹を解放するのが先! そうしたらちゃんと二つとも渡すし、絶対に誰にも話さないと約束するわ!」

「だから俺を信じろって。分からんヤツだな!

 もしも俺が隷従のネックレスすら持たずに大使のもとに帰って見ろよ? お前は目的をたせず、くわだては失敗に終わったと見做みなされてお前の妹はすぐに消される。死体も残らねぇように処分されちまうぞ!

 俺は幼子おさなごをそんな目にはわせたくはねぇんだよ。だからとにかく俺を信じて、せめて偽物だけでも俺に渡せ! な? 早く……」


 ボニーと男はもみ合う……


「……フィル様のところにはもう本物は戻せねぇんだろう?

 お前がもし万が一怪しまれたときにそんなものを持っていたらマズいだろう?

 だから本物の方も俺が処分してやるって言ってんだよ!

 さあ早く誰かに見つかる前にさっさとネックレスを二つとも俺に渡すんだ!

 大使公邸こうていに戻り次第すぐに妹は解放してやるから。さあ! 寄越せ!」


 男はボニーの右手に握られていた偽物にせもの?のネックレスをつかむと、ボニーの手からうばおうと引っ張る……


「……妹を返して! まだ5歳よ。 殺すなんてあんまりよ! ねぇ返して!」


 ボニーはもう冷静な思考ができるような心理状態ではなかった。


 妹を無事に解放させることだけを考えている……

 明らかにこの場は一旦男の要求に従った方がベストであるのに、そのことに思いいたらなかったのだ。


「だ、誰かっ! ボニーさんが襲われているっ! 誰か助けて-ーっ!」


 その時! 女性神官が二人が争っているのを目撃して助けを求める声を上げた!


 驚いた男は、掴んでいたネックレスのはしをグイッと力任ちからまかせに引っ張った! 

 これがマズかった! ボニーはしっかりとそのネックレスをにぎっていたのだ!


 ボニーはバランスを崩して男へと寄りかかる……


「うぐっ……」


 短剣がボニーの胸に突き刺さった!

 その瞬間、ネックレスのひもがちぎれたのかバラバラとダイヤモンドらしきものが地面へと散らばった。


「し、しまったっ! ボニーっ!」


 きゃぁぁぁぁぁぁぁーーっ!


「くそっ! なんてこった! ボニーすまねぇっ! わ、ワザとじゃねぇんだ……

 か、勘弁かんべんしてくれ! ああ……どうしてこうなっちまったんだぁ!

 ……ボニー、約束する! 妹は俺のアサシンとしての誇りにかけて必ず解放してやる。 この命をかけて無事に解放してやるから安心しろ!」


 ボニーは涙を流し……微笑ほほえみながらながら小さくうなずく……


 男は暫時ざんじ、地面に散らばったネックレスだったものの残骸、ダイヤモンドらしき粒を拾い集めるべきか否かを躊躇ちゅうちょしていたようだが……

 それは時間的に無理だと気付き、そうすることをあきめてボニーの左手に握られていた本物のネックレスを奪い取ると東の方へと走り去っていったのだった。


 その姿を見送りながら……ボニーは事切れた……


//<-- ここまでが記録映像 --*/



 ◇◇◇◇◇◇◇



 <<全知師。

  ボニーを殺した犯人を追う何かいい方法はねぇのか?


 >>お答えします。

  現状における最善の方法はミニヨンに追跡させることです。

  ミニヨンの嗅覚きゅうかくセンサーは犬族の嗅覚のおおよそ1億倍です。

  ミニヨンの嗅覚センサーにボニーの体臭と血の臭いをデータ登録して追わせることがこの場合ベストな方法だと進言します。


 犬族の1億倍? 地球にいた犬って人のおおよそ1億倍の嗅覚だったよな?

 犬族の嗅覚が地球の犬とほぼ同じだとしたら……ミニヨンってのはすごいな!


 ミニヨンを1体起動する……


「きゃぁっ! な、なにあの目玉みたいなものは!?」

「上様のしもべかな? く、空中をふわふわしているぞ?」

「なんか恐ろしいわね?」

「ああ……確かに。あっ!? 変な触手が出てきたぞ! うわ~っ。気持ち悪い」

「えっ!? うそ~。 ボニーの身体を触手がまさぐっているわ。変態僕かしら?」


 ミニヨンにボニーの体臭と血液、DNAデータを採取登録させたのだがその時に触手のようなアームがボニーに触れたのを見た野次馬やじうまたちの反応だった。


「よし! 準備ができたらすぐに犯人を追跡せよ!」


 ミニヨンはまるで『ラジャー!』とでも言ったかのように一瞬光った後、即座に追跡行動をとる!


「修復! そして、完全浄化!」


 ボニーの傷を治し、血や泥を綺麗に落としてやったのだ。


 シノに念話回線をつなぐ……


『シノ。聞こえるか?』

『はい。ダーリン。聞こえます』


『ボニーが何者かによって殺害された』

『えっ? ボニーが!?』


『ああ。今回のフィル殺害に彼女はからんでいるようだ』

『そうなると……フィルは自殺じゃなかったっていうことですか?』


『ああ。ワッドランド大使、ザックレイがフィル殺害の黒幕くろまくのようだ』

『なんてことを……許せませんね。これから乗り込んで成敗せいばいしますか?』


『いや。まだだ。証拠がねぇからな。開き直られたら終わりだからな。

 まあ有無を言わさずぶっ殺しても構わねぇんだけどなぁ……

 明日あいつがどう出るかを見てから決めることにするわ』

『分かりました。それでボニーはどうされます? 蘇生させますか?』


『今ボニーを殺した犯人を追跡しているから、それは後から考えることにする。

 えず……今からお前さんの執務室しつむしつにボニーの遺体を転送するからベッドを生成してそこに寝かせておいてくれねぇか?』

『承知しました…………はい。ベッドの生成は完了しましたのでいつでもどうぞ』


『お前さんは今執務室にいるのか?』

『はい。そうです。転送用に、生成したベッドの座標値をお送りしましょうか?』


『ああ。そうしてくれ』

『承知しました…………はい。送信しました』


 ピロリン!


『お。サンキュー。じゃあ今から転送するぞ……転送!』


「あれ? ボニーの遺体が消えたぞ!? 一体どこへ行ったんだ?」

 ざわざわざわ……ざわざわざわ……ざわざわざわ……ざわざわざわ……


「さあみんな! 解散だ! らぬ詮索せんさくはなしだ! それぞれの持ち場に戻れ!」


 ざわざわざわ……ざわざわざわ……ざわざわざわ……ざわざわざわ……


 人々はああでもないこうでもないと、今見たことについてあれこれと推測を言い合いながら、それぞれが本来いるべき場所へと戻っていった。


 神殿騎士隊長のテアン・ホルスト、彼女だけはここに残ってもらうことにした。

 俺と一緒に犯人を追跡してもらうつもりだからだ。



 ◇◇◇◇◇◇◆



「ボニーの魂を調べて分かったんだが、ここに散らばっているのはどうやら隷従の首輪の残骸ざんがいらしい。フィルが普段ふだんつけていたネックレスそっくりに作られていた」


「え? 隷従の首輪なんですかっ!?」

「ああ。それでフィルをあやつって遺書を書かせ、自殺させたらしい。

 それで……本物とこの偽物とをすり替えたのがボニーだ」


「ボニーがフィル様殺害の実行犯なんですか?」

「いや。彼女はワッドランド大使一味に妹をさらわれ、仕方なしにネックレスのすり替えをおこなったらしい。隷従の首輪だとは知らなかったようだし、ましてやフィルが殺されるなんて夢にも思ってなかったようだな」


「なんという卑劣ひれつな! ワッドランド大使めっ! 絶対にただじゃおかないわ!

 必ず証拠をげて……ボニー殺害犯を捕まえて全員成敗してくれる!」

「今はとにかくボニーの妹の身が心配だ。一刻も早く犯人を捕まえてボニーの妹の居場所をかせて救出しねぇとな。テアン。お前さんの力を貸してくれ、頼む」


「はっ! 頼むだなんてなんと恐れ多い……私奴わたくしめでお役に立つのでしたら何なりとお申し付け下さい! 喜んでご協力致します!」

「頼りにしているぜ」


 ミニヨンからメッセージが入る……

 神殿敷地を守る東の防壁のそばで追跡中の臭いが消えているらしい。


「テアン。俺につかまれ! 東の防壁まで転移する!」

「はいっ!」


 テアンは俺に抱きついてきた……言い方がマズかったかな? 腕とかをちょっとつかんでくれるだけで良かったんだが……まあいいか。


「転移!」



 ◇◇◇◇◇◆◇



 東の防壁近く、ミニヨンがいる場所にテアンと共に転移して来た。

 念のために転移後すぐに俺たちをおおうシールドも展開しておく……


 ミニヨンは防壁近くで地表から2mほどの上空を何かを探すかのようにうろうろしている。どうやらここで臭いが消えているようだ。


 ん? この部分の土の色がなんか違うな。 まるで湿っているかのようだぞ。

 ははあ~ん。地下か?


「上さ……」


 テアンも気付いたようなので、『しー。静かに』というように俺の右人差し指でテアンの唇を軽く押さえるように触れて言葉をさえぎり……地形操作神術を発動する!


 ん? なんだ? テアンが頬を染めている?


「地形操作! 隆起りゅうき!」


 まるで掘り返して埋め戻したかのように湿っていた2m四方ほどの地面を、高さ2mほどまでに隆起させると……


「う、うわぁっ! な、何が起こったんだ!?」


 男が声を上げ、盛り上がった土の中から土をけながら飛び出してきた!


 男は俺たちに気付くと俺たちに向かってダガーナイフを次々に投げる!

 だが無駄だ!(だ、だじゃれじゃないぞ!)

 当然のことだがすべてのダガーナイフはシールドにはばまれて地面へと落下した。


「お、俺のダガーが当たらない? お前は誰だ!? 何者だ!?」

「はぁ? ボニー殺しのアサシン。女を手にかけた最低のゲス野郎のてめぇの方が先に名乗るのが筋ってもんだろうが?」


 ステータス情報から名前は『ジェンマ』だということは分かっているんだが一応こういう場面の決まり文句というということで、みずか名乗なのるるようにうながす……


「う、うるさいっ! あれははずみで……誤ってナイフが刺さっちまったんだ!

 あれは事故だ! 俺は悪くねぇ!」


 全く否定しないんだな。驚きだ。しらばっくれるかと思ったんだが……


「けっ! ちょっと女がよろけて倒れかかってきたぐれぇなのに、それすらもけられねぇでよくアサシンなんて言っているよな? 恥ずかしくねぇか? クズが」


「だ、黙れ! 小僧! ファイヤーボール!」


 バシッ!

 放たれたファイヤーボールはシールドに当たって消えた。


「無駄だぜ……何をやろうがてめぇの攻撃なんざ "へ" でもねぇよ。

 さあボニーが味わった苦しみ……いやそれ以上の苦しみをてめぇにもたっぷりと味わわせてやろう……四肢粉砕ししふんさい!」


 ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ! 痛ぇ! 痛ぇ! 痛ぇ! 痛ぇ! 痛ぇ!


 一瞬で身体の内部で四肢が……両手足の骨が付け根からくだけ、男の身体は地面にドサッとくずちる……あまりの激痛に男は大声をあげて泣き叫ぶ!


 その激痛にもがき苦しむ男のふところからポロリとネックレスが地面へと落ちる……

 それを俺の手元へと転送して証拠品として押収し、確認してみることにする。


 これは隷従の首輪じゃないし、ボニーの魂の履歴に記録された映像に出てきた、ボニーの死の直前にうばわれた本物のフィルのネックレスだな。


「修復……さあ何もかもあらざらいてもらおうじゃねぇかっ!

 抵抗は無意味だ。大人しく言うことを聞いた方が身のためだぜ」

「はぁはぁはぁはぁ……お、俺はプロだ! 依頼の内容も、依頼主のことも絶対にしゃべらねぇぞ!」


「依頼主はワッドランド大使だってことは分かっているぜ。 ボニーの妹を人質にして、ボニーにフィルのネックレスを隷従の首輪とすり替えさせたこともな。

 あらかじめ隷従の首輪に仕込んでおいた命令によりフィルを操って自殺に見せかけて殺したこともみ~んな分かっているんだがなぁ……」

「な、なんで知っているんだ!? 本当にお前は誰だ!?」


「あらら。状況を分析ぶんせきした推理を聞かせてやったんだが認めやがったぜ。ははは」

「う……し、しまった!……くっ……がはっ!」


 男は奥歯をかみしめると苦悶くもんの表情を浮かべててた……

 奥歯に自害じがいするための毒が仕込んであったようだ。


「修復! 体内浄化! からのぉ~蘇生!」


 男の身体は淡い緑のベールに包まれた後一瞬光り輝く!


「はっ!? な、なぜだ!? 俺は確かに毒を飲んだのに!?」

「無駄だ。何度死のうが生き返らせてやる……そして……四肢粉砕!」


 ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ! 痛ぇ! 痛ぇ! 痛ぇ! 痛ぇ!


「その度にこの激痛を与えてやる。さあ正直に話せ!……修復!」

「はぁはぁはぁ……だ、誰がお前なんかに話すか……はぁはぁはぁ……」


 これは時間の無駄だな。このくちかたさだけはさすがとめてやろう……


 管理助手さえも服従させられる強力な隷従の首輪を生成して男の首にめ……

 隷属れいぞくするあるじを俺とテアンに指定して奴隷契約を発効する。


「さあこれでてめぇは俺たちの奴隷だ。もはや絶対に抵抗はできねぇ」


 男の目はうつろだ。過去に何度も見てきた『精神支配』された者の目だ。


「大使の目的はなんだ? なぜフィルを殺さなくちゃならねぇんだ?」

「開戦の大義名分たいぎめいぶんが立つようにとかなんとか言っていたが俺にはよく分からねぇ。

 俺が指示されたのはボニーという女とコンタクトをとって、隷従のネックレスと本物とをすり替えるように指示し、その結果を見届け、証拠隠滅しょうこいんめつして帰ることだけだから大使の本当の目的とかは何も聞かされていない」


「フィルがその隷従の首輪に仕込まれた命令で自殺することは知っていたのか?」

「ああ。大使からフィル様の死を見届けて隷従の首輪であるネックレスを回収してくるように命令されていたからな。フィル様が殺されることは知っていた」


 よし。コイツは証人として使えるな。


 ワッドランド大使のザックレイがフィル殺害の首謀者であることは立証できそうだな。大使に『こんなやつは知らん』と白を切られないように明日コイツも大使と同行するように仕向けないとな……


 おっと、そうだ……


「それでジェンマ。ボニーの妹はどこにとらわれているんだ?」

「大使公邸こうてい地下牢ちかろうだ。そうだ。ボニーとの約束を果たさねば……」


 うつろな目をしながらジェンマはボニーとの約束を果たさねばと繰り返しつぶやいている。この男もあながてたもんじゃないかも知れない。


 この男、つかえるあるじを間違えた典型的なパターンのような気がするなぁ……


 マップ画面を表示させて大使公邸地下をスキャン……

 確かに地下牢らしき場所に5歳のサル族幼女の生命体反応がある。

 名前を調べる……コニーだ! この子に間違いない。


 あ、もしたとえ違っても幼子おさなごが牢に閉じ込められているんだとしたら絶対に救い出すんだけどね。


「コニーは俺が助け出してくる! ジェンマ。てめぇは知っていることを洗い浚いこのテアンに話せ! いいな?」

「分かりました。知っていることはすべてお話しします」


「それじゃあ、テアン。コイツを尋問じんもんしてくれ。その後コイツは二重スパイとして働くように命令を与えて、大使のもとへと帰してやれ。

 あ、それとこれを持たせてやってくれ」


 偽物にせものの隷従のネックレスを生成してテアンに手渡す。

 ちなみにこのネックレスの隷従の首輪としての機能を修正し、これをめても俺の言うことを聞くようになるだけにしてある。


「はっ! 承知しました! ですが、ボニーの妹、コニーがいなくなったら不審ふしんに思われないでしょうか?」


「コニーを助け出したら、代わりにコニーそっくりのゴーレムをおいてくるつもりだから、まずバレねぇだろうから安心しろ」

「な、なるほど。上様のなさることですから当然かりはないですよね。大変失礼しました」


「いや。俺にも抜かりがあるかも知れねぇから、これからも何でもいいから疑問に思ったことはすぐ聞くようにしてくれ。その方がありがてぇからな。いいな?」

「はっ! 承知しました!」


「それじゃあ行ってくるぜ。あ、そうだ。他にも入り込んでいるスパイがいるかも知れねぇから、ジェンマを捕らえたことはおおやけにはするなよ。

 こっそりと尋問してから目立たねぇように解放するようにしてくれ」

「はっ! 心得ました! どうぞお気をつけて!」

「転移!」



 ◇◇◇◇◇◆◆



「……うぅぅぅ……おねえちゃん……おねえちゃん……」

「君がボニーの妹さんのコニーちゃんだね? 助けに来たよ」


 一応眉間みけんの印を一際ひときわ輝かせて見せる……


「……うう……う? 神ちゃま? 神ちゃま! うわぁーーーん!」

「よしよし。もう大丈夫だからね。俺と一緒にボニーのもとへ戻ろうね?」


 コニーはおいおいと泣く……


「うるせえぞ! このクソガキがっ! 黙らねぇとぶんなぐる……」


 ぺち! ズガッ!……ズズズ……


「けっ! クソ野郎がっ! こんなかわいい小さな女の子を殴るだとぉ~?

 ふざけるなっ! 決まりだな! てめぇはサンドワームの餌だ! 覚悟しろ!」


 って言っても、俺が話した言葉は多分聞こえていないのだろうがな。


 なぜならろう鉄格子てつごうし隙間すきまから牢番ろうばんの男にやさしくはなったデコピン一発で男はバック宙途中の、逆さになった状態で通路の反対側の壁に激突して……

 しばらく壁に張り付いていた後『ズズズ……』と音を立てながら通路へとずり落ちて気を失ってしまったからだ。


 待てよ……こんなクソ野郎でもここからいなくなるとマズいのか……チッ!

 しょうがないなぁ。 今見た記憶を消してここに放置しておくか……


 こんなヤツの頭が狂おうが知ったこっちゃないから適当に記憶を消してやった。


 さてと長居ながい無用むようだ。コニーの身代わりゴーレムをここに残してずらかるか……


「さあコニーおいで。ボニーのもとに帰ろうね!」

「うん!」


 ぴょーん! といった感じでコニーは俺に飛びつくと、俺の首に手を回して抱きついてきた。


 こんなかわいい幼子おさなごろうに入れるなんて……ザックレイのクソ野郎めっ!

 絶対に許さねぇ! 必ずぶっ殺してやる!


 コニーの身代わりとなるゴーレムを生成した。どう見てもコニーそのものだ。


「うわぁ~神ちゃま、すっごい……」


 自分自身にそっくりなゴーレムが突然出現したことにコニーは驚いている。


「コニーがいなくなったことが悪い人たちに分からないようにね。君にそっくりのゴーレムをおいておくんだよ」


「ゴーレムちゃん、いじめられないかなぁ? 大丈夫かなぁ?」

「コニーちゃんは優しい子だね。大丈夫だよ。ゴーレムちゃんはもの凄く強いから悪者が意地悪しようとしてもやっつけちゃうから安心してね」


 つ、釣られて『ゴーレムちゃん』って言ってしまった! は、恥ずかしい……


「そうなのぉ。ゴーレムちゃんって強いんだぁ! よかったぁ!」


 役目やくめえたら消滅することはせておこう……それを知ったらこの子は悲しむかも知れないからな。


「それじゃあ、ボニーのところに行こうね! 転移!」



 ◇◇◇◇◆◇◇



「コニーっ!」

「おねえちゃん! うわぁーーーん!」


 シノの執務室で待つボニーのもとへコニーを連れ帰ると……

 姉妹は抱き合い号泣ごうきゅうした。


 俺たちもついついもらい泣きしてしまったぜ。


 え? ボニーは死んだはずじゃないのかって? そうだよ。死んでいたよ。


 実は大使公邸の地下牢へコニーを助けに向かう前にシノに念話をつなぎ、ボニーの蘇生そせいを指示しておいたのだ。

 コニーが無事に帰って来ても、姉のボニーがいなければ姉妹双方にとって悲劇だもんな。 そんなかわいそうなことは俺にはできない。


『二人とも元気な姿で再会させてやりてぇじゃねぇか? そうだろう?』


 ただし、ボニーの蘇生はシノの手で秘密裏ひみつりに行われ、ボニーが生き返った事実は俺たちだけの秘密ということになっている。敵の間者かんじゃがどこにひそんでいるか分からないからな。


 シノにはこの神殿に残ってもらって、にらみをかせてもらわないといけないので連れて行かないが、現在この執務室にいる他の者はすべて俺が神国神都中央神殿に戻る際に連れて行くことにしている。


 その方が敵の目をあざむきやすいからだ。


 現在、フィルの遺体は棺桶かんおけに入れられて彼女の寝室に安置あんちされているのだが……

 ボニーの遺体も同様に棺桶に入れて、フィルの隣に安置してある。


 ふっふっふっ! 俺と現在シノの執務室にいる者たちだけしか知らないが……

 実は棺桶の中身は本人そっくりのゴーレムが死体役として入っているのだ!


 それで神殿内にいるのを見られてはマズいのでシノ以外で執務室にいる者たちを神国に連れて行くことにしたというわけだ。


 念のためにシールド発生装置を二つの棺桶の側に置き、二つの棺桶を守るようにシールドを展開してある。ボニーが生きていることや、棺桶の中身がゴーレムだということは、ザハルたちにも知らせないでおくことにした。


 てきあざむくにはまず味方みかたから……だ!




 神殿騎士隊長のテアンにボニーを殺したアサシン、ジェンマを二重スパイにする件をもう一度念押ねんおししてたくし、俺たちはニラモリアをった。


 明日の朝再びこのニラモリアの首都ニラモウラの中央神殿に戻り、ワッドランド大使、ザックレイと対決するつもりである。


 明日は容赦ようしゃなくザックレイをぶっ殺すつもりでいる!


 俺の嫁候補を暗殺したむくい、幼子おさなごさらって人質ひとじちにするという卑劣ひれつな行為の報いを必ず受けさせてやる! ザックレイよ。せいぜい今宵こよい、最後の夜を楽しむがいい!



 ◇◇◇◇◆◇◆



 ボニーたちを連れて神国神都エフデルファイにある中央神殿に戻る。


 ボニーたちには今夜、野営用のテント内に用意した各自の部屋に泊まってもらうつもりでいる。


 彼女たちの世話役として獣人族冒険者兼神殿騎士兼ハニーのラフと、キャルたち子供たちを任命し、ボニーたちの面倒を見てもらうことにした。


 一緒にいて俺も色々と話を聞きたかったのだが……

 残念ながらこれから闇奴隷商人やみどれいしょうにん成敗せいばいしに行かねばならない。


 もうあと1時間ほどでサブリネとの待ち合わせ時間がやって来る。さらわれて無理矢理奴隷にされている女性たちを助け出すためにはこの機会を逃すことはできないのだ。延期するわけにはいかない!



 ◇◇◇◇◆◆◇



 サブリネとの待ち合わせ時間の10分前にサブリネもやって来て合流した。


「あ、すみません、上様。待たせちゃいましたか?」

「いや。まだ約束時間前だから大丈夫だぜ。今夜はよろしくな」


「な~んか『今夜はよろしくな』って言われるとぉ~『夜伽よとぎの相手をよろしく』と言われたみたいですねぇ。ははは」

「ふぅ~、サブリネ……余裕だなぁ。これから大捕物おおとりものをおっぱじめようというのにずいぶんと余裕があるじゃねぇか?

 あまりふざけたことを抜かすと『四肢粉砕』を食らわせるぞ?」


「じょ、冗談ですって! じょ・う・だ・ん! ホントにもう。冗談が通じないんだからぁ。上様の『い・け・ず!』。うふふふふ」


 はぁ~。食えんなぁこの女は……調子が狂っちまうぜ。


「さあ! それじゃあ敵地に乗り込むぞ! 心の準備はいいか?」

「はい! 上様の方こそ大丈夫ですかぁ?」

「四肢……」

「じょ、冗談です! 冗談です! 冗談! それだけはご勘弁かんべんを!」


 今宵こよいは闇奴隷商人にとっての最悪の夜にしてやろうと思っているのに……

 こんなんで大丈夫なんだろうか???



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