第12話 ヘリ靴男vs女子中学生、そして赤い彗星シャー

と、あの既知たる桜金造氏の「小山遊園地」のA gagをば、うねうねと十本の指を極めて複雑しなやかに、ヘリの翼の回転と相俟って、反復し続ける満面の笑み、その様子、小憎たらしチューリップのつぼみがパッカァ開くような様で、腹立だしさ丸出しの情熱さの冒涜と傲慢を見事に体現しているのでございます……。

「おや~まゆ~えんち~~おや~まゆうえんち~~ば~か、ばーか、お前ら全員ば~~か、サンリオもお前もおやまゆ~えんち~~おやまゆ~えんち~~」

とリズミックに歌いながらも常時五本の指を変幻自在にある種の優雅さをも感じさせる運動で、過ぎ去った上手に遊べなかったあたしへ、回転ブランコ、メリーゴーランド、珈琲カップ、ローラーコースター、などなど遊園地の遊具の詩の記憶/ミステールのこの青空山手線の外れた屋根の外的空間からの投射により、歴史とノイズに全部に映し出される映像の効果としてのslow motionの中から有機体/organismと生まれし、そいつが小山遊園地ヘリ靴/ソフィズムの化身、ヘリ靴男。

敵なのか味方なのか夢なのか現なのかも判明しないこのヘリ靴男は、ホバリングや宙返りなどの技巧的な飛行をしながら、なんと、秋葉原から日本の今の代表選手として乗り込んできてくれたあたしの失わない、口をもたない、とても健気な売れっ子のサンリオのマスコットの妖精たちに襲い掛かったのです…!

――ぎゃー、やめてー!! サンリオさんたちには手を出さないで!

ヘリ靴男によって齎された(もたらされた)この怒涛(どとう)の緊急事態が呑み込めないながらも、青空デコトラ山手線の中の一つの総意/統一意識/ユニオンとして、車内をば飛び交うヘリ靴に抗おうとする叫び声……。

口、すなわち、余計なことを一切喋らないことにより、あたし達の心の投影を純粋に写し続け、いつしか世界の寂しいあたしたちと同しような子達に呼応しあったサンリオの、現在売り出し中のシナモロールにヘリ靴男の翼が襲い掛かったのです。

シナモロールちゃんの首は、信じがたいことに、自由に飛びまわるヘリの憎たらしい翼にビュンと無碍(むげ)も無く斬られ、シナモちゃんの首がスローモーションの進みであたしの目の前をむごたらしくとんでいったのでございます。

 飛び交う乗客の皆さんの混乱した嘆き。

 あたしがこの惨事にどう立ち向かうか、ヘリ靴男への憎悪と道徳への揺らぎで躊躇していたらば、

「ちまちま悩んでないでやっつけようよ、この小(こ)ざかしい屁理屈馬鹿。所詮ぬいぐるみ(キャラクタ)だけど、シナモロールを屁理屈で抹殺するなんて倫理的に許せないじゃーん。シナモロールの仇(かたき)とろうよ!」

と、とても勇ましい凛とした声が混乱する車両内に響き渡りました。声の主を見てみると、黒髪のあどけなさが少し残る可愛らしい女子中学生です。その女子中学生にあたしは賛同し、二人で決起し、ヘリ靴男をやっつけようと決意したのでするるが、

「あのさ、一緒にやっつけんのは構わないんだけどさ、正直、全般的になんかお姉さんの想像詩古いよね。あとさ、男装は別にいいけどさ、その年齢で自称女の子きつくね?」

と、あっさりん言われ、あれ、あっれれん、心が小気味よく、ポキポキポキッ♪ って折れてゆく……ありがたう……お姉さんってとこ、気ぃつかってくれてーてーてーてーと、薄れてゆく意識の中そうあたしの句/苦が山手線内にこだました……気がいたします……。

そしてこのこだまは、赤い木魂から赤い彗星になり申し、シャー・アズナブル(『機動戦士Zガンダム』の登場人物)の名台詞「これが若さかぁー」の(かぁーかぁーかぁーかぁー)の「かぁー」のこだま=言霊の軌道に激しい嵐の後の静けさが訪れ、「カぁー」と空気の音が聞こえたかなって思うこともできないまま、あたし、ショックで気絶していたやうで、気絶から明けたらば、そこはまだまだ日が暮れてはいない日暮里駅。 


役立たずなあたしが気絶していたうちに、あの憎きヘリ靴男も女子中学生もサンリオ軍団も居なくなっておりました。男装(コストリ)している時は男気を生かそうと山手線内では座らずに立って東京を巡ることに決めていたのですが、圧倒的なこれからのfrom now on 若さ、忌憚なき青春にぶん殴られ、おそらく床に惨めに倒れこんだあたしを不憫に思い、乗客のどなたかが座席に座らせて下さっていたようで、あたしは座席に座りながら気絶しておりました。このかなりとほほな様でそのままご好意に甘えて座っていたらば、ふと気がつくと、なんと隣の席には、「ゲーテの絵本」の中に対峙し退治し純な胎児に戻したはずのキューピー丸亀元マネージャーが、赤ちゃん姿で禿キューピーなのにシャンぺングラスを片手に持ち、そのグラスを揺らしながら座っているのです……。

「奈々香さぁ、俺やうちの事務所に言わせたらさ、おばさんなんてこの世に存在しないよね。だから奈々香も女子中学生の言葉に傷つく必要ないわけ。ほら、みんな大人女の子だから。ま、んなことどうでもいんだけどさ、仕事持って来てやったよ? モデルよ? デルモ。って言っても読者モデルだけどさー、如何わしい(いかがわしい)系エロじゃなく、ちゃんとした今度創刊するファッション誌よ? 奈々香如き(ごとき)には出世だよね。チャンスだよね。俺に感謝だよね。土の中から這い出る最後のチャンスだね、間違いなく奈々香レベルの子にはいい仕事っしょ? やるよね?」

と、シャンパングラスをゆらゆらゆらしながら、丸亀はあたしに今更芸能界の、しかもファッション誌の読者モデルのお仕事を持ちかけて参りましたの日暮里でございます。

いやー、またダイエットや哀しみの円周の海に飲まれるのは必須なわけで、でもぉ、モデルですか? う~ん、悪くないかも、えへ、なんてなんてあたしがスケベ心を懲りずに出した矢先、キューピー丸亀は、

「俺はほんと、いいマネージャーだなってさ、しみじみ思うよ。あ、ちなみに、年はごまかす方向だからね。奈々香は今二十九歳だっけか? あ? 三十だっけ? まあどっちでもいいわな。てか今度の仕事は、三十八歳の設定だから、おまえ。こんなに今のアラフォーは若くて輝いてるってアンチ・エイジレス系の雑誌のドクモだから。」

と、畳み込む様に、さもさも当然って態度であたしにそう言いました。 

……え? は? う? …… 

年齢をごまかすって下にごまかすんじゃなくて上にごまかすの? ええ、まぁ、そりは一応あたしは二十九歳なわけですから三十八歳設定なら若い! 三十八なのに可愛い! となるかもしれないだらう、そりはそうだらう。でもですよ? えへへ、なんて言うんでふか、やっぱどんだけ中途半端―あたしっ、ってかアンチ・エイジレスってよく考えたらば意味が分かりませんよねぇ、年はとったっていいだらうが、いや~全然いいよね、といふかもういいから、本当にもういいから頼むからうすら禿丸亀は地球から出てゆけー、太陽系から出てゆけー、ゆけゆけー、現実かfakeか知らないけども、残酷の骸骨をあたしに晒すその禿頭で太陽系外の星になれ、もう拗(こじ)らせ病んで(やんで)已んで(やんで)までやりがい詐欺には加担しないからっ、被害者and加害者のわけわかめなものにはならないからっ、それなら高潔なニートを選ぶからあたし、って痛すぎる悲しすぎる匿名ネットの書き込みで千回は見たなっていう言い訳を自分にして、そいでも色んな媒体の押し売りとその世間の耕しに追いすがりたい自分の葛藤や破れを抱きしめた経験の追懐がメモリアルパラダイスしゃかりきコロンブスとなり、あたしの周囲の空気は間違いも光/リュミエールをも存分に含みこんだ冒険者の酸素となり、その酸素によってプップラプーとば悪キューピー丸亀は、この巡り走ることを止めない青空デコトラ山手線から圧し出された模様で、お空を見上げたら、ららら、空を越えて、彼方にぺかん、にぶく光る丸亀星になって昼間の空に白く消えてゆきました。


(続きます!)

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