8.飯を食った。
「ふあー、美味しかった、美味しかった」
女神ちゃんは、畳の上で大の字で寝転がりながら、満腹になった腹をさすっている。
足を広げすげて、スカートからパンツがモロに見えてるが、指摘しない事にする。
「あっ、救世主様、私が片付けるから、救世主様は座ってて」
「そうはいかない、一応君達は客人なんだから」
僕が食事の後片付けをしようとしたら、菜野葉ちゃんも後片付けを始める。
「良いのに良いのに」
「良いから良いから」
ぶちぶちコミュニケーションを交わしつつ、僕らはゴミを片づけたのだった。
「へへっ、共同作業だったね」
「うん、共同作業だった」
「ねえ、ご褒美欲しいな?」
「ご褒美?」
「そう、ご褒美」
菜野葉ちゃんは突然ご褒美を要求してきた。
その僕を見る目は、熱っぽい眼差しだ。
くそーっ、ご褒美なんて要求されるなら、始めから手伝わさせずに座らせておけば良かった。
「ほら、これでジュースでも買いなさい」
僕は財布から、500円取り出すと、菜野葉ちゃんに握らせた。
「ちーがーうー!」
菜野葉ちゃんは、ぺしゃりと、500円を畳の上に叩きつける。
「魔力が欲しいの!魔力!暖かくて、ドロドロしていて、優しい魔力っ!欲しいなっ!」
ポニーテールをぴよんぴよん跳ねさせながら、菜野葉ちゃんはむくれて、僕を睨んだ。
「魔力って・・・さっきの、ベッドの匂いとか、キスとか、そんなの?」
「うんうん、それそれ、欲しい欲しい!」
菜野葉ちゃんは、両手を頬に当てて、うへうへ微笑んでいる。可憐なそのお顔が、変態的に歪んでいる。
「やー、だめだめ、だぁーめ」
僕は拒否した。
「どしてさ?」
不満な眼差しを向ける菜野葉ちゃん。
そんな菜野葉ちゃんを、僕は頭から足先まで、体の全てを見る。
身長や体格、顔つきから見て、どう見ても中学生にしか見えない。
そんな相手に『魔力』とやらを与えてみろ、魔力が具体的の何なのかは知らないが、おっさんが少女にして良い行いではないのは間違いない。
僕にだって、倫理観がある。非常識な事に巻き込まれて、常識的な倫理を通用していいかわからないが、とにかく僕には常識的な倫理観があるんだ。
「はあー、相変わらず救世主様は奥手の意気地無しですねーっ」
僕らのやり取りを見ていてか、女神ちゃんがため息をつく。
「奥手とか意気地無しとか、そういう問題じゃなくて、僕はだなあー、大人としての倫理観をだなー!」
「じゃあ、頭撫でてあげれば良いですっ。まどかも、それぐらいの魔力で良いでしょうっ?」
「撫で撫でかぁ、私はドロドロな魔力が欲しいけど、でもあんまり贅沢言って、我儘言ったら救世主様が迷惑しちゃうよね。撫で撫でで良いよ、救世主様」
そう言って、菜野葉ちゃんは、目を瞑り、僕に頭を差し出した。
「ほらっ、何してるんですかっ?救世主様っ?早くまどかの頭を撫でてあげて下さいっ!」
「いや、女の子の頭をうかつに撫でるのは、セクハラと言うか・・・」
「頭を撫でられて、気を悪くする女の子なんている訳無いですっ!本当に救世主様はダメダメですっ!ほらっ、早く撫でてあげてっ!」
そう女神ちゃんに促されたので菜野葉ちゃんの頭を撫でる事にした。
菜野葉ちゃんの、若々しく柔らかな毛髪が、掌の中いっぱいに収まる。
暖かな毛髪の感触。その感触が心地良くて、何時間でも撫でて居たくなる様な、そんな髪だ。
でも、そんな長時間撫でる訳にもいかないので、僕は菜野葉ちゃんの頭から手を離す。
菜野葉ちゃんは「んんっ」と呟き、そしてゆっくり目を開け、自分の頭に両手を当てる。まるで、僕が今頭を撫でた感触を反芻するかの様に、大事そうに自分の頭に手を当て続ける。
「えへーー、救世主様の手って、大きいね。やっぱり男の人だね」
にやけが止まらないという風な表情で菜野葉ちゃんは言った。
「そんなの見れば分かるだろう、僕は男だよ」
菜野葉ちゃんが幸せそうなその表情が、照れくさく感じて、突き放した言葉を言ってしまったのだった。
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