親睦会

 入学二日目も何事もなく過ぎ、放課後になる。


「みんな、ちょっといいか?」


 教室の中で少し大きめの声が聞こえる。

 声を上げたのは自己紹介のとき一番最初にしていた星だった。


「俺たちはまだお互いのことをよく知らないだろ?クラスメイトは5人しかいないんだし、仲良くした方がいいと思うんだ。だから、今からカラオケで親睦会をしようと思うんだけど、みんな来ないか?」


 さすがというべきか、クラスメイトが仲良くなる場をセッティングしようということらしい。


「いい案だと思うよ。3年間同じクラスメイトと一緒に過ごすんだから、仲がいいほうがいいもんね」


 白銀は賛成のようで声をあげる。


「オレも構わないぞ。どうせすることないし」


 特に断る理由もないので了承する。


「僕も行くよ。仲がいいに越したことはないからね。勉強の息抜きにもなるし」


 天羽も快く賛成してくれた。


「サンキューみんな。七瀬さんも来るよな?」


 一言も発さず帰り支度をしていた七瀬にも話を振る星。


「いいえ。遠慮しとくわ」


 きっぱりと断る七瀬。


「でもさ、5人しかいないんだし仲良くできたほうがよくね?」


「結構よ。それじゃあ」


 星の誘いなど意にも介さずさっさと教室を出ていく七瀬。

 教室の中に気まずい空気が漂う。


「…………仕方ないか。とりあえず俺たち4人でカラオケ行こうぜ」


 星がなんとか空気を盛り上げ、オレたちはカラオケに向かった




 カラオケに到着すると大きめの部屋に案内された。

 オレたち4人は店員の案内に従い部屋へと入っていく。

 どうやら昨日のうちに星が予約していたようだ。


「それにしてもすげえな。学校の敷地内にカラオケがあるなんてさ」


 星がそう言うのも無理はない。

 カラオケに入るまでにかなり大きいショッピングモールを通ってきた。

 まるで都会のショッピングモールのような雰囲気だった。


「それじゃあ順番に歌でも歌おっか」


 白銀が先陣を切りタブレットを操作し曲を選択する。

 どんな曲を歌うのか気になってタブレット画面をのぞいてみたが、全く知らない曲だった。

 白銀の歌声に合わせて手拍子を加えていく。

 みんな同じタイミングで手拍子をしているところを見ると、オレ以外は全員この曲を知っているようだ。

 オレも周りと同じタイミングで手拍子をする。

 周りが楽しそうに歌っているため、場の空気を壊さないようオレも愛想笑いと作り笑顔でやり過ごす。

 5分ほどで曲が終わり拍手が巻き起こる。


「じゃあ次は誰かな?」


「俺!俺に歌わせてくれ!」


 星が手を上げマイクを持って前に立つ。


「俺が歌う曲は………これだ!」


 星がタブレットで選んで前にある大型スクリーンに表示された曲名は、『下剋上~負け犬一本背負い~』という曲だった。

 世間で人気の曲はよくわからないが、曲名からして微妙そうだ。

 星は気持ちよさそうに歌っているが、音程外しまくりの凄まじい音痴だった。

 だがその音痴っぷりも面白いようで、みんな笑顔で聞いている。

 オレも場の空気を壊さないよう作り笑顔を浮かべていた。

 ………………なんか違う気がする。

 オレはこんな風に笑顔になれない。

 周りとはなにか違う。

 オレはそんなことを感じていた。

 それに、このままだとオレも一曲ぐらいは歌わないといけない流れになりそうだ。


「ちょっとトイレ」


 オレは場の雰囲気を壊さないようそっと部屋を出て、廊下を歩いていた。


「このまま帰ろうかな」


 そんなことを考えていると、廊下の先の出入り口のところに七瀬の姿を見つける。


「こんなところで何してるんだ?」


 声をかけてみる。


「………九条くん、だったかしら」


「ああ、九条零翔だ。こんなところで何してるんだ?」


「別に。近くを通りかかったからどんな様子か見てただけよ」


「本当は仲間に入りたかったのか?」


「馬鹿言わないで。もう帰るわ」


 七瀬はイラついた様子でカラオケを出ていく。


「………………ついてこないで」


「オレも帰ろうと思ってな」


 オレは七瀬の後に続いて寮に帰ることにした。


「あなたがいつ寮に帰ろうと自由だけど、私の後ろをついてこないで」


「無理言うな。二人とも寮に向かっているんだからどうしてもこうなる」


 七瀬の少し後ろをついていく。


「少し訊いてもいいか?」


「あたしはあなたと話すことなんて何もないわ」


「なら独り言だ。親睦会のカラオケを断ってたけど、何か理由があったりするのか?」


 いくら待っても返答は返ってこない


「おい」


「独り言なんでしょ。独り言なんだから答える必要はないわよね?」


「まぁ、それはそうだが」


 独り言のふりをして、会話をしようとしていたが無理だったようだ。

 特に何か話すでもなくお互い無言で歩いていると、前方に寮が見えてくる。

 オレと七瀬は別れの挨拶もせずに自分の部屋へと向かった。

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