第28話 神楽祭2


 突如、前方で歓声が上がった。どうやら、大頭様の式神が出てきたらしい。


 「なんかすごそうな人が出てきたね!」


 「人っていうか、式神な。確かに、人間みたいな気配だけど」


 「え⁉ そうなの?」


 (きちんと正装だ・・・。模範演技でもする気か?)


 シャラン


 彼女は優雅な動きで、陰陽師たちの真ん中に降り立ち、舞い始めた。彼女が纏う霊力が振るわれる鈴の音で広がり、神殿のような雰囲気を作り上げる。暖かさにあふれ、慈愛そのものを体現したかのような神楽に、誰もが目を奪われた。


 適度に露出された彼女の肢体が揺れるたびに、男たちから歓喜のため息がこぼれた。その肉体美には女性陣からさえ感嘆の声が聞こえる。


 乙葉も一瞬目を奪われかけたが、となりに美咲がいることを思い出して、焦点を合わせないようにした。


 あっというまに彼女の神楽が終わり、大頭様の咳払いで、誰もが我に返った。


 「・・・・・はあ、すごかったね」


 「ああ。そうだな」


 (きっちり神聖な雰囲気を作り上げていったな。血気盛んな奴が多い中で、うまいものだ)


 その後、ランダムにくじ引きで決められた順番に、神楽が始まった。自分の順番になったら中央に出て、踊る。ただそれだけだ。


 乙葉からしたら式神の神楽だけで満足なのだが、美咲は食い入るように見つめている。


 「・・・・なあ、そんなに面白い?」


 「しっ! ちょっと黙ってて」


 「お、おう」


 あまりに真剣なので、よくよく耳を澄ませてみると、小声で今の番号を数えていた。


 (まあ、無理もないか。この雰囲気の中で順番間違えたら、つらいもんな)


 乙葉はのん気にそんなこと考えていた。


 「つ、つつつ次だ!」


 「お~い、落ち着け? 大丈夫だから」


 「う、うん。が、がんばるね」


 ちなみに、今の美咲の格好は巫女服だ。神楽には珍しく、なにも手にもっていない。


 「俺も篠宮家の神楽は見たことないな。楽しみしとくよ」


 「う、うん。見ててね?」


 ガチガチに肩をこわばらせてる美咲の肩をポンポン叩いていると、順番が回ってきた。


 「よし、行ってこい」


 乙葉に背中を押されるようにして、美咲が中央に躍り出た。少しだけよろめいたが、すぐに態勢を立て直して、舞い始めた。


 その神楽は、式神の舞とは正反対の雰囲気を醸し出していた。慈愛よりは、冷酷さを感じさせる、そんな神楽だ。


 足さばきにも切れがあり、緩急の急が多用されているようにも見えた。それでいて、手の動きはなめらかだ。


 (まるで、氷の刃だな。冷たいくせにはかない。・・・・こんな神楽ができるとはね)


 ※次回更新 5月13日 水曜日 0:00

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