第15話 侵入者
「誰だ!」
乙葉の体が宙を舞い、窓を一瞬で開けると飛び出していった。外には小さな林が広がっている。
「え、っちょ、乙葉?」
美咲が後ろのほうで困惑した声を出しているが、乙葉は振り返りもせずに、木から木へと飛び移る。
「鴉」
«嬢ちゃんを見とけばいいんだな»
「頼んだ」
乙葉は移動しながら、ポケットからスティンガーを取り出した。
スティンガー。掌に握りこむ護身武器であり、握るとその先端が指の間から出て、拳打の威力を上げるといったものだ。
(素手でもいいが、防具でも着こまれてると、こっちの拳が壊れる)
地面を疾走する人影を視界に入れた乙葉は木から一気に躍りかかる。
「はっ!」
ズザ!!
指の間から飛び出したスティンガーが地面をえぐった。人影は寸前で攻撃をかわしたようだ。
「おおう、怖い怖い」
その人影はおどけた口調でそう言いながらも、警戒しているようだった。
乙葉は態勢を整えながら口を開いた。
「お前、誰だ?」
「わしかい? そうだな~、あんたと同類じゃき」
なまった声で手をひらひらと振った人影は、乙葉と同い年くらいの少年だった。
「・・陰陽師か」
「そうそう。それにしても見事な霊力操作だったな~。あれ以上にできるんやろ? すごいわ~」
「・・・1つだけ、答えてくれないか」
「はいはい。なんでしょな」
乙葉の周りの空気が歪み、蜃気楼のように揺らめいた。
「お前、敵か?」
乙葉の体が一回り大きくなったように見える。ほとんど口を開かずに発せられたその声は、同一人物が発したとは思えないほど低く、狂気じみていた。
(・・・こいつはぁ、ほんものじゃ。殺されるかもしれん)
少年は笑みを消して、両手を上にあげた。
「敵じゃない。誤解させるような行動だったのは謝罪する」
「・・・そうか」
そういうなり、乙葉は少年に背を向けた。
(な、なんじゃい、あの背中。服越しでもわかるほど異常に鍛えられとる。あれで殴られたら即死もんじゃい)
拳打の威力を決めるうえで背中の筋肉は、重要なファクターだ。あれば、あるだけ威力が、切れが増す。
「お、おい。そ、それだけでいいんかい?」
自分が不審者なのにも関わらず、その少年は乙葉に問いかけていた。この男は誰なのか、好奇心が恐怖とともにこみあげてきた。
「・・・ああ。お前は対人戦において、弱いから。それに敵じゃないのなら、だれであろうがどうでもいい」
(・・・言ってくれるのお)
だが、この少年もそれなりに場数を踏んできている。自分が勝てない相手だというのはすでに理解していた。
※次回更新 3月28日 土曜日 0:00
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます