ガタガタガタガタガタガタガタガタ

 これが公開されている頃、おれは葬儀会場へ向かっている。朝一番、9時からの葬儀になる。


 ここに来てガタガタとうるさい外野の声が聞こえてくる。母の埋葬先の件だ。

 うちには父系の墓と、母系の墓がある。母系という言い方が正しいのかどうかは知らないが、なにしろ母の両親が眠っている場所だ。


 生前、「おばあちゃん(自分の母)と一緒のところに眠りたい」と言っていた。それは兄もおれも聞いている。なので旧姓のお墓に入れることにした。

 当然父は大反対。「そんなことが許されるわけがない」と怒っていたがもう墓からは了承を得ている。そもそもしっかりと話し合っておかないからこういうことになるのだ。


 まだ母が会話をこなせていた11月、もしかしたら自分の命が長くないことに気付いていたのかもしれない。よく墓の話になった。もちろん父にも聞かせなければならない。だが父を呼ぶと


「病院行って来い」


 の一点張り。自分が納得できないこととなると母に「病院行って来い」と怒鳴り散らしていた。会話を拒否し、何か言われるたびに父は同じことをオウムのように繰り返していたが、母がどれだけその言葉に傷ついたか知らないまま生きていくのだろう。もしかしたらきちんと話をしていれば落とし所が見つけられたかもしれないのに。


 父の血縁者から電話が来た。


「おまえにはこういうことを言いたくないんだけど」


 と前置きし、次のようなことを長々と話しだした。



「おまえのお母さんが旧姓のお墓に入りたいっていうのは、自分の子供のことよりも自分のわがままを優先させたことになる。私も聞いてショックを受けた。おまえはともかくおまえの兄は母と同じ墓に入ることができない。夫も一人ぼっち。それは常識ではありえない。私も本当にショックだった。自分の隣の家でもなんとかさんとなんとかさんが同じ墓に入れなくなってうんぬん」



「ふーん」と「へー」だけで済ませた。くだらなすぎたんだわ。なんでお見舞いにもずっと来なかったのにショック受けるんだろう。

 母はわがままを言わない人だったので、もしそれがわがままだというのなら最期に聞いて上げなければならない。

 もちろんおれは電話を切って3時間経った今なお激怒している。そんな外野の声に左右される筋合いはない。無視に限る。

 後半、全く関係ない他人の家の噂話もしていたが、恐らく我が家のこともそのように適当な噂話で広めていくのだろう。もしおれが電話口で怒り出したらそれも含めて吹聴することは想像に難くない。


 きちんと母の声に耳を傾けていたのはおれと兄、そして母の姉家族だけである。それ以外の人間が口を挟む余地はない。常識ではありえないと言っていたが、なんでそうなったか考える頭がないというのはしあわせだなあ!

 おれは墓や仏教のことについて何も知らない。過去の法要も見様見真似で済ませてきた。墓参りには行くが、しきたりに興味がない。だから母がやりたいようにやらせてもらうのだ。


 母が亡くなってから葬儀屋の段取りは全て兄に任せていた。同じ時間を過ごし情報を共有していた兄が判断しているのだから、文句などあろうはずがない。兄の判断はおれの判断である。緊張の糸が切れかなりバカになっていることを自覚しているので全部任せたという背景もある。


 で、明日の葬儀。埋葬はまだ先だがまだガタガタとぬかすだろう。そうなったらもう、目の前にいても無視する。

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