オレとセレスはもとの世界に戻ってきた。

 どうやら消えた場所に戻るみたいで、オレたちが現れたのは授賞式の会場だった。

 観客席の騒ぎなどは沈静化しており、グリムの具現化した狼も国王の護衛によって全て倒されている。


「あ!?ガゼルにセレス、アンタたちどこ行ってたのよ!?いきなり消えちゃってこっちは大騒ぎだったんだから」


 選手たちは全員いなかったが、キース、オリビア、クシェル、デュランはその場に残っていた。

 オリビアが走ってこちらに近づいてくるが、ハッと思い出しセレスを睨みつけ止まる。


「……セレス、アンタ………」


「大丈夫だ、オリビア」


 オレから優しい言葉を語りかける。


「セレスは母親を人質を取られていたんだ。けど、母親は助け出したから、セレスは敵じゃない」


 オレは事情を説明する。


「セレスは裏切ったはずたし、ガゼルは死んだはず……。一体何がどうなってるのよ?」


 すぐには飲み込めないようで、困惑している。


「後で説明する」


 キッパリとオリビアの疑問は切り捨てる。


「ガゼル、グリムの奴はどうなった?」


 生徒会長のキースがオレに訊ねてくる。


「一応倒しました。厄介な相手でしたよ」


 オレは素っ気なく返答した。


「とりあえず、どこか部屋に戻りませんか?ここではなんですし」


 吹きっさらしの会場のど真ん中にいることに居心地の悪さを覚えたオレは、すぐにこの場から退散した。


 オレ達は控え室に来た。ここなら誰かに話を聞かれる心配はないだろう。

 オレはこれまで起こったことをかいつまんで説明した。


「………つまり、民主派のグリムが国王様を殺害する為、ウチに妨害工作を仕掛けて優勝トロフィーを渡す時を狙うつもりだったが、ガゼルに邪魔され一位になれなかったから強硬策に出たと。そしてセレスはそれに巻き込まれたと」


 キースがオレの話をまとめて要約する。


「そういうことです」


 オレはセレスに視線を送る。

 セレスもこちらを見て、わかってる、と言いたげな表情で頷く。

 セレスが深く頭を下げる。


「みんな、ごめん。また裏切って……」


「セレスさんは何も悪くありませんよ」


 顔を上げてください、とクシェルが声をかける。


「そうよ。母親を人質にとられていたんだから仕方ないわよ」


「そういうこった。顔を上げろよセレス」


 オリビアもデュランも同じ気持ちのようで、セレスを責めなかった。

 仕方なかったと、みんな理解している。


「みんな………ありがとう」


「よかったな、セレス」


「うん」


 セレスはどこか満足げな表情だった。

 自分のことを理解してくれる友達ができたことが嬉しいんだろう。

 オレもその様子を見ていて少し微笑ましく思った。


「それで、犯人は倒したということでいいんだよな?」


 キースがオレに訊ねてくる。


「グリムは倒しましたが、今回の騒動が全てヤツ1人の仕業だとは思えません。仲間がいると思います」


「つまりそいつは逃してしまったのか」


「そうだと思います」


 オレは黒髪の女だとは言わなかった。

 グリムをこちらからゴーレムで襲撃した時にまたあの女がいたことは確認している。

 だが、そのことを皆に話すのは得策じゃない。

 オレが穏便に処理する問題だ。

 あの女の目的がわからない以上巻き込むわけにはいかにい。


「まあ、色々あったけど一件落着ということで帰りますか」


 オレは何事もなかったかのようにいつも通り家に帰った。







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