救出

 オレは人間の為に戦うことを決意した。

 その為にまずやるべきは敵の位置の知ること。

 オレは《探知魔法》エコーを使う。

 ソナー(魔力を薄く広範囲に放つこと)を飛ばし、その反響で敵の位置を知る。

 …見つけた。

 森の中に50近くの人影と1つ明らかに違う気配を掴み取る。

 人間のような姿に翼が生えている。間違いない、悪魔だ。

 オレは急いで森の中に走っていった。





「キッシッシッシッ!あとで味わって食ってやるからおとなしくしてろよっ!」


「お願いします、子供だけは見逃して下さい」


 エレノアは悪魔に捕まっていた。

 周りは魔物が檻のように囲み逃げられない。

 私は子供達だけでも助けてもらえるよう悪魔にお願いする。


「ダメだ、子供が1番ウメェんだからな、キシッ!」


 まともに聞いて貰えない。

 このままでは愛する息子のレイモンドが…。

 私は諦めず、悪魔に懇願する。


「お願いします、どうか子供だけは見逃し――――」


「お前さっきからウルセェな」


 私の言葉を遮りさえぎり悪魔が近づいてきた。


「ママに近づくなっ!」


 エレノアの前にレイモンドが立ちふさがる。


「パパと約束したんだ!パパがいない時はママは僕が守るんだ!」


「だめよっ、レイモンドっ!」


「イイだろう、まずはテメェから殺してやる!」


 悪魔がレイモンドを手にかけようとしたその時、レイモンドの前に障壁が現れ、悪魔の手は防がれ届かなかった。


「な、なんだコレはっ!?」


 その直後、森の中から若い青年が現れた。





「なんとか間に合ったな」


 オレはそう呟いた。

 全員がオレの方を眺めている。


「だ、誰だテメェは!?」


 悪魔がオレに問い詰めてきた。


「通りすがりの魔法騎士志望の青年だ。お前を倒しにきた」


 そう言うと、悪魔は腹を抱えて笑った。


「キッシッシッシッシッシッシッ!まだ魔法騎士になってもないゴミが俺様を倒しにきただぁ?身の程をわきまえさせてやらねぇとな!やれっ、お前らっ!」


 悪魔は魔物達にオレを襲うよう命令する。

 女子供を取り囲んでいた魔物が一斉にオレに襲いかかる。


 ゆっくりと口を開く。


 オレは少々苛立っていた。



 そう口にすると、魔物は急に威勢を失い、オレの前に跪く。


「な、なんだ!?」


 声に魔力を込め、濃密な魔力を怒気と一緒に周囲に放ったのだ。

 声に含まれる怒気が野生の勘を威圧し、目の前にいる人間がいかに大きい存在であるかを自覚させた。

 元魔王であるオレの力に、悪魔に操られるような魔物如きが対抗できるはずもない。

 魔物達は完全に戦意を喪失していた。


「後はお前だ」


 オレはそう言うと、ゆっくりと近づく。

 オレが一歩近づくごとに、うろたえていた。

 悪魔は女を1人掴むと、首筋に爪を当てる。


「ケッ、何をしたか知らねぇが、こっちにはコレだけの人質がいるんだ!迂闊に攻撃してみろ!こいつらを―――――ッ!?」


 オレは悪魔が言い終わるよりも早く距離を詰めると、上空へと蹴り上げる。

 そのまま後を追うように《飛行魔法》で跳躍する。

 翼を広げ空中で静止する悪魔。

 オレはその正面に立ちふさがる。

 空中で対峙する二人。


「コレで人質は使えないぞ」


 そう通告すると、悪魔は我を失い襲いかかってくる。


「ナメてんじゃねぇぞ!」


 魔力を圧縮した弾を打ち込んできた。

 オレは障壁でそれをガードする。

 空中を爆煙が覆う。

 その爆煙を目くらましにして《飛行魔法》で急速に近づく。

 その気配に気づいた悪魔は、煙の中に魔力弾まりょくだんを数発打ち込む。


 その瞬間、魔力弾まりょくだんを打ち込んだ少し上の煙から姿を現したオレ。

 煙の中で抜いていた剣で激しく斬りかかる。

 ギンッ、と甲高かんだかい音が響き、剣が弾かれる。

 悪魔は冷静さを取り戻し、ニヤッと笑う。


「どうだ、俺様の鱗の味はっ!魔力を込めた剣程度じゃ傷一つ着けられないだろっ!」


 悪魔は下卑げびた笑みを浮かべていた。

 その様子を冷やかな冷めた目でオレは眺める。

 本当に愚かなヤツだ…。

 オレは独り言のように呟いた。


「しまったな、


「なにっ?」


 オレは勢いよく斬りつける。

 今度は圧縮して剣に魔力を流し込んで。

 剣が眩く光輝く。

 敵は念のため魔力障壁を展開した。

 それを、オレの剣は軽々と貫ぬく。

 そのまま悪魔の鱗ごと貫き、敵を真っ二つに斬り裂いた。


「ぐあぁぁぁあああああああああッッッッ!!!」


 悪魔の死体が森の中に落ちた。


「討伐完了か」


 オレは剣を振り、剣についた悪魔の血を払い落とすと鞘に納めた。







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