第7話 究極

 家内は大きなため息を吐いた後頭を抱え込んだ。


「前からいいよるやん。ちゃんと準備してから行動すること。出したものは同じところにかたずけること。ゴミは捨てること。この3つをちゃんとしたらだいぶ時間を無駄にせんよ。あんたの一日を見てん。一日に3時間ぐらい探し物をしよるよ。」

「…ごめん。」

「いや、私にあやまらんでもいいっちゃ。自分に謝り。」


 ひと段落したのをかぎつけたのか、あわちゃんが家内の肩にまた戻ってきた。家内はあわちゃんの頭をなでてやっている。


「今回の事もよく考えてん。あんた、その後起きるかもしれないことをなーーーんも考えんで申し込んだっちゃろ?」

「…うん。」

「なんでいつもそうなん?私が「目の前に穴があいとるよ」っち言いよるのになんも考えんで前に進むやろ。そしたら穴に落ちるに決まっとるやんか。」

「いや、そんなことは…」

「そんなんばっかりやんか。今回もそうやん。なんでもうちょっと調べてから行動を起こさんのよ。いやんなるねー。あーちゃん。」

『ねー。』

「あーちゃんが一番おりこうや。」


 ついに、わたしはオウム以下になってしまった。風は収まる気配もなく外ではごうごうと音がしている。夕方までの、あの幸せな気持ちはいったいどこへいってしまったのだろうか。私は正座をしたまま、自分はどうしてもう少し計画的に行動できないのかと情けなくてたまらなくなった。


「あっ!」

「なんね。また大声出して!!あーちゃんが驚くやん。」

「俺、来月からアメリカやん。」

「…あんたねえ。究極のばかやね。」


 東西新聞なら飛びついてくれるネタやね。と喉から出かかったが口をぎゅっと引き結び私はだまりこんだ。残り3ヶ月。そのうちの1ヶ月以上しかも一番大切であろうと思われる中間の1ヶ月の間私は日本にいない。そのことすらすっかり忘れていた。これではたしかに家内が怒るのも無理はない。


 私は意を決して立ち上がり焼酎をコップについで一気に飲み干した。


「とにかく、明日から行動あるのみたい。」

「あのね。私ね、あんたのそういう妙に前向きなところがまたすかん。」

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