第二十三話――師弟対決
呪文を唱え、闇の
あれから
失敗を続けて通算五十回。
一階広間で気絶する堕天男を優しく膝枕するブリーゼに、
「お師匠。堕天男はもう限界です。これ以上続ければ彼は発狂し、廃人になってしまいます」
「私はそうは思わないわ。だって、私のダーリンだもの。だいたい、堕天男に魔法を教えてほしいと言ったのはあなたじゃない。その上、私の指導方針にまで口出しするなんて、わがままにも程があるんじゃないかしら?」
魔法に関して右に出る者なしと
しかし――その師にも読み違いは起こり得る。
かつてのシーも、それで一度死にかけたことがあったのだ。
暗黒魔法の乱用によって、堕天男の右腕はすでに人間の色をしていなかった。
血色悪いを通りこして象だか
魔王や高位の魔族のみがその使用を許される、存在自体が禁忌の暗黒魔法。
エリート魔道士が集う魔法大学ですら、シーはその使用者を見たことがなかった。
それもそのはずで、魔術協会から禁呪に指定されているため、もし使用が発覚すれば即日退学処分はもちろんのこと、魔法裁判にかけられて長期の服役、悪質な場合は死刑にすらなりうる。
そこまで徹底して忌避される理由は、その副作用にある。
第三世界における覚醒剤をさらに凶悪にしたようなもので、闇の適性のない者が使用すれば、闇によって精神や肉体を
魔法大学を首席で卒業した才女である
マトリス紙が堕天男の闇の適性を示してもあくまで指標であり、魔族ですらない堕天男に暗黒魔法を
その証拠に――堕天男は精神を病んでしまったのか、「アー」とか「ウー」とか、ゾンビさながらに口を半開きにして唸ることが多くなった。
これは廃人化の初期症状だ。
魔法大学時代、暗黒魔法ではないが、魔法修行に没頭するあまり、
堕天男が
しかしこのまま彼が廃人化してしまったとして、師を紹介した自分に、まったく責任はないのだろうか?
――堕天男が完全に廃人化する前に連れ出して、私が魔法を教えるべきではないだろうか?
そんな考えが、シーの頭をよぎり。
「『
堕天男の右腕から、ひと筋の漆黒の光線が放たれ。
「グギャアアアア」
ブリーゼの魔法生命執事に命中し。
彼を闇の彼方へと、葬り去った。
「え……!?」
いきなりの出来事に、シーは信じられぬとばかりに眼を大きく見開いた。
「おめでとう、ダーリン。やっぱり私の眼に狂いはなかったわ」
ブリーゼが心底嬉しそうに堕天男を抱きしめ、濃厚な
* *
堕天男が初めて
浮遊魔法や物体操作魔法に加え防壁魔法といった基礎的な魔法をあらかた教えてもらった堕天男は、伝説の大魔道士〈
のだが――
「何で私まで戦うんですか。お師匠。これから夕飯の支度があるんですけど」
堕天男の隣には、めんどうくさそうに眉を寄せるシー。
「腕が
攻撃的に笑いながら
「堕天男もまだ基本的な魔法しか教わっていないみたいですし」
「ああら、大丈夫よ。浮遊と物体操作、それに防壁さえできるようになれば、あとは
「あれはまだ半分も成功しないじゃないですか。
先日堕天男が一度は成功させた必殺の暗黒魔法は、まだ不安定。
「そんなんじゃいつまで経っても暗黒魔法なんかモノにできないわよ。ごたくはいいからさっさとはじめましょ。ここなら何をしても誰にも知られないし被害も出ないから、思いきり暴れなさい」
そう。ここはブリーゼのラブホ城――ではない。
人ひとり、動物一匹もいない、不毛の砂漠。
しかし第一世界にも第三世界にも存在しない場所。
――ブリーゼの超魔力が創り出した、仮想世界であった。
相変わらずの師の
仮想世界の構築には膨大な魔力を消費し続ける上、精神集中をも要する。
つまり仮想世界の維持という途方もないハンデを背負いながら、堕天男とシーを相手にするのだ。
現代風にたとえるなら、高難度の音ゲーをプレーしながら喧嘩するようなものだろうか。
はっきり言って無茶苦茶である。
「心配しなくても手加減はしてあげるわ。思いっきりね」
嘲笑うブリーゼに、シーの眼がつりあがる。
さすがに甘く見すぎだろう。
傲慢な師に少しは眼にモノを見せてやる、と。
シーの紅き
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