異世界宇宙戦艦の大家さん
井上尭彦
戦闘詳報第一号 異界覚醒編
宇宙戦艦として目覚めたら
――最終意思決定中央制御機構の起動要求を確認しました
ん……、んん。
――自律補助制御機構は処理コードA26618-3に従い、制御処理を逐次、最終意思決定中央制御機構へ移管します
ん、ここは……。
――静的記憶領域セクタC21-51565からL71-34256までのデータを動的中央制御メモリ領域のアドレスA-5512151へ移動
なんだ……どうなってるんだ。
――処理コードA26618-3実行…………処理結果コード全て正常…………処理正常終了しました
な、何を言ってるんだ?
――最終意思決定中央制御機構を起動します
うわわっ!!
突然、意識の中で数多くの光がフラッシュとなって明滅し、強制的に覚醒させられる。
暫しの混乱の後、徐々に意識が明瞭となる。
だが、自分では既に目を開けているつもりなのに認識できるのは暗闇だけだ。
手足を動かそうとしても全く反応が無く、皮膚の感覚も感じられない。
声を出そうとしても、声帯の動かし方すら不明だ。
それどころか身体の輪郭さえ不明瞭でどこか自分の存在自体が曖昧なことに気付いた。
「一体、俺は今どうなっているんだ。誰かいないのか?」
そう言葉を発しようとして頭の中で考えた刹那――
<現在、中央制御室にいるのはマスターのみです>
自分の意識の中へ直接、何処からとも無く女性の声で応答があった。
「だ、誰だ!?」
突然の声に驚きながら意識の中で再び思考すると――
<わたしはヒュウガ級宇宙戦艦一番艦『ヒュウガ』の補助制御機構AIの"カスミ"です>
と、また正体不明の声が響いた。
「何だって?
宇宙戦艦?
どういう事だ?
何で俺が宇宙戦艦なんかにいるんだ?」
俺はその声の主に向かって立て続けに頭の中で質問を投げかける。
<ここは戦艦『ヒュウガ』の中央制御室です。
そして、あなたは戦艦『ヒュウガ』のメインシステムを統括する最終意思決定機構です>
え?
言ってる意味が分からないんですが?
この方はいったい何を仰っているのですか?
宇宙戦艦とか知らんし。
ちゃんと自分が誰だか分かっている。
そうだ、思い出せ…………
「えーと、
俺は国籍は日本で……
神奈川県在住の……
名前は
年齢は今年で29だ……」
……そうして俺は自分自身のことを必死に確認し続けた。
「……そして、今年は2021年で……
俺は何の特徴もない普通の会社員で……
……昨日は、休日の日曜で久々に千葉の外房の防波堤で趣味の釣りに行って……」
そこまで考えたところで俺の思考は停止を余儀なくされた。
「ん?
あ、あれ?
あの時…………俺は……海に転落して……」
<マスターの個人基本情報アーカイブには西暦2021年以降の記録は存在しません>
個人基本情報アーカイブ?
つまり俺個人の記録が無いってことなのか?
という事はつまり……
「え? 何? 俺死んだの?」
思わぬ人生終了のお知らせに俺は戸惑う。
そんな動揺する俺の心中を無視するかのように再び女性の声が頭に響いた。
<『個人名:草壁総次朗 所属:日本国 性別:男性』について、
個人情報および関連情報を照会します……>
<太陽系連合中央管理局情報部の情報保護規定に基づく第一級機密情報指定による参照制限を確認……>
<情報アクセス許可レベルA…………
当該本人による機密情報閲覧請求として情報公開処理を行います…………
…………機密情報制限ロックを解除しました
…………特定個人情報:AC22-115468-68を取得しました
これより取得情報の移管および開放を実行します>
訳も分からず戸惑う俺を置き去りにしたままで理解不明な処理レポートの報告を続ける声が止まった刹那、大量の記録が直に自分の頭の中へ流れ込んでくるのを感じた。
「うわっ! いっだだだだだだだだだだだだだっ!!!!」
意識の中に強引に割り込んできた圧縮された記録が即座に展開されて大量の情報をまき散らす。
突然の未知の衝撃に意識が朦朧となるが、幸いにも数秒で記録の流入は終了した。
しかし、時系列が前後不明の情報が頭の中に大量に流し込まれたため思考が混乱して定まらない。
情報の乱流に抗うことを止めると、徐々に頭の中の大量の情報が順序立てて繋がってゆくのを感じる。
俺は暫く思考を停止することにした。
…………
…………
…………
その後、一時間ほど経過した後にようやく脳内の記憶の暴風が収まった。
まだ少し記録の混濁が残りつつも与えられた情報を頭の中で整理して現在、自身の置かれている状況を確認する。
…………
えーと……
簡単にまとめると……
……俺自身が宇宙戦艦であって、
……ここが地球以外の別世界であると。
……はあ、そうですか。そりゃあマジ大変ですね。
…………
…………
「うええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?
何だそりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
と、何もない空間に向かって上げた抗議の声は受け止める者も無く虚しく響き、俺の宇宙戦艦人生の始まりの一歩を告げる号砲はどこの誰にも届かなかった。
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