第3話 生活

「早く商品をこっちまで運んでこい」


「わかりました!」


 今俺はせっせと商品が詰められた箱を運んでいる。

 この道具屋に住み込みで働かせてもらってもう3日過ぎた。

最初は道具屋のおっさんことホークさんは乗り気では無かったが農業で鍛えた体で力仕事をこなしていくうちに段々と信頼してくれた。

 俺の仕事は朝早くから始まり、日が沈むまでノンストップで続く。

それなりに道具屋は繁盛しているようでほどよく忙しい日々を送っている。

 日が沈んだ後は、魔術についての本を読んだり、筋トレしたりして自己研鑽を欠かさない。

 これも全て師匠の言ったことだ。

 俺は俺の師匠こと黒髪少女のことを思い出す。






「これから毎日、筋トレと勉強を欠かさず行うこと!

週末の休みにもう一度来るから。それまで絶対にサボるんじゃないわよ!」


そう言って魔法の基礎と題名付けられた本を投げ渡してくる。


「あ、そういえば自己紹介してなかったわね。私はサヤよ。あなたは、ギルね。分かったわ」


名前がバレてる。行った覚えがないのに。これが冒険者か。すごいなー。

と俺は感心していると、サヤ師匠は道具屋から出て行ってしまった。

 残された俺にホークさんが近づいてくる。


「ギル、ついてきな」


 ここから俺の王都生活が始まった。






 冒険者になるには具体的に何をすれば良いのか、サヤ師匠は何者なのかなど、疑問しかないが、今はとりあえず着いていくしかない。

 明日はとうとう週末、サヤ師匠に会える日だ。

会えさえすればきっと疑問も無くなるだろう。

俺は筋トレを終えると、ベットに潜り込んで眠りに落ちた。





 朝日が窓から差し込んでくる。

俺は目を覚ますと、顔を洗い、商品を倉庫から運んでくる。今日の俺の仕事はこれだけだ。後はサヤ師匠が来るのを待つだけだ。

 俺が書物を読み始めてから1時間後、サヤ師匠がやって来た。


「ちゃんと勉強と筋トレを欠かさずにしてたわね」


なんで分かるの?少し怖い。


「現状を教えてあげる。紙とペンを用意して」


 俺は机から紙とペンを出してサヤ師匠に渡す。

 すると師匠は俺の顔を見つめながら、紙にペンを走らせ始めた。

紙を覗き込んでみる。するとそこには冒険者ギルドでの審査の時に見たステータスと同じようなものが書かれていた。


Lv.0


筋力 13

魔力 11

敏捷 11

物防 8

魔防 5

幸運 10


あれ?筋力と魔力が1増えている?俺が疑問に思っていると察してくれたのか教えてくれた。


「筋トレとか勉強をすると僅かばかりだけど上昇するのよ。でもそれだけじゃあ15には届かない、レベルアップが必要なの」


そう言うと着いてきなさいと、外に出て行った。


「何で師匠は俺のステータスがわかるんですか?」


「師匠って何よ。なんか変な感じがするわね。で、ギルのステータスが分かる理由だっけ?それは秘密よ」


 師匠は謎が多い人だなあ。

大通りを過ぎ、冒険者ギルドも過ぎる。

裏路地に入りしばらく進んだ後、突如声をかけてくる。


「ダンジョンって知ってる?」


「あ、はい。この街の名物ですよね。名前は確か黄昏の迷宮。冒険者じゃないと入れなかったはず」


 伊達に俺もただ働いていた訳ではない。俺は街の人に色々聞いて常識というものを学んでいる。

 ダンジョンというのは神々が作ったとされる魔物の巣だ。下に広がっていて階層別に分かれている。浅いほど魔物が弱く深く潜るほど強くなっていく。黄昏の迷宮についてはまだ誰も最深部に行ったことがないらしく、最下層には財宝が眠っているなどの根も葉もない噂が広がっている。。


「これからそのダンジョンに行くわ」


確かに鍛えるのならダンジョンは最適だが、どうやって入るのか。俺は聞き返す。


「どうやって入るのですか?」


「まあ、着いてきたら分かるわ」


 裏路地の突き当たり。そこには宙に浮く丸い穴が存在していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る