呪術使い、時々無双、時々成り上がり

@kanakana1010

第一章

第1話 最初の絶望

「あっつ...」


 太陽がこの世で一番存在感を放っている真昼の時間帯。

 影が存在しない街道を一人で歩いているのは、先程独り言を呟いた俺こと、ギルである。

平民のため名字はない。

背は小さく、体も細身だ。

 もともとはこの国の端っこ、隣国との国境付近にある寂れた村の出身だったが、農民生活に嫌気がさし、15歳になった翌日、僅かな金を持って逃げてきた。

聞けばこれから向かう王都には冒険者なる職業があるらしい。常識に疎い俺には冒険者とはどんな職業か皆目見当がつかないが、村で入手した情報では誰でも金を稼ぐことができる職業らしい。

この冒険者になれば俺も...

 心なしか遠目に見える王都の城壁が近くなったように感じられた。


「誰もいないなぁ...」


 俺がこうして独り言を呟くことができるのも付近に誰もいないからである。

もっと人通りが多いかと思ってたけど、案外少ないもんだなー。





 心を無にして歩いて15分、ついに俺は王都の城門前に到着した。

 城門前には見張りをしているらしき兵士2人しかいなかった。

 俺は意を決して兵士に話しかけた。


「すいませーん。王都に入りたいんですけどー」


「あ?お前、今の時期に何しにここに来た。見た感じ冒険者や商人っていう身なりじゃなさそうだな。農民か?」


 兵士は俺を怪しげな目つきで見つめている。俺は臆せず答えを返す。


「農民です。俺は冒険者になる為にここに来ました」


んー。今の時期に来たらまずかったのかな。


「ふーん。じゃあステータスカードを見せろ」


え?なんだそれ。俺はそんなものなど持っていない。

もしかしてそれがなきゃ王都に入らないのか。俺の頭に最悪な想像を横切る。

震える声で俺は返答した。


「ステータスカードってなんですか?」


その答えを聞いた兵士は俺の予想を裏切り安心していた。

俺はますます混乱した。


「農民なら知ってないよな。すまんな。カマをかけさせてもらった。でも、平民以上は常識だから、王都に入ったらとっとと冒険者ギルドにいきな」


冒険者になる為には冒険者ギルドってところに行けばいいんだな。

しかし場所がわからない。聞いて見るか。


「すいません。冒険者ギルドってどこにあるんですか?」


「王都に入ったら真っ直ぐ進め。そしたらわかる。しかし今の時期は登録できない可能性があるな」


「えっ?どういうことですか?」


急に俺がここまできた意味を切り捨てるような発言に混乱してしまう。


「あーとりあえず冒険者ギルドに行け。行かないと始まらん」


 俺は兵士に促されて門の中に入る。

妙だ。俺は街を見て違和感を抱く。

 街全体がピンと張ったような空気になっている。

こちらも身構えてしまうような鋭い空気に俺は一瞬動揺してしまう。

街の外とは違い流石に人通りが多いが皆、顔を曇らせながら歩いている。

異様な風景に俺は足がすくんでしまった。


「さっさと入れ」


兵士に体を押されて、強制的に街の中へ入る。

俺は戸惑いながらも冒険者ギルドへ歩き始めた。





 冒険者ギルドは直ぐに見つけることができた。

正門から街へ入ると、大きな道、所謂大通りに出てそこを真っ直ぐに進むと噴水がある大きな広場に出る。広場の左には件の冒険者ギルドがあったが俺はそれよりも広場の奥にある通りを進んだ先にそびえている王城に目を奪われた。

これまで俺が見てきた全てのものより立派で大きい物を見て興奮を隠しきれない。俺は興奮さめならぬまま冒険者ギルドの扉を開けた。




 ギルドの中は閑散としていて、人は受付にいる女の人の他にテーブルに突っ伏している重そうな鎧を着込んだ中年っぽい男の人しかいなかった。

そう、この状況に俺という田舎者が入ってしまった瞬間、どうなるかはもう火を見るより明らかである。

否が応でも目立ってしまう。

実際男と女どっちもこっちを見てきた。

 俺は足がちょっと震えているが、受付へと歩みだした。


「どうしたの?ここは冒険者ギルド。子供が遊びに来るような場所じゃないですよ」


 受付嬢が困ったように周りを見渡して迷子かな....と呟く。

 俺は意を決して受付嬢に向かって言い放った。


「冒険者になりに来ました!」


女の人は困った顔をして話しかけて来る。


「あれ?子供....ごめんね。ここは子供が遊びに来ちゃだめよ。ただでさえ今は大変な時期なのに...」


「お願いします!俺は冒険者になりたいんです!」


土下座をする勢いで頭を下げる。ここで冒険者になれなかったら俺にあるのは死のみだ。


「そもそも今の時期は登録できないのに...どうしようかなぁ」


「チェックだけならいいんじゃねえの。仮に使える人材だったらここで捨てるのはもったいねえ」


 ここで鶴の一声。テーブルに突っ伏していた男がフォローしてくれる。


「まあ、使えそうには見えないけどなー。とりあえずミーアちゃん検査ちゃっちゃっとしちゃって」


余計な一言が俺の心を抉る。そこまで言わなくても。


「そこまで言うならしょうがないですけど。検査だけですからね!」


受付嬢さんはカウンターの下に潜ってガサゴソと何かを漁り始めた。


「はい!これに血を垂らして」


何も書かれてない小さなカードがカウンターの上に置かれる。

血を垂らせってどうすれば。


「ああ、この針使ってね」


小さな針が手渡される。

 俺は遠慮せずに指に突き刺して、カードに血を垂らす。

垂らした瞬間、カードから光が溢れ出て、幾何学模様が浮かび上がった。

しばらくして光が収まるとそこには色々と文字が書かれていた。


ギル


Lv.0


筋力 12

魔力 10

敏捷 11

物防 8

魔防 5

幸運 10


スキル

呪術lv.1 火魔法lv.1


これが...ステータス。

 俺は浮かんできた文字から目が離せなかった。


「あー。これはダメですね」


しかしこの一言で俺は強制的に現実に戻された。


「なんで...」


「ギルドの加入条件の中にステータスの3項目以上の数値が15以上というものがあります」


 未来は閉ざされた。

 俺は膝から崩れ落ちて、しばらくの間立ち上がることができなかった。

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