第3話局(つぼね)
「オリビア、何か望みはあるか?
あるなら言ってみなさい」
「あります。
もう一つ庭を任せてください」
「もう一つでいいのかい?
なんなら後宮の庭全てを任せてもいいのだよ?」
「そんなに任せて頂いても、ちゃんとお世話できません。
私のお世話できる広さでお願いします」
常識外れの異例な状況でした。
国王が部屋子のオリビアと直接話をしているのだ。
お目見え以下の女官ですら、国王がいる場所では、頭をあげる事は絶対に許されないのです。
それが正式には女官にも数えられない部屋子に願いを聞いているのです。
結局のところ、国王であろうと後宮でやれることは限られていた。
下手な事をすれば、オリビアが殺されてしまう。
事故死という形で、殺されてしまうのだ。
強力な後ろ盾がなければ、国王の子供を身籠っても、無事に生んだとしても、母子ともに病死するのが後宮なのだ。
だが、今回に関しては、オリビアは正妃の好意を獲得していた。
これが大きかった。
後宮でもっとも力を持っている正妃が、オリビアを引き立てた。
オリビアの望みもよかった。
後宮での立身出世ではなく、庭師としての権限が欲しいと言うものだった。
正妃イザベラは、オリビアを部屋子の長、局格としたのだ。
通常の局は、女官が個人的に雇っている部屋子を取りしきる責任者だ。
控えの間にいて、女官の衣裳の世話や話し相手をする上級部屋子。
雑用、特に女官の間のお使いをする中級部屋子。
部屋の炊事、掃除、風呂焚きなどの下働きをする下級部屋子。
オリビアは無給の下級部屋子から二人扶持の局格となったのだ。
これは生活面でとても大きかった。
残飯を食べ続ける事にすれば、二人分の食費、玄米六俵が手に入るのだ。
女官達には部屋子を雇うことを前提に扶持が与えられている。
基本給、衣装費、食事代とは別に与えられているのだが、後宮外の雑用をやらせる男、後宮外にいるのに部屋子とはおかしいが、男の部屋子の一人扶持は五俵。
女の部屋子は三俵なのだ。
だがなによりオリビアがよろこんだのは、広い庭を自由にできる事だった。
当然のことだが、後宮で最高位の王妃の部屋が一番広い。
広い部屋に付随している庭も、当然だが広い。
オリビアは倍といっていたが、以前預かっていた庭の十倍の広さだった。
しかも元々庭の世話をしていた部屋子を配下として使う事ができた。
人間関係、特に女の嫉妬が怖かったが、その点は正妃の眼が光っているから問題はなかった。
ジョージ国王と第一王子のジェームスがオリビアの花に興味を示している事で、その技を盗もうとする部屋子もいたので、オリビアを害そうとか虐めようとかする者はいなかった。
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