第2話

 欲深い?

 望み?

 確かに父は姑息で欲深いですか、今回の件とどう関係するのでしょうか?


「それは仕方ないことでございます、国王陛下。

 没落寸前の名ばかり伯爵家の当主は、常に家の利益を考えなければなりません。

 それが娘の名誉と命であろうと、家のためなら捨てねばなりません」


 ああ、父らしい。

 やはり父はこのような人でした。

 家の利益のためなら妻も娘も平気で売る人です。

 母もそのために死んでしまったのです。

 いえ、父に殺されたも同然です!


「分かった、分かった。

 最初からパーカーへの褒美は考えていた。

 この金を受け取れ。

 その代わり汚名は着てもらうぞ。

 いいな?」


 金貨でしょうか?

 まさか銀貨?

 あんな小さな革袋一つの銀貨が私の名誉と命の値段だというのですか?!

 

「うへぇ。

 娘の名誉と命、いえ、伯爵家の名誉も加えて金貨一袋でございますか?

 末代まで汚名を着るのに、一時の現金だけでございますか?

 国王陛下もご存じのように、私は浅学非才の身でございます。

 頂いた金貨を運用することもできません。

 どうか温情をもちまして、代々引き継げる褒美も加えてください」


 情けない。

 わずかな金と利権に執着して天下に恥をさらしています。

 いえ、今回の件が表に出ることはないでしょう。

 ですが、裏では確実に父の醜態が広まります。

 確かに伯爵家は没落寸前です。

 父に能力がないのも確かです。

 だからこそ、せめて、貴族の誇りだけは失って欲しくないのに……


「くっくっくっ。

 銭金がかかると雄弁になるな。

 だが余はパーカーのその姿は好きだぞ。

 なりふり構わず必死で伯爵家を守ろうとする姿がいじらしい。

 それに比べてスカーレットの態度は鼻に突く!

 貴族令嬢ならば、家を守るためのもっと貪欲になればいいモノを、清貧やであろうとか、敬虔であろうとか、役にも立たんことに拘りおって!」


 え?

 私が悪いというのですか?

 清貧であることや敬虔であろうとすることが悪いというのですか?

 信じられません!

 一国の王ともあろう人が、このような考えだったなんて!


「まあよい。 

 今日には死んでもらうのだ。

 国のため民のため、清貧で敬虔な死をとげてもらおう」


「陛下、我が家の名誉の代償は……」


「あ、そうであったな。

 クルー伯爵家は王家の魔境と隣接していたな。

 あの魔境の狩猟権を与えてやる。

 それならば永遠に伯爵家の収入になるであろう。

 ただし、冒険者や商人を介入させることは許さん。

 伯爵家の家臣領民だけの権利だ。

 分かったな?」


「ありがたき幸せでございます。

 ただ今回の話を真実にするには、もう一つ与えてくだされた方がいいと、今思いつきました」

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