第五十八話 偽りの魔女(後半)
別にいいんじゃないの? 憧れたものの形を真似るって割と普通よ普通。
要するにそれって有名なスポーツ選手の髪型を真似したり、陸上競技者の決めポーズを真似したりするのと同じじゃん。
むしろ真似するくらい憧れられるのは、そう悪い気分ではない。
自己投影は……うん。俺も昔やったな。
テレビで見る野球選手の活躍を見て、自分が球場に立って同じような活躍をして拍手喝采を浴びる姿とか妄想したもんよ。ほぼイキかけました。
頭の花飾りは……ああ、確かに何か似たような白い花飾りしてるな。でも少し枯れている。
ちなみに俺が普段頭に付けている花飾りだが、こっちも本物の花だ。
魔法であれこれして枯れないように細工した、この世界で唯一の『散らない花』である。
まあ、願掛けやね。ほら、この世界って『永遠の散花』だからそのカウンター的な意味合いで。
あと、実はこれはただの飾りじゃなくて予備の魔力タンクでもある。
この花は名前をアンジェロといって、花弁に魔力を多く溜め込む性質を持っている。
MPにして花弁一つで100くらいかな。合計七枚の花弁があるので最大で700のMPを補充しておける。
基本的には俺には必要のないものだが、備えあれば何とやらだ。
ちなみに地球にある同名の花とは全然似ていない。
見た目は白い花弁がまるで
この世界では七芒星は魔除けに効果があると信じられ、『7』という数字は縁起のいいものとして扱われている。
それは、7という数字がこの世界の魔法属性である火、水、土、風、雷、氷、光、闇の八属性から一つ……つまり闇を抜いたものだからだ。
で、モブ子が頭につけてる花だが……あれ、アンジェロじゃないわ。
ルチーフェロという名前の、アンジェロそっくりの別の花である。
見分けにくいが花弁の数は八つで、こちらは縁起が悪いとされている。
魔力を溜め込む性質はなく、代わりに花粉に毒を持っている。
死ぬような毒ではないのだが、陶酔感を伴う幻覚を見たり現実と空想の区別がつかなくなったりする、やばい奴だ。
実はこの世界では一部の国では麻薬の材料として扱われているらしい。
アンジェロと違って枯れにくく、長生きする逞しい花だ。
そんなのを頭に乗せてるからおかしくなったんじゃなかろうか。
まあ吸引しなきゃ無害なはずだが……。
「そして今度は魔女の真似事をするとは……。
何という愚か者なのだ」
レイラさん辛辣ゥ!
俺の物真似くらい許してやれよ。
別にそれで金稼ぎしてるわけじゃないんだしさ。
だが魔女の真似事は駄目だな。
特に騎士の前では絶対やってはいけない。
その行為の愚かさを例えるならば、警察署に行って、銃を持った警察官の前で本物そっくりの玩具のナイフや銃を持って『俺は人殺しをしてきた。次はお前だ』と言うようなものだろうか。
冗談や悪戯では決して済まされない。
「ふん……信じられないか。ならば見るがいい、我が魔女の力!」
モブ子が手を広げると、触手何本かがこちらへ飛んできた。
触手プレイがお望みか……しかしレイラの触手プレイは見たいが、俺が対象になるのは勘弁だ。
俺は見る専門なんだよ。
つーわけで魔法で一気に吹き飛ばしてやろうと手を向けるが……。
「エルリーゼ様に手は出させん!」
レイラが俺の前に出て、触手を剣で弾いた。
おいスットコ邪魔ァ!
更に触手が唸り、レイラを剣のガードごと殴り飛ばしてしまった。
続けて俺の方に触手が飛んでくるが、これを軽く光の剣で切り払った。
すると確かな手応えを感じ、地面に何かが落ちる。
切断した事で闇が晴れ、姿を露わにしたのは……美味そうなタコの足であった。
……ああ、なるほど。大体読めたわ。
「そういう事ですか。貴方の正体は既に分かりました」
全部まるっとお見通しだ!
正体を看破した事を突き付け、そして光魔法で闇を払ってやる。
すると出て来たのは、モブ子に絡みつく人間サイズのタコであった。
これはあいつだ。本来なら魔女戦の前座で出て来るボスのタコ。
三年前にはベルネルを誘拐しようとしていた奴だ。
そいつがモブ子を操って魔女を名乗らせているっていうのが今回の真相だろう。
俺が切断してやった足は早くも再生を始めていて、実にエコロジーである。
こいつをタコ焼きの材料にすれば無限に食えるな。
「魔物……!」
「いえ、大魔です。そして、今回の行動の意図も読めました。
大方、そこのエリザベトさんを使って魔女を名乗らせ、私達の矛先を学園からずらそうとしていたのでしょう」
魔女の正体はアレクシアである。
したがってアレクシア以外に魔女を名乗らせても何の効果もない。
騙るならばせめてアレクシアを名乗らせなければ無意味だ。
だがそれは、既にアレクシア=魔女という事を知っている俺達の視点での話だ。
こいつは俺達が知っている事を知らない。
だから他人に名乗らせるなどという、間抜けをやってしまうのだ。
タコの視点で考えるならば、まだバレていない
だが、それがこんなバレバレの破綻した計画を生む事になる。
「何を言うかと思えば……大魔を従える我が魔女でなくて何だと……」
モブ子……いやモブ子の口を使ってタコがまだ未練がましくモブ子=魔女設定を信じさせようとしてくる。
だがアレクシア=魔女という事を既に知っている俺達としては、もうその設定は信じるべき要素などどこにもないのだ。
とはいえ、向こうはどうやら俺達が知っている事を知らない様子。
ここで無駄に『既に魔女の正体はアレクシアだと知っているZE☆』と言うのは簡単だが、そりゃ迂闊というものだろう。
どこから情報が洩れるか分からないし、 盗聴器のようなものがないとは言い切れない。
俺と同じように魔法の応用で声を拾っている可能性は……それなら俺が気付くが、ゼロと断言は出来ない。
漫画とかでもそうだが、勝利を確信した時の無駄話というのはとんでもない負けフラグだ。
『冥途の土産に教えてやろう』とか相手の誘導に引っかかって無駄に情報を吐いたりとか。
俺はそういうのは、なるべくやりたくはない。
だからここは、それっぽい事を言って煙にでもまいておく事にしよう。
「貴方には聞こえないのですね……助けを求めるその子の声が」
俺にも聞こえねーけどな!
とまあ、アレクシアの事は一切教えずにモブ子のせいにしておいてやった。
俺が真実に辿り着いたのは、既に魔女の情報を持っているからではない。
助けを求めるモブ子の声が聞こえたからだ!
そう言うと、モブ子の目から涙が溢れた。ワロス。
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