第41話『おばあちゃんの若返りと50個のキーホルダー』

 俺は夜間の魔導学院の勉強をこなしたあとで、

 宿屋の自室でリルルに講義で話されていた内容を要約して伝えていた。


 俺が、ノートで書く棒人間のイラスト付きのノートで説明すると、

 リルルは理解できるようになるようである。

 もちろん、教えることで俺の理解も深まる。


 俺自身には魔力の素質がなかったみたいだが、

 新しい知識を得られるので無駄だとは思っていない。



 まあ、前世も大学に通う金銭的な余裕はなかったけど、

 その代わり図書館通いは続けていたから、

 基本的に俺は何か新しい事を知るのが好きなのだろう。



 そんな自己分析をしていた。



「よーし! 俺氏、経験値10倍キーホルダー作っちゃうぞー!」



 古き良き時代を彷彿させる往年の吉野家コピペのノリで、

 めっちゃ一生懸命にキーホルダーを作りまくった。



「うむ……悪くないデザインだ!」



 無印○品とかで380円くらいで売ってそうなクオリティーだ。

 無個性でクラシックな感じが洗練された感じを感じさせるデザイン。

 これは確実に380円で売れるクオリティーである!



 真面目な話をするとリルルのアドバイスを受けて、

 あんまり装飾を凝らないほうが日常使いには良いと聞いていたのだ。



 元々はメイドさんだけに渡す予定だったのだが、

 鍛冶師さん、服飾師さん、道具屋の孫娘さんの分も作るので、

 年齢や性別に影響されない男女兼用で使える感じのシンプルなデザインにしたのだ。



 我ながら良い感じで作れたと思う。


 徹夜でキーホルダーを作った後、リルルと一緒にまずは孫娘さんに会いに行った。

 というのも最終工程でお願いしなければいけない事があったからだ。



「ちょっと。このキーホルダー50個に付与魔法をかけて欲しいのだけど」



「おー。お久しぶりっす。50個? 余裕っす。何を付与して欲しいっすか?」



「"譲渡・売却不可・アイテム詳細はブランクに変更"お願いできるかい?」



「余裕っすけど"アイテム詳細ブランク"っつーのは……ああ、理解したっす。確かに経験値10倍増はやべーっすからね。防犯上の観点っすか?」



「まあ売却されることは無いにしても、落としたり盗まれたりはあるかもしれないから念のための処置という面もあるけど、今回はちょっと違うかな」



「へー。もったいぶらずに教えなよ」



「これをプレゼントした人が、"自分が成長できたのはこのキーホルダーのおかげ" とか妙な負い目を持つと可愛そうだなと思ったんだよ。新たに来たメイドさんのことな。ある程度成長するまでは、自分の力で成長したという実感を持って、極わずかでも自信を取り戻して欲しいんだ」



「ああ……あの子たちも、新装開店のメイド喫茶で頑張ってはいるようだけど、仕事を覚えるのに苦労しているみてーだからな。そっか、そういう事なら了解だよ。理由を教えてくれてあんがとな。んじゃま、茶でも飲んで待っているっすよ~」



 鍛冶師のオッサンが道具屋の孫娘に惚れるのも少し分かった。


 豪胆な男とマッドサイエンティスト系とで、ちょっと珍しい

 組み合わせだと思ったのだがそういう事ではないのだろう。

 他の部分に魅力を感じていたに違いない。


 研究に関する熱意はちょっと狂気を感じるけど思いやりのある子なのだな。

 メイド喫茶で急に働きに来た女の子たちのことを気にかけてくれたのも、

 俺的には嬉しいことだった。



「そんじゃ。キーホルダー1個あたり金貨1枚なー!」



 すまん。訂正したくなった。金貨50枚。

 500万かよ……少しはまけろよな。



「やっぱ、商売人の孫娘だなぁ……」



「ああん。なんか言ったかぁ?」



「いや、何も」



 まあ、そんなこんなのやり取りがあったが、

 わずか30分ほどで仕事を終えてしまった。


 たった30分で500万円……時給だったら1000万円の仕事。

 すげーな。


 まあ、早くて仕事も完璧なのだから文句は無いが。



「あいよー。持ってけドロボー!」



「そのうちの1つは、君の分だよ」



「マジかぁ? あんがとな! まあ、ピタ一文まけねぇけどなっ!」



 前歯を見せながらニシシと笑っていた。

 まあ、なんというか面白い子ではある。



 ちなみに、たとえば衛兵さんへの寄贈用のミスリルの剣☆の付与。

 つまり、おばあちゃんの道具屋にとってメリットになる商品の付与は

 無償でやってくれる。


 だから、今回も無償と無意識で考えていたのだが、職人仕事が

 ただのわけないよなぁと思い直した。


 今までの"無償の効果付与"はおばあちゃんの仕事に直結するから、

 無償で仕事を請け負っていただけだったのだ。


 ちなみに衛兵への寄贈用のミスリルの剣☆に付与されている効果は、

【譲渡・売却・ダンジョン内での使用不可】である。


 錬金術師の孫娘さんが付与してくれるが無ければ衛兵から冒険者に

 転職する者も増えていそうだったので、孫娘さんの配慮は正しかった。



「それじゃ、おばあちゃんに挨拶行ってくるわ!」



「お忙しい中、ありがとうございましたっ」



「あいよーっ!」



 椅子に座ったまた後ろを振り返らずに、

 手だけを上に上げて左右に振っていた。


 俺は、道具屋の奥で帳簿と睨み合っているおばあちゃんに挨拶をする。



「こんばんは。おばあちゃん、体調はどうですか?」



「腰痛とか、肩こりはまったく問題ないのだけど、ちょっと白内障が入ってきたせいか目が霞んで困っているよ。もう年かねぇ。ははっ」



「今日はっ、おばあちゃんのために、特別性の回復薬をお持ちしました」



「……えっと、あの。超治癒の回復薬かい? 伝説の回復薬かい?!」



「それです。ダンジョンで拾ってきたので、この場で全部飲み干してくれるというなら、おばあちゃんにプレゼントしますよ」



「良いのかい? そんな貴重なものを?!」



「はい。もちろんです」



「もちろんですっ。おばあちゃんには、いつも、お世話になっておりますのでっ!」



「それじゃあ、ありがたくいただくよ」



 ゴクゴクと飲み干す。


 おばあちゃんの全身の体が薄緑色の光に包まれ、

 全身の体の不具合が修正され、最適な体に再構成される。


 背筋もまっすぐ、肌艶も完璧、白髪の髪から若かりし頃の銀髪に戻る。

 眼球も完全に修復されている。経年による肌の染みも全部無くなっている。


 歯も全部抜け落ちて、代わりに新たな歯が生える。

 矯正をされたかのように完璧な歯並びだ。


 外見は80歳から60歳くらいまでの若返りに

 とどまっているが、内臓や骨の軟骨や脳などの目に見えない

 内面は全盛期20代の頃のものである。



「これは……すごい! ありがとうね! リルルちゃん、レイちゃん」



「お誕生日おめでとうございます! おばあちゃんっ!」



「サプライズプレゼント喜んでもらって良かった! ハッピーバースデー!」



「私にとっちゃあ、最高のプレゼントだったよ」



「いえいえ! おばあちゃんにはこれからも新しい従業員さんの分も頑張ってもらわないといけないですからね。それでは、本題なのですが俺とリルルが力をあわせて作ったこの"経験値10倍"のキーホルダーをおばあちゃんの手で渡してほしいのです」



「もちろんお安い御用だよ」



「49個あるので、メイド喫茶の従業員さんと、鍛冶師さんと、服飾師さん、あとはおばあちゃんが贔屓にしている人に渡してください。あっ、孫娘さんには先に渡しておきましたので。あくまで、おばあちゃん名義のプレゼントで渡してください」



「了解したよ。そうさね。とりあえず、道具屋の衛兵支部の支部長にでもプレゼントするかいね。あとは、まあ悪さをしなさそうな人に渡すよ」



「ぜひぜひよろしくお願いします。――それでは商売の話に移りましょう。ミスリルの剣を新たに500本ほど仕入れましたので買い取りをお願いします!」

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