羅漢拳外伝

@tunetika

第1話

第一回

はじめ

 いつの世でも身体の健康を保つことが貧富の違いもなく人間にとっての最大の関心事かも知れない。いつまでも健康な肉体と老いることのない体力を持てたらと人は夢を持つ。

その行き着く先は不老不死ということになるだろう。だから天下を統一した秦の始皇帝は詐欺師に騙されて黄金、玉を貢いだ。詐欺師の方は不老不死の妙薬を探しにいくといって海を隔てた東の島国にとんずらした。詐欺師の行き着いた先は顔に入れ墨をいれて相手を威嚇しよう、もしくは病気にかからないようにしようという迷信に凝り固まったとんだ未開の地。

始皇帝のほうは一国の富を全て握って巨大な宮殿や巨大な墓をおったてて剣ややりで民衆を脅かして国民が隠し持った金は全て自分の宝蔵にかき集められるだろうから、ちゃちな詐欺師に騙されて宝の一部を盗まれたくらいでは屁とも思わないだろうが、絶対的な権力を自分一人で握っていた絶対君主でもやはり長生きをしたい、不死の命を願うのは一介の市井人と変わらないとみえる。

呪術、まじないから出発して神や呪いを卒業した人間は体系的実践的現実的な人間の身体に関する処方を確立し始めた。それが医術である。しかし医術の進歩のかげには華岡青州や解体新書を著した前野良沢、緒方洪庵の例をださないまでもいろいろなドラマがあったことだろう。

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ふたりの王女

「お姉さん、シュサが通るわよ。」

「どれどれ、ちょっと頭を下げてよ。」

姉らしい女性は妹らしい女性の頭の上から外の景色を見下ろした。外にはこの邑一番の美しいまだ十七になったばかりの若者シュサが木製の鍬をかついで通り過ぎた。その姿を見た二人は胸をときめかせた。二人が若者を見下ろしたと書いたのは二人が校倉造りの地上より三メートルも高い位置から下の様子を見下ろしていたからである。この二人は姉妹と言っても姿かたちはうり二つの双子だった。この校倉造りの建物は杉を製材して造られた神殿であり、この二人の姉妹が降霊をおこなう御子ということになる。しかし二人はまだ十六才のうら若い乙女だった。ここは王宮であり、この国の中心だった。この王宮を含めた政治的経済的な共同体は国と呼ばれ、国はさらに細分化された邑より成り立っていた。この宮殿はこの校倉造りの神殿を中心にして三百メートルの円形の敷地のなかに二十数個の家屋がある。神殿は杉を黒曜石を砕いて作った石器で製材して作ったものだったが他の住まいはすり鉢を伏せた形をしており、その屋根は太い竹を骨組みにして骨組みの間には茅を詰めている。藁葺き屋根だった。その家屋の形は屋根の部分しかない蓑虫の住んでいるテントのようなものに見える。そして家のなかには土間に直接囲炉裏が切ってある。それらの家屋が二十数個、この区画内に集まっている。それはこの宮殿を守る兵士の住居となっている。それより小規模な邑がこの地方に十数個ある。そこでは畑や田圃があって農作物の生産がなされている。これらの邑々は政治的経済的に連結していてその邑同士の共同体は国と呼ばれその中心はこの宮殿であり、そして全ての中心はこの神殿であり、そこに住むこの双子の女王を中心にしていた。政治的にはこの二人の娘がシャーマンとして神の託宣をこの国の住民に伝えるのである。それはしばしばこの国の天変を言い当てた。そしてこの姉妹の下に軍事経済的実務をあつかう長がいる。しかし女にしか降霊現象がおきないのか、この姉妹の前はこの神殿には一人の女王が住んで託宣を住民に与えていた。その女王も二代前に死んだ。この二人はこの女王の近い親戚に当たっている。前の女王と同様にこの二人はこの国に神懸かりの託宣を与えていた。したがってこの二人は女の子であると同時に神なのであった。二人とも邑人と接することは禁じられている。身が汚れて神力が失せるからだ。しかし乙女ともなると異性に関心をもちはじめるのは当然でこの二人はこの国一番の美しい若者であるシュサにこころ惹かれている。そのためにその若者が眼下を通り過ぎたのでこころときめかせた。姉のほうの名前はウナ姫、妹のほうの名前はウサ姫と言った。二人の違っているところと言えば外見的にはほとんどない。しかし性格は微妙に違っている。そしてもう一つの違いと言えば姉のほうが鹿を飼っているところだろうか。

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