第二十話 後輩と本性4
桜祭
桜ノ丘学園で二学期に行われる体育祭、文化祭を総称した呼び名だ。
そして、その実行委員を桜祭実行委員会と呼ぶ。
二学期はイベントが立て続けに開催される、年間で一番の過密な日程になっている。
九月に体育祭、そして生徒会選挙。
そして、十月の暮れから十一月初旬の間で文化祭が行われる。
それに加えて通常のテスト期間や二年生は修学旅行と、ハードな学期でもある。
体育祭と文化祭の間隔が短いことから、我が校では各々で実行委員を分けることなく、二つのイベントを一つの実行委員会で運営するのが習わしとなっていた。
当然ながら、活動には生徒会も参加する
けれど、実行委員にではなく立場としては生徒会役員、生徒の代表として実行委員の活動が適切であるか、進行状況に不備はないかを確認するのが主な活動内容なのだが。
ともかく、生徒会も活動には参加するのだが、その中心となるのは桜祭実行委員であり、その組織を率いる委員長は毎年生徒会長が指名して決まることになっていた。
それは、柊茜だからというわけではなく、毎年そのように決まっている。
一種の伝統のようなものだ。
起源がどのようで、何故そのようなルールになったのか知る教師は数人くらいだとか。
期間限定ではあるが、実行委員の長として白石を推薦することが、俺の出来る協力という行動である。
本質は何も解決していないが、妥協できなくもない曖昧な解決策。
誰かが一方的に得をすることなく、大きな損もしないような選択。
平和的解決と言えば聞こえはいいが、結局のところ話の方向性を逸らして誤魔化しているだけなのだろう。
「そこに神崎や怜、荻原を参加させるということか」
「……そこは説得できるか正直分かりませんが、まあ何とかなるでしょう」
断言できないが、そこは何とかしなくてはならない。
前提条件として、彼らの参加は必須になる。
円滑な運営進行と、白石をその気にさせるという点でも、絶対に必要な人材だ。
交渉材料としては、自己犠牲の精神で頼めば大丈夫だろう。
……綺羅坂が何を言い出すのかが分からないところだけ怖いが。
「では、白石は実行委員長に立候補させて、生徒会長選挙は諦めさせると?」
会長は口元に手を当てて問いかけた。
確かに、話の流れ的にはそうなるだろう。
「いえ、選挙には出します」
これだけは、声を強めて告げた。
会長は、ただ静かに継いで出るであろう俺の言葉を待っていた。
「結果がどのようになるとしても、勝敗はハッキリとさせます」
これは気持ちの問題だ。
あの時、選挙を辞退しなければ、相手が辞退したから生徒会長になれた……なんて、後悔の元になる要因は排除すべきだ。
だから、選挙はちゃんとした形で行う。
どちらが会長になるのか、厳正な選挙により勝敗を決める。
俺の言葉を聞いて、会長は安堵したように息を零した。
「今から辞退をされるのは私としても困るのでそのほうが助かる」
それに、と会長は続けて話す。
「何もせずに会長になるより、選挙で勝って会長になる方が彼らの成長にも繋がる」
どこか説得力のある声音で会長は言った。
成長に繋がるかどうかは、俺には分からない。
経験した人にだけ分かる進歩なのだろう。
話の大筋を把握した会長は、瞑目して室内は再びの静寂が訪れる。
すかさず、言っておかなければならない問題点を会長へ伝えるべく口を開く。
「それで……会長選で落選した方を副会長にそのまま据えるのは難しいですか?」
今回の話を聞いた時から気になっていた。
今後、副会長は誰がなるのか。
必然的に三浦がなるのかとも考えたが、そんな話は昨日と今日の段階では出てきていない。
会計のまま、来年も在籍する予定と考えるのが妥当だろう。
俺の問いに会長は首を横に振った。
「いや、それ自体は何の問題もない。前例が無いわけでもないから、教員も規則とは言え立候補者がいないのであれば文句も言うまい」
……ただ、そう告げてから継いで出たのは、俺も周知の内容だった。
「白石の考える生徒会では彼ら三人の誰かになるのだとこちらも思っていたものでね……これは白石の考え次第といったところか」
「……」
確かに、こればかりは白石事態を説得して考えを改めてもらうしかない。
俯いて、白石にどう話を進めればスムーズに説得が出来るか考えていると、会長が席を立った。
「とりあえず、実行委員長の話は分かった。私も前向きに検討しておこう……けれど、問題は選挙が優先だ、白石の考えが変わるかどうか……何か進展があれば教えてくれ」
そう言うと、会長は俺の肩に手を置いて笑った。
小泉と白石、どちらの側にも立たない人間が長々と話をしたところで、憶測の域を出ない。
先に生徒会室から出ようとしていた会長は、振り返ると含みのある言い方で最後の言葉を残した。
「”友達”にも相談すると良い……一人で考え詰めても進展がない時もある」
そう言い残すと、会長は生徒会室を後にした。
残された教室で、友達という言葉から最初に浮かぶ人を想像する。
ニヒル顔でからかわれる自分の姿が容易に想像できた。
……なぜだろう、あいつに頼みごとをするのに抵抗感があるのは。
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