第2話 定番はやっぱりギルドという事で

 丘を下り、街、イナルへと向かい、行った事もないのにヨーロッパを意識していまう城門を越え、メインストリートらしき場所を2人で歩いていた。


 辺りを見渡すとクリームちゃんと似たタイプのケモ耳から丸いのから長いウサギのようなものまで多種多様の耳をした獣人とすれ違った。


 うーん、俺のような人がほとんどいないな……やっぱり獣人の国だからかな?


 今は見当たらないがエルフもドワーフもいるのかな? と独り言を洩らしたらしく「はい、います」とクリームちゃんに返事されてしまった。


 俺は通りにある店先を覗きつつも、この世界の事をクリームちゃんに質問していると、


「えっ? モンスターがいるの?」

「はい、畑を荒らす程度のモノから人を襲うモノまでおります」


 少し驚く俺の反応を見て、「主様の世界はモンスターがいない安全な所でしたのですね……」と悲しそうに呟くクリーム。


「危険な世界にやってきて右も左も分からない主様を蔑ろにして、私は浮かれて……」


 俯いてクリームが耳をペタンとするのを見て俺は慌てて、問題ないとばかりに大袈裟に手を振ってアピールした。


「クリームちゃんが気にする事、ないない。正直な話、こういうのに憧れた事もあるんだ。それにね……」


 しゃがんでクリームと目線を合わせるが、すぐのソッポ向き、口許に人差し指と中指を開いて当てる。


 『火の型』と呟き、小さな火を生みだし、少し驚いた様子のクリームに笑いかけた。


「平和な世界じゃ使い道がなかったから、不謹慎かもしれなけどちょっとワクワクしてるんだ」

「主様、お口から火が吹けるのですね!」


 落ち込んでいた様子から一転、円らな青い瞳をキラキラさせるクリームに見つめられて、ちょっと……いや、かなり得意気!


 火だけじゃないんだよ~? 水だって雷だって色々出来るんだからぁ!


 まあ、真面目な話、嫌々といえどジジイから『藤堂風水術』の習得をした。したと言ってもジジイとはレベルは違う訳だが、やっぱり俺も男の子だったわけで……


 使いたいと思った事も1度や2度じゃない。


 勿論、この力を使ってクラスのあの子を助けて、見つめ合う2人。


「だいちゅき、だいて!」

「ヨロコンデェェェ!!」


 めくるめく恋に身を焦がして、ふぉーりんらぶぅ



 Congratulations!



 ぐふっふふ


 はっ! クリームちゃんが俺を不思議そうに見てる!


 いかん、いかん、こんな邪な俺を見せる訳にはいかない!


 俺は格好いいお兄ちゃんであらねばならんのだからっ!


「まあ、そんな訳で問題なしさ」


 キラッと歯を輝かせて、主様からお兄ちゃんにクラスアップしてもええんよ? と見つめる。


「でしたら、主様はギルドに登録された方が良いかと思います」


 掌を合わせてニッコリと笑ってピョンと飛んで近寄るクリームちゃんが可愛い。


 お兄ちゃんというクラスアップは見送られたがこれが見れただけでもお兄ちゃんは幸せだよ?


 ホントだからと自分に言い聞かせて「ギルドって?」と聞く。


「ギルドとは、定住しない、しないかもしれない人向けの仕事の斡旋所が適当でしょうか? 先程、申し上げたモンスター討伐、採取など、後、行商人が所属してます」


 小説やアニメであるような冒険者ギルドみたいだな。でも行商人が所属してるってそれも良くある身分証明書代わりなのかな?


 それを聞いてみたところ、そういう人もいるそうだが一番の理由を聞かされてびっくりした。


「行商人が所属している最大の理由はアイテムボックスの取得と拡大です」

「ええっ! ギルドに所属するとアイテムボックスが手に入るのか!」


 驚く俺は異世界ネタで定番化しているアイテムボックスと同じモノなのかを確認したがどうやら同じモノで、ランク毎にアイテムボックスの保有量が変わるそうだ。


 しかも、行商人には嬉しい話でアイテムボックスはギルドカードという俺達が財布に無駄にあるポイントカードサイズのモノに付加されたもので嵩張らず、登録者本人、もしくは、ギルドの特定の資格を有した者しか取り出せないといったセキュリティ。


 街から街へと旅する行商人には色んな意味で有難い代物でほぼ100%の行商人は登録しており、行商人に限らず地元の商人も登録しているらしい。


 まあ、当然だよな。


 俺が行商人の話に食いついたのを見たクリームちゃんが微笑みながら説明を続けてくれた。


「この行商人のランクの上げ方、そしてアイテムボックスの維持条件が凄いんですよ?」


 聞かされた俺は思わず唸ってしまった。上手い循環方法だと。


 モンスターなどを狩る者達、討伐者と区分されるらしいけど、これは依頼達成率やその難度が査定されるらしいが、行商人は違う。


 行商人はいかにギルドに仕事を依頼したか、である。


 つまり、ギルドにある依頼の大半はギルドに所属している行商人、もしくは地元の商人である。


 勿論、一般の依頼や貴族の依頼なども混じるが数字的にそれと比べると小さい。


 基本、月に1度、依頼をすれば最低ランクは維持出来る。


 なので依頼は常に種類はともかく潤沢にあり、経済が回り続けているらしい。


 更にこのギルドの凄い所は、行商人と一言で言っても、駆け出しも居れば、ベテランもいる。


 ベテランとなれば依頼を護衛依頼をして安全に旅をしたり、特殊な素材を大枚を叩いても手に入れたりと依頼を出す機会は多いだろう。


 しかし、特にネタがない場合や駆け出しはどうだろう?


 特に欲しいモノがないが依頼しなくちゃならない、駆け出しで余計な出費は避けたい。


 そうなると儲けも損もないような簡単で誰でも出来る依頼、採取、薬草採取などを依頼するようになり、そこが素晴らしいとクリームは言う。


 そう、誰でも出来る、子供だって。


 捨て子、ストリートチルドレンが定職に付けずともギルドに行けば、今日という日を繋ぐ糧を得る術があるという事だ。


 このシステムが出来上がって以降、ストリートチルドレンは急激に減少し、伴って犯罪率も低下したらしい。


 ギルド、すげぇぇぇ!!


 途中まで聞いてる時は冒険者ギルドと商人ギルドがくっついたようなもんかと思ってたけど別物じゃん。


「こりゃ、登録するしかないよな!」

「うふふ、主様のお気に召して何よりです」


 幼い子に小さな子供を見つめられるようにされた俺は少々、いや、かなり恥ずかしい。


 でもよ、楽しみ過ぎて頬が緩むのを止められないって!


 そんな俺に少し悪戯をするお姉さんの大人びた笑みを見せたクリームちゃんが人差し指を立てる。


「ギルドに登録する大きなメリットはアイテムボックスだけじゃないんです」

「えっ! まだ何かあるの? 教えてよ」


 我ながら前のめり過ぎだとは思うがクリームちゃんの顔を覗き込むが柔らかい笑みを浮かべて小さく細い人差し指を自分の唇に当てる。


「内緒です。続きはギルドで伺いましょう?」

「マジで? 引っ張らずに教えてよ」

「それほどお待たせしません。何故なら」


 クリームちゃんは右斜め前に掌を向ける。


 向けられた先にはしゃれっ気もない無骨なレンガ造りの建物、まったく違うはずなのにどこか役場を連想させるがあった。


「ギルドの前までやってきてますので……本職の方の説明を受けましょう」


 クリームちゃんとその建物の前まで来ると見上げて看板を見上げる。



『アウトローギルド』



 ここが、クリームちゃんに説明された場所か。


 俺はクリームちゃんに先導される形でアウトローギルドの扉に触れる。


 少しドキドキする胸を押さえながら俺は扉を押す力を入れ……あれ? そういえば異世界なのに日本語だったけどええんやろうか……


 一瞬、沈黙した後、静かに被り振る。


 細かい事を気にしたら負け、という事で考えないようにしようと心に決めると先程まであったプレッシャーは霧散して先にクリームちゃんを追ってアウトローギルドに入った。

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